ある詩人に憑依されたこと

2019年その詩人は 石巻市の鮎川という街にあるホテルの部屋で詩を書き続けた ある芸術祭に招待されたことを契機に 詩人はそれを始めた 部屋で1人 窓から見える金華山と向き合いながら 浮かんできた言葉を窓に書く 換気扇から部屋に霊気が入ってきて それを言葉として定着させる それを一冊の本にまとめる その過程で得た直感により 詩人は自動筆記によりパフォーマンスを行い インスタレーションを試みる ビデオの中でその詩集の最終校正をしていると話していたから まさにその詩集にこめた思いを全て収めたパフォーマンスだった 僕はこの詩人に憑依された 翌年 僕は石巻に出かけた 友人が国際芸術祭のキュレーターに就任し それを観にいくためだ 
2冊目の詩集の執筆の最中に 性懲りも無くその詩人は僕の前にあらわれた 彼は鮎川にまだ通って詩を書いていたのだ その日その詩人が石巻に来るという噂を聞いた 僕はそのホテルに出かけ その部屋で1時間過ごした ニアミスだった ご縁がないと諦めた 僕は2冊目の詩集を出版し 大阪文学学校に入学した 小説を勉強するためだ そして今年の4月 3冊目の詩集の完成間近 彼が大阪で講演することを知った 学校の同級生(とは言っても30以上年下だが)と同人誌を始めることにした矢先だった 彼らもその詩人が好きだったので 一緒に参加した 翌月 その詩人は東京で パフォーマンスをすることを発表した 僕はそこに出かけることにした 虎ノ門 そして主催者は僕の大学の後輩だ 3冊目の詩集『ピルグリム』が出来上がっていたので それを詩人に渡した こうして彼とだいぶ距離が近くなっていることを感じる この詩人は 東日本大震災から逃げなかった おそらく自分の後半生を被災者を弔うことにかけようと決めているのだと思う 最後の詩集と言われている真っ黒な表紙の詩集は マラルメレベルに難解で 何度読んでも理解はできない しかし 彼のパフォーマンスを見て 彼が被災者と向き合っていること 東北としっかりつながろうとしていることを知った その詩人とはお気づきのように吉増剛造のことである

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