時代への想像力をもつ
現在、男性の三人に一人が生涯未婚の人生を送るだろうと言われています。
女性の四人に一人が生涯未婚だと言われています。
更には、結婚した夫婦の三組に一組が離婚する時代です。
自殺者は年に三万人。これは遺書があったり動機が明確だったりと自殺と確定できる変死の人数に過ぎません。行方不明者は七万人とも十万人とも言われています。
あなたはいま、運良く、世の中で安定していると言われる職業に就きました。あなたの親御さんもきっと喜ばれたことと思います。
しかし、あなたの担任する子どもたちの将来はどうでしょうか。現在、出生率は一・四前後で推移しています。高齢化社会が更に進みます。非正規雇用問題に伴う格差社会が問題視されていますが、独身男性の平均年収は三○○万円を割り込み、専業主婦は年を追って成立しなくなっています。官公庁は常に夫婦と子ども二人の核家族をモデルケースに説明しますが、核家族世帯は既に三十パーセントを割り込み、変わって単身世帯が三十パーセントを上回りました。
あなたが担任する子どもたちの学力形成をうまく機能させられなかったら、その子たちの生涯収入が落ちるかも知れません。前年度までにいわゆる落ちこぼれてしまっている子に、あなたが「この子をなんとかしよう」とする場合と「この子はこういう子だから」と諦めてしまう場合とでは、その子の将来はまったく違ったものになってしまうかもしれません。
あなたとのちょっとした言葉の行き違いで、或いはあなたがいじめ事案を適切に解決できなかったがために不登校になってしまった子は、その年にもしも別の先生が担任していたら人生が変わったものになるかもしれません。引きこもりになった若者、リストラにあった男性、子どもを抱えて離婚した女性が、超貧困に陥るという例もよく聞きます。
もちろん、学校教育がすべてではありませんが、学校教育は子どもたちの将来に大きな影響を与えます。あなたが今日、ちょっとだけ頑張るか否かが、もしかしたら子どもたちの将来を左右するかもしれないのです。私たちはそういう職業に就いています。
なかでも私たちが影響力を発揮するのは、子どもたちに「自分のことを可愛がってくれる人がいる」「自分のことを大切に思ってくれる人もいる」という思いを抱かせてあげられるかどうかです。先生に見捨てられた、友達に見捨てられたという教室での思いは、その子が意識しているかどうかはともかくとして、つまり覚えているかどうかはともかくとして、大人になってからの人生観に影響を与えます。
最近の若者は地元志向が強いとも言われます。昔のように地元を離れて東京に出よう、大阪に出ようとは思わなくなってきていると言われています。二十代になっても、三十代になっても、小中学校時代の友達とバーベキューやドライブを楽しむという若者が増えているのです。しかも、この傾向は世帯収入の低い若者ほど顕著に見られる傾向です。リストラや離婚によって貧困に陥る可能性も充分にあります。そんなとき、学力の低い者、社会性の身についていない者は社会のセーフティネットにアクセスすることさえできない、アクセスの仕方を知らないという人間が現れています。
小中学校教師として接している子どもたちが、二十代になっても三十代になっても付き合い続けるとしたら、あなたの学級経営が成功するか否かは、その子たちの将来にストレートに影響するかもしれません。地域に同世代の仲の良い人たちがたくさんいる人とそうでない人とでは、人生が変わってしまうかもしれないのです。
あなたの担任する子どもたちは、二十年後に困った仲間を励ますかもしれないし見捨てるかもしれない。リストラされて貧困に陥っている仲間にセーフティネットへのアクセスの仕方を教えるかもしれないし、仲間のそんな状況に気づきさえしないのかもしれない。
教師は子どもたちの人生に、そんな間接的な影響を与えるかもしれないのです。
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