見出し画像

テーブルゲームは教育インフラだ 入門編

「ドイツゲーム」という言葉をご存知だろうか。
「知ってる人は知っている」みたいな典型で、飲み会などで話題にしても、10人中8人くらいは「は? なにそれ?」という反応が返ってくる。

手軽さ+「人間対人間」の面白さ

例によってWikipediaより。

ドイツのボードゲームとは、広義にはドイツで作られるボードゲームを指すが、狭義には1990年代中盤から現在までに発売され、世界的な人気を獲得した独特のテーブルゲーム群を指す。なお、ゲーム評論の分野の大家である安田均はこれらのゲーム群を「ドイツゲーム」と呼んでいる。

要は、ドイツに限らず、ここ四半世紀ほどで発展したアナログなテーブルゲームを指す言葉である。「ドイツゲームスペース」という渋谷の専用レンタル施設(!)のブログに簡潔なまとめがあったので拝借・抜粋します。

・ルールが比較的簡単。その場で説明してすぐ遊べる。
・プレイ人数は、3人~6人程度の多人数ゲームが多い。
・プレイ時間は、大体カードゲームで10分から30分程度まで。 ボードゲームでは大体60分から90分程度。  
・運と戦術の両方が適度に必要。
・人間同士ならではの駆け引きの要素が多い。
 

元は、ドイツで「ビデオゲームのせいで家族の団欒が失われつつ。トランプみたいに家族で楽しめるゲームを復活させよう」というムーブメントが起きて、というような経緯のようです。年に一度発表される「ドイツ年間ゲーム大賞」は、ボードゲームの最も権威のある賞となっている。

タイトル画像のように、高井家にはかなりの数の「ドイツゲーム」がある。
最近はなかなかプレイする時間が取れないが、今でも旅行や帰省の際には、いくつか小型のお手軽系ゲームをバッグに忍ばせていく。

第一の目的はもちろん、単純に楽しむことにある。
ボードゲームには人間相手の駆け引きという独特の面白さがある。ちょっとした息抜きや、旅行先の夜に家族や友人と盛り上がる。
だが、この種のゲームをガンガン買い揃えた別の狙いもあった。
対人ゲームが持つ独特の教育効果である。

学校では教えない人生の知恵

私は小学校2年生デビューという年季の入った雀士であり、実に多くのことを麻雀から学んだ。
麻雀は人生の縮図である。異論は認めない。
本当は高井家でも麻雀を導入したかったのだが、プレイ時間の長さやギャンブル性などを考慮するとハードルが高い。
代替手段として選んだのがテーブルゲームだった。
私がゲームに期待した教育効果は主に3つ。

1 対人の駆け引き
2 トレードオフへの対処
3 「良き敗者」になること

いずれも人生を渡っていく上で極めて重要なスキルだ。
だが、学校の授業ではほとんど教えてくれない。
「駆け引き」はクラス内の人間関係で、「負け」はクラブ活動などで経験することはあるかもしれない。
だが、それでは「ぶっつけ本番」になってしまう。
人生なんて「どっちかしか選べない」という分かれ道の連続だというのに、最重要の「トレードオフへの対処」はほとんど学ぶ機会がない。
この欠落を補う上で、対人テーブルゲームが果たせる役割は大きい。

以前、投稿したこちらの「マンガを教育インフラに」というネタは大変好評だった。

今回は変化球的な教育インフラ第2弾だ。

ただし、繰り返すが、まずはゲームを楽しむことが一番。ご紹介するゲームは、理屈抜きで面白いものばかりだ。今回は「持ち運べるサイズのゲーム」で、ハードルが低いものに限定した。この投稿が好評でしたら続編を書きます。(追記:続編、書きました!最後にリンクあります!)

