20代前半ゲイ 友達が友達じゃなくなった瞬間(1) #36
僕は元彼に振られ、そして自分勝手な理由で彼氏と別れました。
何もかもがうまくいきませんでした。
そんな僕に追い打ちをかける出来事がありました。
当時、仲のいいゲイの友人がいました。
彼とは3年来の友人でした。
地元のゲイバーで共通の知人を介して仲良くなりました。
二ヶ月に一回程度カフェめぐりをしたり、銭湯にいったり、カラオケにいったり、飲みにいったり。
僕にとって数少ない地元で気の許せるゲイの友人の一人でした。
僕は彼氏と別れて
それからほどなくして彼と会う約束を取り付けました。
僕は、彼氏と別れた話しをただただ聞いてもらいたいと思っていました。
いつも通り、僕は彼を車で迎えに行き
そしていつもの定食屋で彼氏と別れたことを報告し
カラオケでしこたま失恋ソングを歌い
遅くなりすぎない時間にカラオケを切り上げ
彼を家まで送りました。
僕は彼に会ってホッとした気持ちになりました。
恋人とはいつか別れが来てしまうけど、友情はずっと続くものだと実感できました。
失恋し、落ち込んでいましたが彼に会って話しをして気分が晴れました。
いつも通りの会合。
いつも通りの友人。
いつも通りの安心できる時間。
そんなふうに思っていました。
でも、その日はいつもと違いました。
帰りの車で、僕は彼に告白されました。
今までずっと好きだった。付き合ってほしいと。
状況をうまく飲み込めませんでした。
僕にとって彼は大事な友人でそれ以上でもそれ以下でもありませんでした。
今まで一緒に過ごしていて、彼からそんな素振りはなかったですし
その彼にも最近まで恋人がいました。
ずっと好きだったっていつから?
好きってどういう意味?
僕の中でいろんな疑問が頭の中に浮かんできました。
全く予測できなかった彼の告白に対して僕は動揺を隠せませんでした。
僕は彼に対して恋愛感情はありませんでした。
でもその場で返事はできず、後日LINEで返事をしました。
「ごめん、今は別れたばっかりで付き合うとかは考えられないし僕はずっと友達だと思っていたから。これまで通り友達でいてほしい」
彼の気持ちには応えられない旨を伝えました。
そして、そのやりとりの1ヶ月後に彼と会いました。
僕はいつも通り彼を迎えに行きました。
その日は、いつもの定食屋で夕食をとってから銭湯に行く予定でした。
僕は彼とこれまで通り、気の許せる友人関係でいたかった。
でも彼は僕と同じ気持ちじゃなかったようでした。
定食屋に向かう車の中で彼は口を開きました。
「ねえ、俺とどうしても付き合えんの?」
重たい空気でもなく、いつも通りの軽い雰囲気でした。
半分冗談交じりなのかと思うくらい軽い空気でした。
「うーん、ごめん。僕は友達だとずっと思ってきたしこれからも友達でいてほしいと思ってる」
「そっか。ひろトと付き合いたかったな。本当はずっと好きだったんだよね。でもひろトは俺と知り合ってすぐに彼氏ができたし、ずっと彼氏がいたから告白するタイミングもなかったんよな。」
思いもよらない言葉に僕はまた動揺しました。
彼は僕と知り合ってからの三年間、ずっと僕のこと思ってくれていたのかと思うと気持ちが少し揺れました。
「付き合えないのは分かったからさ、せめて一回やらせてよ。そうしたら忘れられるから」
悪い冗談だと思いました。
「いやいや、なに言ってるん。冗談でもそれは嫌やわ」
「冗談じゃなくて本気で言ってるだけど。ねえ、一回やらせてよ。このままホテル行こうよ」
彼の口調から、冗談じゃないことが伝わってきました。
僕は彼のことが大事でした。
彼と友人関係を続けたい。
でも彼とそういうことをしたいわけでもないし、そういうことをしてしまうともう友達でいられなくなるような気がしました。
いつもと全く様子が違う彼に戸惑いながらも
