職能特化とTwitter の文化形成

これまでの経歴が少し特殊だからかもしれないけれど、職能に特化した視座とそれに伴うTwitter 発信の関係性はとても興味深いなと思いながら、自分のタイムラインに流れてくるツイートを眺めています。

会社での所属がHRならHRのことをツイートし、PRならPR、という具合です。これは会社員にかぎらずフリーランスでも同じで、ライターはライターの括りで「職能=キャラクター化」の図式で発信をしています。

同じように、マネージャー層はマネジメントをつぶやき、経営者についていえば組織論を中心に据えた話を展開するのがセオリーのようです。

と同時に私が気に入っているのは、セールスとPRがうまいこと分離している点です。

「本業でうまくいっている人がTwitter でも成功する」

なんていう真実味を帯びた仮説がよくツイートでも流れてきますが、これは職能特化したTwitter であれば確かにそうだなと思うのですが、それはPRでの利用を考えた場合にはそうであって、セールスで使う場合にはその限りでもないなというのが私の実感です。

このプロセスは、ブランドや文化が形成されていく上でも非常におもしろい視点だなと思うので、自分のなかに「おもしろいなぁ~」と感じる好奇心が残っているタイミングでnote にまとめておこうと思いました。

職能特化のツイートとは何か?

冒頭でもお伝えしましたが、会社員や会社を経営している方々はTwitter の運用面において「職能=キャラクター」という図式を描くようです。

これ、おもしろいですよね。自分の人格や性格とSNSを紐づけるのではなく、職能に対して紐づけをおこなっているのです。当然、人事異動などがあれば職能も変わりますのでキャラクターも変わります。

これがインフルエンサーになると、インフルエンサーという職能に対してキャラクター化がおこなわれるので一見すると判断がむずかしいのですが、個人的にはTwtitter 上で職能変化とともにキャラクターが変わったひとりとして、えとみほさん(@etomiho)がわかりやすいなと思っています。

IT社長からサッカークラブの経営に転身したことで、Twitter の印象ががらりと変わりました。

ちなみにTwitter にかぎらず、コミュニティ形成も職能特化でおこなわれているのが注目したいなと感じるところです。PRであればPR領域の方々とコミュニティを形成し、ナレッジの共有をおこなっていくイメージです。

フリーランスにかぎらず、小さな会社であれば研修もないところからいきなり仕事(ここではPR)を任され、右も左もわからない人たちを救う寺小屋のような機能を果たしつつ、運営者はそれをブランディング要素としての活用が成されるという構図があります。

ここまでを読んで、「それはあたりまえのことでは?」と感じたのであれば会社員バイアスというか、世の中の働く人マジョリティによるフィルターがしっかりかかっていることを認識する良いチャンスだと思います。

もともと畑のちがう私はこの現象を初めてみたとき、これはすごい仕組みだと鳥肌が立ったことを覚えています。笑

職能特化が生む文化の形成

畑がちがうというのはどういうことかというと、実はわたくし、そのつもりもなく業界入りしていたのですが、いわゆるネットビジネス界隈にいつの間にか所属していて、それを自覚して脱出を試みたひとりです。

もともとは整体師やセラピストといった「自宅兼治療院」「自宅サロン」を経営するちいさな個人事業主の経営をコンサルティングするおしごとをしていました。

ここまではよいのですが、こういった個人事業主をサポートする方々の大半がなぜかネットビジネスの領域と境界線があいまいになっていて、悪くいえば「稼ぐ系」の人たちのくいものにされている傾向があったりします。

もちろん想いをもってサポートしているコンサルタントも多いですが、本人の自覚とはうらはらに、けっこう知識や技術力にばらつきのある危うい業界だなと個人的には感じています。

そんなわけで2018年にライターへと転身し、忙しさは3倍、年商は半分になるような生活をスタートさせたわけですが、もともと小規模事業者向けのマーケティングやマネジメントを扱っていた影響もあり、ただのライターよりも職能を横断した「ブランドエディター」の立ち位置となり、年商もそこそこ回復しました。笑

私個人の定義ですが、インハウスエディターは社内の「ことばのブランドマネジメント」を管轄することが仕事のCSO(Chief Storytelling Officer)のような役割で、ブランドエディターはその外部版という考え方です。