1 超簡単&超燃える! 『SPOT IT』

まずはルールが超簡単で、誰でも参加できて、しかも「もう1回!」の嵐が待っている定番から。
『SPOT IT』である。
対象年齢6~7歳以上となっているが、片言でも話せるなら参加できると思う。

一番オーソドックスな遊び方のルールを。
手のひらサイズの丸い缶ケースには、丸いカードが50枚ほど入っている。

画像1

各カードには8つの小さいイラストというかマークが描いてある。上の写真の右のカードなら「南京錠」「爆弾」「ネコ」「手(目玉つき)」「りんご」「木」「クモの巣」「雪だるま」だ。
このゲームでは、このマークの「絵合わせ」のスピードを競う。
手順はこうだ。
まずカードを各プレイヤーに均等に配り、1枚だけ「台札」を残す。
プレイヤーはカードを重ねて手のひらに乗せておいて裏が上に来るようにして待機する。
「スタート!」の掛け声で、手札と台札を表にする。

画像2

この写真だと3人対戦で真ん中が台札だ。
各プレイヤーは自分の一番上の手札と台札に共通のマークを探す。
見つけたら、マークを宣言して手札を出し、台札に重ねる。これが新しい台札になる。
たとえば手前のプレイヤーなら、手札と台札の共通マークをみつけ、「爆弾!」と言いながら、そのカードを出す。
右手のプレイヤーのカードにも「爆弾」があるから、気づけば新しい台札に重ねて出せるが、左手のプレイヤーが別のマーク「クモの巣」に気づいてしまうかもしれない。
この調子で、とにかく早い物勝ちで「同じマーク」を見つけて、手札を出し切ったら勝ちだ。
よく出来ていて、すべてのカードには必ず共通のマークが1つある。
つまり、常にすべてのプレイヤーに手札を消化するチャンスがあるわけだ。
見つけやすいマークとそうでないものがあるので、多少は運の要素があるが、とにかく集中力勝負である。

カードゲームを未導入のご家庭には、まずはこれを第1弾におススメしたい。1ゲームが数分で終わるので「ゲーム慣れ」にぴったりなうえ、何より、年齢で強弱に差が出にくいゲームだからだ。

店頭ではこちらを見かけることが多い気がする。多分、中身は同じだろう。

2 不動の一番人気! 『ワードバスケット』

お次はしりとりカードゲームの傑作、『ワードバスケット』。
我が家では『ワーバス』の名で親しまれ、ぶっちぎりナンバーワンの人気ゲームである。見よ、この擦り切れ具合を。カードもよれよれだ。

画像3

自宅だけじゃなく旅行先の北海道や沖縄、ロンドン駐在中も欧州各地への家族旅行にいつも持っていく勢いで、あまりに好きすぎて拙著『おカネの教室』のワンシーンにも登場させてしまった。

公式には対象年齢10歳以上となっているが、ひらがなが読めるようになればハンディ付きで参加可能だろう。
基本は「しりとり」だから、ルールは簡単。
まず各プレイヤーに5枚とか7枚とか、適当な枚数のカードを配る。この手札が先になくなれば勝ち、というシンプルな勝利条件である。

画像4

各プレイヤーは、配ったカードを人から見えないように手に持つ。
台札を1枚めくってケースの箱に表向きに置いたら、ゲームスタート。
この箱の中のカードがしりとりの「最初の文字」になる。
各人はこの「最初の文字」と自分の手札で終わる言葉を探す。まさに「しりとり」の要領だ。

写真の場合なら、「つ」から一番左のカードの「の」につなげて「つわもの」という言葉が作れるので、場に「の」を出す。そうすると「の」が次の台札になる。続けて「ろ」をつかって「のらくろ」(昭和か、笑)が繰り出せる。
左から3枚目は「か行」カードだ。「か、き、く、け、こ」、どれでもOK。仮に「ろうか」として出すと、つなぐ音は「か」に固定される。

ひらがな以外に「5」「6」「7+」という数字カードがある。
これは「5文字」「6文字」「7文字以上」という縛りで、たとえば「か」につなげるなら、「カーパーク」で「5」が出せるし、「カレーライス」なら「6」が出せる。「カリーニングラード」とかで「7+」が出せる。
我が家では「その場にいる人2人以上が知っている」が使える単語の条件だ。カリーニングラードは子どもに「知らん!」と言われたら却下である。

通常ルールでは「言葉は3文字以上」という縛りがあるのだが、この文字数制限はハンディとして使える。
慣れている人は4文字以上、小さい子や初心者は2文字もOKといった具合だ。配る枚数の差でハンディをつけても良い。我が家では三女が5枚ならお父さんは12枚くらいを持つ。
大人のハンディとして「酔っぱらってやる」という手もある。ちょっと飲むと、びっくりするくらい弱くなる。アルコール、やばい。

