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#8 スペイン盗難事件

俺は旅に飽きていた。
日本を出て半年の月日が経つ
非日常的な毎日
変化することに
慣れてしまっていたのだった

人間というものは
無い物ねだりで贅沢なもんだ
ここは美食の国 イタリア
なのに節約の為に
宿のキッチンでパスタを茹でながら
情けなく感じていた

憧れの世界一周
ロマンを追い求めて
ここまでやっと来たが
ついに心のコンパスであった
ロマンが枯れてしまったのである
そんな時にこの旅一番の
大事件が起きてしまった


新しい刺激を求めやって来た
スペイン バルセロナ
あの有名なサクラダファミリアを前に圧倒されたが
物価の高さがと
美しすぎる街並みに
ゲンナリしてしまうのであった
その夜、俺は移動の為
バスステーションでバスを待っていた
東南アジアとは違い設備の整った
綺麗なバスステーションだ
俺はその綺麗な環境に
完全に油断しきってしまっていた
旅の慣れからくる油断
そうこの夜俺はサブバックを盗まれ
一瞬にして無一文になってしまったのだった

バルセロナといえばスリが有名。
という事は後から知った
数多くの日本人旅行者も
被害に遭ってるらしい
まさか自分も被害に遭うなんて、、

頭が真っ白になった。
現金もカードもカメラもパスポートもない
宿にも泊まることが出来なければ
ここから移動することも出来ない
失ったものがあまりにも多く
途方に暮れるかと思えば
案外開き直っている自分がいた。
こんなピンチだからこそ
なんだか面白い旅が出来る
そんな予感がしていたからだ

不幸中の幸い、
俺にはトルコで出会った
スペイン人の友達イグナシと連絡がついた
彼はバルセロナ郊外に住んでるというので
連絡して居候させてもらう事にした
彼がいなかったら
俺はバルセロナの路上で過ごす事になってただろう
まさに命の恩人。
持つべきものは友という言葉が染み渡った
それまで当たり前だった
衣食住が整うという環境に
この上なく感謝した
そしてパスポート再発行の費用を稼ぐ
べく新たな挑戦を決意した


”バルセロナの路上で書道をして稼ぐ”
当日の朝、
勢いよくイグナシの家を飛び出し
バルセロナ中心地へと向かった
新たな挑戦を前に
不安とワクワクで胸がいっぱいだった
いつぶりだろうこの感覚。
世界一周が始まる時以来の
武者震いかもしれない
人は自分のキャパを超える時に
武者震いをするものだと思っていたが
今回の挑戦は間違いなく
自分のキャパを超えていただろう
向こうの人からすると
アジア人がたった一人で
路上に座り奇妙な文字を書いている
街ゆく人達の冷たい視線が
容易に想像出来てしまい
気がつけば場所選びという名目で
二時間が経過していた

完全にビビっていた。
失敗や恥をかくのを恐れて動けずにいたが
半ば吹っ切れて
書道セットを広げ路上に腰をかけた
すると想像とは裏腹に
街の人達は自分の事を
全く気にかけていなかった
忙しなく過ぎていく大都会に
溶け込んでいくかの様で少しホッとしたが
これじゃいけないと思い
元気に声をかけていく事にした

Hola ! Hola ! ~

暫くすると一人の女性が
不思議そうにこちらを見つめて立ち止まっていた
元気よく挨拶をしてみると
笑顔で駆け寄って来てくれたので
名前を聞いて漢字を書く。
初めての緊張で
手先が震えてしまったが
なんとか書ききり手渡しすると
満面の笑みでグラシアス!(ありがとう)
と言って3€を渡してくれた
金額はチップで決めてもらっていたけど、
こんなに喜んでもらえると思ってなくて
それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
誰かを喜ばせる事が出来る喜びを知った
それからというものの
多くの人が興味を示してくれて
漢字を書き続けた
途中から本当に
お金なんてどうでも良くて
皆んなが喜んでくれたり、
雑談するのが楽しみで
路上に座る様になった

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夢中になって書道を三日続け
気づけばパスポート代も余るくらいの金額が集まった
スリに遭い、
多くのものを失ったけど
沢山の気付きがあった
当たり前の有り難みを忘れて
惰性で旅をしていたという事
人を喜ばせる事が
こんなにも楽しい事だという事
そしてこれからの人生、
失敗してドン底に落ちることもきっとあると思う
でもその中でどれだけ日々に感謝して楽しめるかが良い人生を送る鍵だと気づく事ができた
全ての事件は学ぶ為に起こる事だ
どんな時も楽しみ、
楽しませる事を忘れない精神を学んだ気がする

グラシアス、スリ野郎。



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