インハウスエディターは自社に一転集中できるのが強みですが、ブランドエディターは外部から密着しつつも俯瞰を取り入れることができる強みがあると考えています。

THE BAKE MAGAZINE に携わっていた頃の塩谷舞さんは、編集長という役割を背負っていましたが、事実上のブランドエディターだったのではと思っています。

話がそれました。ここのメイントピックは、職能特化が生む文化形成です。

続・職能特化が生む文化の形成

職能特化でキャラクター化したTwitter アカウントの良いところは、本業のほうはまったく別のスキームで収益を生み出しつつ、Twitter でその成果や実績をPRすることで潜在顧客層や生活者に対して発信を届けることができるところにあると考えています。

これは私がネットビジネス領域に足を踏み込んでしまっていたからこそ気づけた感覚かもしれないですが、あの界隈ではあらゆるSNSを「セールス」の文脈でつかいます。

Twitter であれば、フォロワーアップキャンペーンを開いたり、最近ではみかけなくなりましたがスポンサーの募集をしたり、とにかく発信とセールスが紐づいています。

ゆえに、「Twitterフォロワー=見込み客」の構図になっており、この見込み度の高いフォロワーのことを「ファン」と呼んだりします。

一方で職能特化でキャラクター化したTwitterアカウントは、資本主義思想とは少し遠く離れた位置から、一見して自社事業や本業とは関係がないようなところから援護射撃をおこない、結果として自社ブランディグなどに寄与させていきます。

資本主義経済に対して「信用経済」というような表現がもう何年も使われていますが、ちゃんとビジネスとかみ合わせていることを考えれば、信用経済としてのTwitter運用といったところでしょうか。

大手企業がCSR活動やSDGsの取り組みなどを通してブランディングをすることがありますが、これは中小零細ビジネスをしている経営者や会社員によるブランドマネジメントだと思います。

BtoBマーケの担当者などになると、本業が実利にちかいところでのお仕事である影響もあってか、自社の成功事例やクライアントワークでの成功事例をベースにしたメディア発信をしてリード獲得をするような動きもあったりしますので、わりと私の過去職業と相性の良さはあったりするのですが、見せ方のうまさはぜんぜんちがいます。

ネットビジネス領域になるとすぐに「メルマガ登録はこちら」「LINE登録はこちら」というようにダイレクトにリスト化の動きを見せたりしますが、職能特化アカウントを運用するマーケターの方々は、フォロワー増の認知を使って自社への問い合わせにつながるように成功事例を活用します。

発信が成功事例であれば、そこからの問い合わせの発生は十分に紐づいています。やっていることは似ていても、スタンスに焦りがあるか余裕があるかのちがいのような一面も感じられます。

BtoC領域ではUGCとの相性もよい

UGCと聞くとイメージとしてはインスタグラムを想起してしまいますが、Twitter のリツイートや引用リツイートなどもUGCと位置付ければ、職能特化のキャラクター運用はなかなかの波及効果を生みます。

自社のケーキを愛する社員の方が、めちゃくちゃエモいツイートをしまくって、想いのこもったnote がバズったりしたら、たいがいの方はそのケーキを一度は買ってみたいと思うかもしれませんし、それがまた美味しかったらファンになってしまう論理も十分にはたらきます。

これがセールスと紐づいたTwitter 運用であればそうはいきません。せいぜい、自分のアカウントのフォロワー数=影響力となってしまい、1:n という企業主体の従来型インフルエンサーマーケティングやマスマーケティングの域を超えることができません。n:n になってこその波及効果です。

これはブランディングのなかでもマーケティングよりのブランディングの発想なので実利としての成果に結びつきやすいですし、少なくとも採用という面では十分にKPI設定もしやすいので予算を動かしやすい領域かもしれません。

ここまでを説明しても、中小零細ビジネスを扱う経営者からすると、まだまだ実利から遠い気がして自社発信をスタートさせないことも多々あるのですが、ここまで発信がマーケティング領域のスタンダードになってきた以上、そろそろ重い腰をあげても良いのではと個人的には思わざるを得ません。

課題になりそうなのは、本質ブランディング領域での発信やSNS、メディア活用の部分です。最後にすこしだけ、そんなお話にも触れたいと思います。

レレバントとイレレバント

カタカナだとなにかの魔法のようですね。笑 relevant とirrelevant と英語表記をすればイメージもわくかなと思います。『ブランド論』で有名なデービッド・A・アーカー氏の著書からの引用です。

