魔薬
「生徒になめられてはいけない……。」
あなたはそんな意識を強くもっていませんか。
どうも中学校の教師はこの意識を必要以上に抱いている、そういう傾向にあるように思えます。もちろん小学校の先生も高校の先生もそういう意識を抱きはするのですが、中学校の先生にはその意識が特に大きいようです。
小学生には教師が怒鳴ることによって怯える児童がたくさんいますし、それが保護者のクレームにつながることも少なくありません。高校生には教師が怒鳴ることによって一方的に価値観を押しつけることを批判的に捉える生徒たちがたくさんいます。どちらも教師が怒鳴る教育に頼ることの歯止めとして機能しています。
その点、その中間にある中学生は大人になりかけていながらもまだまだ子ども……。教師が怒鳴ることによって萎縮し、取り敢えずは言うことを聞くことが多い。その結果、中学校にはどうしても「怒鳴る教師」の数が多くなっている、というわけです。しかも この傾向は老若男女を問いません。
しかし、怒鳴ることは長い目で見ると効果のうすい対処法なのです。生徒たちも人間ですから、教師がいつも怒鳴っているとだんだんと怒鳴られることに慣れていきます。みなさんも1年生のときは怒鳴ることによって生徒たちに言うことを聞かせていた教師が、2年、3年と生徒たちが成長するにつれてだんだんと乗り越えられていく……そんな事例をたくさん見ているのではないでしょうか。
怒鳴ることは確かにその場をおさめることには有効かもしれません。しかし、その場はその場だけで完結しているわけではありません。明日にも数ヶ
月後にも1年後にもつながっているのです。こういう意識をもったとき、怒鳴ることはその場しのぎの、実は教師が楽をするための指導方法であることが見えてくるはずです。
世の中では、様々な教育技術が教育書やセミナーで紹介されています。その中に教師に怒鳴ることを奨励するものはおそらく一つもないでしょう。それは生徒たちを怒鳴って制止することが長い目で見ると効果が上がらないからなのです。
教師にとって怒鳴ることはある種の「魔力」をもっています。「麻薬」のようなものです。困っているときに確かにその場をしのげるわけですから。しかし、怒鳴ることに慣れ、怒鳴ることに頼り始めた瞬間、実は教師の堕落が確実に始まっているのです。
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