僕はとにかく今日の本来の予定を遂行しようと決めました。
僕がいつも通りの僕でいれば、きっと彼もいつも通りに戻ってくれる。
そんなふうに自分に言い聞かせていました。
「なに言いよんよ。そんなんせんからな。ご飯いくよ」
彼のその申し出を軽く断ったのちに、いつもの定食屋に行きました。
僕は話題を変えようとしましたが彼は執拗に身体の関係を迫ってきました。
口を開けば「やらせてよ」と
彼は今日僕をどうにかしてホテルに連れていきたかったようでした。
食事を済ませて、銭湯にいったときも
湯船につかっていると
「ここで軽く触り合いしない」
「身体触ってもいい」
耳を疑いたくなりました。
彼からの言葉を重たく受け止めないように自分に言い聞かせていましたが
次第にそれも苦しくなってきました。
彼と夕食を食べて、銭湯にいたほんの3時間程度の時間は僕にとって地獄でした。
帰りの車の中でも彼は執拗に僕に迫ってきました。
「じゃあ、とりあえず手握ってみようよ」
「キスだけでもいいからしてみようよ」
「お願い、ホテル行こうよ。一回だけって約束するから」
彼とホテルに行き、そういう行為をすれば彼は満足してくれるのだろうか。
彼の申し出を断り続けることに対してなんとなく申し訳無さもありました。
彼の期待に応えられない自分が辛かった。
それも辛かったけど、今まで同じ気持ちだと思っていた友人と
僕との気持ちはこんなにも違っていたんだという事実を突きつけられて
それが本当に本当に悲しかった。
「僕はずっと友達だと思ってきたしこれからも友達だと思いたい。僕は友達とそういうことはできないからもうそういうことは言わないでほしい。お願い。ごめん」
僕は耐えきれずに彼に伝えました。
きっと分かってくれる。ずっと仲のいい友達だったもん。
「あー、最悪。俺はひろトのこと友達だなんて思ったことないよ。いつも会ってたのは下心があったから。最初から下心しかなかったよ」
信じられなかった。
僕が友達だと思っていた3年間は、彼にとってはそうじゃなかったようでした。
僕が育んできたと信じていた友情は、友情ではなかったみたいでした。
僕の中の大事な何かが壊れてしまった感覚でした。
僕は彼の心無い言葉を聞いてから、何も話せなくなりました。
何も言えませんでした。言葉が出ませんでした。
何か言わなきゃと思ったけど、何を伝えても僕の言葉は彼には届かないのだと悟った瞬間に喉の奥に何かが詰まって声が発せられなくなりました。
きっと僕は彼の言葉を聞いて、彼との関係を諦めてしまったんだと思います。
ただただ涙が止まらなかった。
声に出して彼に伝えたかった何かが、嗚咽として吐き出されていました。
悲しかったし、悔しかった。自分が情けなかった。
僕は僕のことが嫌いになりそうでした。
僕は無言で泣きながら車を運転して、彼を家まで送り届けました。
泣いている僕を見て、我に返ったように彼は助手席で謝り続けていましたがもう彼の言葉は僕に届いていませんでした。
彼の家の前に到着してからも、彼はしばらく車から降りずに謝罪を続けていました。
僕にそれに応える気力はなく
「ごめん、話したくない。降りて。」
と彼を突き放しました。
その後、彼から長文の謝罪のメールが届きましたが僕はそれに返信をしませんでした。
それから僕は彼と会うことはありませんでした。
結果的に僕は一人の大事な友人を失いました。
このとき僕はどうすればよかったのか。
結局、僕は不幸になりました。
僕と関わった彼のことも不幸にしてしまいました。
僕は僕と関わる人は幸せでいてほしい。
僕も幸せになりたい。
そう思っているだけなのに、空回りの連続でした。
だんだん自信もなくなってきました。
本当に本当に悲しい出来事でした。
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