ちなみに高井家軍団はこのゲームをやりこみ過ぎていて、普段は4文字がデフォルトである。3文字で5枚持ちだと、誰かが1分ぐらいで出し終わってしまう忙しないゲームになってしまう。あまりに練度が高く、「7+」を持っていて台札が「る」なら「ルービックキューブ」、「や」なら「ヤンバルクイナ」という単語が0.3秒ぐらいで繰り出せる。アホである。

このゲームも慣れれば数分から10分程度で1ゲーム終わる。中毒性が高く、集中力の消耗度も小さいので、「もう1回!」となること請け合い。場所も取らない旅のお供、飲み会の余興に、ぜひ。

3 「真顔でウソをつく」戦い 『ごきぶりポーカー』

これは「相手を騙してカードを引き取らせる」ゲームである。
箱には「ごきぶり」「さそり」「かめむし」「こうもり」など8種類の、一般には嫌われものの生物のカードが各8枚、合計64枚のカードが入っている。
このカードをプレイヤー間でやり取りして、「同じ生き物のカードが4枚たまった人が負け」というのが勝敗条件。「3枚で負け」でも良い。あと、8種類のカードをコンプリートしてしまうと負け、という条件もある。
最低2人、最大6人まで遊べる。3~5人がオススメだ。

画像5

ゲームの流れはこうだ。
まずカードを全員に均等に配る。手札は人から絶対見えないよう注意すること。ジャンケンか何かで最初の「親」を決める。
「親」は自分の手札から1枚選んで、
「これは『ごきぶり』です」
といって、他のプレイヤーにカードを裏向きに差し出す。
アタックする相手は誰でも良い。
アタックされた側の選択肢は2つ。
1つは「宣言がウソかホントか見破る」だ。
この場合、
「うん、『ごきぶり』だね!」
あるいは
「いやいや『ごきぶり』じゃないでしょ!」
と宣言して、カードをめくる。予想が当たったら「親」がカードを引き取り、外れたらアタックされたプレイヤーが引き取り、表にして自分の前にさらす。
もう1つの選択肢は「他のプレイヤーに回す」。カードを自分だけが見て、「親」と同じように宣言を付け加えて、他のプレイヤーにアタックする。
この際、たとえば「いや、『はえ』だったわ!」といった感じで文言を「親」と変えてもよい。
アタックされた人は同じように2つの選択肢から選ぶ。最後の1人までカードがまわってしまったら、その人は「ウソかホントか」を当てるしかない。

これは実に秀逸なゲームで、かなり人間観察力が問われる。ワンプレーに30分程度はかかるので、それほどお手軽ではない。「騙す」系なので、好き嫌いもあろう。
でも、やってみて損はないゲームだし、後述する教育効果という点では、かなりのオススメである。

ゲームは人生の縮図

優れたゲームは、人生の縮図といって良い性質を備えている。
繰り返しになるが、私は麻雀から多くを学んだ。特に日本の複雑なルールの麻雀は、人生の縮図感ではゲームの最高峰だと思う。
ここで挙げたゲームは麻雀より総合的な教育効果では劣るかもしれない。
でも、現代っ子は忙しい。それに、それぞれのゲームには、それぞれの良さがあるし、何より、特に家族で遊ぶと実に楽しい。

たとえば『ワーバス』。
このゲームは、子どもと長年やっていると、語彙の成長を実感できる。
「いつの間にそんな難しい言葉を…」
「そんなオタなキャラの名前、ありかよ…」
といった発見が親としては楽しい。

『SPOT IT』は、大人と子どもで真剣勝負できるのが良い。
はっきりいって、ボーっと生きていたら、五歳児に余裕で負ける。
子どもにとって、ハンディキャップなしで大人に勝てるのはなかなかの快感のはずだ。うまくゲームにハマってくれる。
大人にとって辛いのは、面白いから「もう1回!」とせがまれるうちに集中力を削られ、子どもが勝ちつづけ、それがさらに「もう1回」の嵐を呼ぶことだ。トランプの神経衰弱にちょっと似ている。