「ブランディングの目標は、差別化ポイントをマストハブにし、競合をイレレバントにすること」です。
マストハブ(Must Haves)とは、一定規模以上のセグメントが、そのブランドをレレバントだとみなすために不可欠だと認識するブランドの要素のことです。レレバント(relevant)は、「関係性がある」という意の形容詞ですが、ブランディングの文脈では「選択肢である」という意で用いられます。先の説明を言い換えると、マストハブとは一定規模以上のセグメントが、そのブランドを選択肢に入れるために不可欠だと認識するブランドの要素のことなります。イレレバント(irrelevant)は、レレバントの対義語で要は「無関係である」という意味です。

ここでいう「一定規模」がどこを指すかによって議論がまた少し変わりそうですが、『ゆっくり、いそげ』の中で描かれた「特定多数」を一定規模とするのであれば、同じような現象をTwitter 界でつくりあげることに成功している人たちもぽつりぽつりと存在しているような気がします。それはもちろん、Instagram やYouTube のなかにも。

たとえばですが、このモーニングルーティーンをTwitter でみかけて興味本位でYouTube にアクセスしたときの衝撃は忘れられません。

こんなおしゃれな朝を過ごせるのは、男だとほぼ皆無ではと。わからない。水嶋ヒロあたりだとこれぐらいおしゃれかもしれないけれど…^^;

アーカー氏のいう「レレバント(relevant)」はそういう意味ではないとは思うのですが、たとえばこういった過ごし方をしているデザイナーさんはきっと世界観もこういう感じかもしれないし、そういった世界を自分のなかに取り入れたいと考えた時点で「レレバント(relevant)」として特定多数経済の仲間入りを果たすのではないか、と思うのです。

経済的な合理性を考えるうえでは、こういった施策に予算をまわせるのは、小規模零細企業のみならず、中小企業や大手の一部門決済者のレベルではなかなかいないのではないかと思います…。

ですが、こういった遠い、とお~いところから情緒のレベルで広がる「レレバント(relevant)」は強いなと思うのです。中長期の経営面からも。

アーカー氏はこのようにもいいます。

マストハブは新しいサブカテゴリーを形成すると説明されています。それが必要条件ということです。サブカテゴリー(sub-category)とは上の例でいえば、コンピュータがオタクっぽいモノだった時代におけるデザインの優れたコンピュータ(Apple)、エナジーバーが男性をターゲットとしていた時代における女性向けのエナジーバー(ルナ)、食品がとりあえず豊富にあるのがスーパーだった時代におけるオーガニックに集中したスーパー(ホールフーズマーケット)などを意味します。つまり、何らかの修飾語とカテゴリー名を組み合わせたものがサブカテゴリーです。

上記のモーニングルーティーンの動画でいえば、デザイナーというのが主カテゴリだとすると、「白基調のおしゃれな世界観を表現するデザイナー」というサブカテゴリーを形成する可能性があります。

ブランド資産をつくりあげ中長期で選ばれ続ける企業になるのか、利益が減り続けるコモディティ管理運営をするのか、という二者択一の世界が加速度的に広がるなかで、まだ目の前の短期収益のためにセールスに紐づいたメディア発信を続ける、もしくは自社発信そのものをしない、というのは結果論からふりかえったときには「ばからしい」選択かもしれません。

ですが、目の前のキャッシュにおわれる中小零細、もしくはスタートアップ企業ならば、ばからしくもなんともない、非常に深刻な問題だと思います。

アーカー氏は説明します。

性能で上を行くライバルはほとんどの場合存在するし、1番だとしてもそれを信じない顧客は常に存在する。数値化できない次元で強みを持てば、より持続する競争優位を得られる。

「職能特化とTwitter の文化形成」というタイトルで始めた今回のnote ですが、これらの取り組みは小規模零細ビジネスをする経営者についての、とても現実的な課題解決策であり、その信ぴょう性も少しずつ実証されてきているのかなと思います。

顕在顧客にアプローチするリスティング広告やリターゲティング広告の指標とおなじKPIを求められるようなお門違いの発想を経営者に対して本質的なメディア論を伝え浸透させるのは至難の業ですが、時代はやはり動いている。

ここでしっかり着実に実績をつくりながら証明していくことが、これからのメディアを担う担当者には必須の思想ではないか。そんなことを日々考えております。

本日引用した『ゆっくり、いそげ』についてはこちらのnote にもまとめておりますので、興味のあるかたはぜひご覧いただければと思います。


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