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夏のオバケ体験記

あれは中学校に入学して早々の時だったか。

中学生に上がる前は、とにかく目立ちたがり屋でいわゆるヤンチャ坊主。

「これで毎日怒らなくて済みます。」
と卒業する時の寄せ書きに担任の先生が書いていたほど元気な男子だった。

そこから意気揚々と楽しみに待っていた地元の中学校の入学式。

新しい友達と遊んで部活に恋愛、青春しようと楽しみにしていた。

地元の小学校から馴染みのメンバーも多かったし、難なく入学1ヶ月を過ごしていた。

が。。。。

なぜか、いつものように受けていた授業中に涙が出てきたのだ。

その時は自分でも何が起こったか分からずとりあえず保健室へ行き、落ち着かせた。

そこからだ。

朝、学校に着くと涙が出始めるようになった。

翌る日も翌る日も訳が分からず涙が出た。

心と頭の中はいつも通りなのに。

最初のうちは馴染みのメンバーも保健室に心配にきてくれていたが、多感な時期な故に泣き虫なオイラからは自然とみんな離れていく。

それほど泣いていたのだ。特に何も分からずずっと。

そりゃオカンも黙ってられない。

そんな中学生活も半年が過ぎ、ついに家でも涙が出るようになったのだ。
リビングから窓辺に置いてあるパキラの木越しに窓の外を見ながら泣いていた。

いじめを受けているのかと学校に相談しに行ってくれたり、病院にも行ったしカウンセリングも受けさせてもらいに行くようになる。

でも何にも原因が出てこないのだ。

なんてったって心も普通だし頭ん中も普通。
カウンセリング行っていろんな質問をされたけど、何言ってんだこいつって思ってたし、変に優しく接してくる先生に俺のこと舐めんなよ状態だ。

でも家に帰ったら泣いた。

泣くようになって唯一変わった事は、国語辞典で単語をすごい調べるようになったことだ。
普段使っている日本語の意味をしっかりわかった上で使わないと変な気分がした。それこそ、「しっかり」とが「変な」とかも調べたんじゃないか。
勉強してないと不安だったから、半不登校状態でも成績優秀だったのは今でも覚えている。

そんな生活が1年半続いた。

オカンも学校もオイラもお手上げ状態。

そんな時。

いつものようにパキラの木の近くの壁の下に座った瞬間だったそう。

壁に寄りかからず座ったのに、揺れた時以外に鳴るはずもない壁にかかったすずがチャリンと鳴った。

オイラは聞こえてない。

不思議に思ったオカンが知人の霊媒師を家に呼んだのはそれからすぐの事だった。

いつものようにオイラは変な奴がきたな〜マインドでその人を家に迎える。
「僕は怒ったら地震も起こせるんです。」とその霊媒師はいった。

まじで変なやつきたな、と。

ダイニングテーブルでいろんな話をした後に、
「あー子供の幽霊がついているかもですね。」

もう帰れやこいつ、と。

「それでは好きな石を何個か選んでください。」と言ってテーブルの上に綺麗な石を並べ出した。

その瞬間。

霊媒師が急に空中で何かを掴むそぶりをして、次第に

「痛い、痛い。」

「腕を噛んでる、噛んでる。」と言い出した。

もうええって、と。

しかし、どうやらリビングで楽しそうにしている僕たちを見てオイラに憑いている男の子の幽霊が遊びに来たから今捕まえたんだ、離してほしいから腕に噛み付いているんだとのことだった。

「今からその子を天井に縛るから。」

そう言い放ち、数珠をつけた手で鈴があるオイラが座った壁の上にそれなりの素振りをしはじめ、そして帰っていった。



オイラ自身なんの心境の変化もなく、
ただその日が終わりまた次の朝が来た。

しかし。

涙が出てこないのだ。

次の日もその次の日も涙は出なかった。

気づけばその日をさかいに、元の元気な男子に戻っていたのだ。
離れていった友達もいたが、オイラのことよく言ってなかったやつは逆に面と向かって「あん時言ってくれたな。」と言い返して回ったから
同級生からすると逆にオイラが奇妙なやつに映ったに違いない。

そんなこんなで、3年生からやっと中学校生活が始まったオイラは友達も彼女もできたし。体育祭では応援団もやって、ちょっとみんなが戸惑ってるのも気づいてたけど離れていった馴染みのメンバーも一緒に遊ぶようになってくれた。

三年生になって内申点が10も落ちた。
でも今までの貯蓄があったので、市内六校いわゆる難関校に進学までできた。

なんかその点についてはすごい幽霊に感謝している。
その点だけだけど。

そんな中学校生活を過ごした。




あ、そうそう。

霊媒師が壁に向かって除霊していた時、
窓を閉めていた、揺れるはずもないリビングのパキラの木が揺れていた。













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