教育効果という観点では『ごきぶりポーカー』は素晴らしい。
人生にウソは付き物だ。
なのに、ウソの付き方も、見破り方も、学校では教えない。
リアルライフで大やけどする前の予行演習にぴったりだろう。円滑でしたたかなコミュニケーション能力を鍛えるうえで、大きなプラスになるはずだ。
たとえば、このゲームでは、自分がアタックに関係していない第三者のときに、やり取りをよく見ておくのが大事だ。具体的には、アタックされた人がカードを見るときの表情の変化がカードの正体を推し量る重要な手掛かりになる。自然と「観察者」としての視点が鍛えられる。
ちなみに、高井家ではぶっちぎりでお父さん(私です)が強い。そりゃ、新聞記者なんて仕事やってりゃ、「この人、ウソついてないかな」と年がら年中考えるわけで、当たり前といえば当たり前だろうが。

今回は入門編として3つのみご紹介した。すでに5000字ぐらいになっているから最後にオマケをつけて終わりとする。
「人間臨終図巻」の渾身の3万字投稿がスベった教訓を生かして長編投入はしばらく控える所存です…。

オマケ 「しめ」にオススメ 『ぴっぐテン』

10までの足し算・引き算ができるようになれば参加できるお手軽ゲーム。

画像6

カードには0から10までの数字が書いてある。最終的にこのカードをたくさん集めた人が勝ちだ。

まず1人3枚ずつ手札をもって、適当に決めた「親」が場に1枚カードを出す。次の人(時計回りでOK)は、台札と合計してぴったり10になるカードを持っていれば、それを場に出して「ぴっぐテン!」と宣言して、場のカードをもらう。手札には加えず、ポイントとして手元にためておく。各プレイヤーは「1枚出したら1枚引く」ことで、手札を常に3枚にキープする。
写真のように「ぴったり10」のカードがない場合は、適当なカードを出す。たとえば「6」を出した場合、台札の「2」と足して「8!」と言いながら出す。
これで「場の数」は「8」になるので、次の人は「2」をもっていれば「ぴっぐテン」できる。カード3枚ゲットである。
問題は「3以上」の数字しか出せない場合で、「8」と合計が10を超えてしまい、「バースト(負け)」になる。直前のプレイヤーが勝者としてカードをもらっていく。
この流れを台札と手札がなくなるまで続ける。
単調なゲームに変化をもたらす特殊カードが3種類ある。

画像7

「0」は、「場の数」をリセットする効果がある。それまでの経緯を無視して、これが出たらいきなり「場の数」がゼロになる。
「5」は「足しても引いても良い」という選択肢付き。「場の数」をマイナスにするのはご法度。
「10」は、「0」が出た直後に出すと、単独で「ぴっぐテン」を達成できる。我が家ではこのカードが出たら周り順をひっくり返す(UNOのリバースみたいな感じ)というルールにしている。
これ以外にも、「『場の数』と同じカードを出す場合」や「同じ数のカードを重ねる場合」にちょっとだけ例外的なルールがあるが、基本は「足し算で10にする」ゲームだ。

ハッキリ言って「運ゲー」の要素が強く、駆け引きの面白さもない。
でも、妙に気持ちが良いのだ、このゲーム。
なかなか誰も「ぴっぐテン」ができず、場のカードがたまる(=勝てば高得点)と、妙に盛り上がる。
プレーに慣れてきて、カードが出るスピードが上がると、妙に気持ち良い。
対戦型ゲームなのに、協調型のような共同作業感が出てくる。
こうした「味」のせいだろう、負けてもあまり悔しくない。
我が家では、複数のゲームをやった後、「最後にやっとくか」という感じで選ばれることが多い。
やると、なぜかケラケラ笑ってしまい、良いクールダウンになる。
デザートみたいな「締めの1品」として、おすすめしたい。

追記した、待望の続編はこちら!

=========
ご愛読ありがとうございます。
投稿すると必ずツイッターでお知らせします。フォローはこちらからどうぞ。

異色の経済青春小説「おカネの教室」もよろしくお願いします。


無料投稿へのサポートは右から左に「国境なき医師団」に寄付いたします。著者本人への一番のサポートは「スキ」と「拡散」でございます。著書を読んでいただけたら、もっと嬉しゅうございます。