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相方が行方不明になってから絵本を出版するまでの話

漫才が好きで吉本に入った僕が、なぜか絵本を出版しました。



ありがたい事に現在6万部を突破。

韓国と中国でも翻訳され発売されています。

なぜ絵本を出版できたのでしょうか。

それは、失敗をしまくったからです。

1.相方が突然の行方不明


愛知県出身の僕は、名古屋よしもとに入り芸人になりました。

吉本に入ってすぐに1年先輩とコンビを組み、コンビで4年ほど活動をしていました。

こんな感じの相方です。

順調に仕事も増えていき、少しずつ名古屋のテレビにも出れるようになって、そろそろバイトも辞められるぞと思っていた矢先の出来事でした。

2014年6月8日。

相方が突然、行方不明になったのです。

まじで突然でした。

いなくなる当日まで、一緒に仕事もしていました。

6月8日の朝から昼にかけて、毎週やっていた生放送のテレビの前説して、昼過ぎにいつも通り別れたっきり、どこへ行ったのかわからないのです。

どれだけ連絡をしてもつながりません。

いなくなって2日後に相方の実家へ行ってみたら、探さないで下さい的な置き手紙とスマホが置いてありました。

相方の家族も、相方がどこへ行ったかわからない状況でした。

その置き手紙の中に、いなくなった理由も書いてあったのですが、ざっくり言うとお金の問題でした。

その相方とはそれ以来連絡も取ってないし、どこで何をしているのか全くわかりません。

ほぼ毎日のように一緒にいたし、一番信頼している相方が突然いなくなってしまうなんて、当時の僕には受け止めきれない衝撃でした。

どこで何をしてるのかはいまだに謎のままです。

最後に相方が僕に言った言葉あります。

「じゃあまたね」

おそらくこれを言った時には、いなくなる事も決めていたはずなのに、どんなつもりで言ったのでしょうか。

お酒でも飲みながら、あの日の逃亡劇を聞ける日が来るといいなぁと思っています。

この顔にピンときた方はご連絡下さい。


そんな訳で僕は突然一人になり、芸人の仕事もほぼなくなってしまいました。

芸人を辞めるつもりはなかった僕は、元々コンビで上京する予定だったので、一人で上京する事にしました。

2.上京して絵本に出会う


相方がいなくなって半年後の2015年2月に上京しました。

やっぱり漫才がしたかったので、新しい相方を探しました。

東京には芸人の数も多いので、僕と同じように相方を探している芸人もたくさんいます。

そしていろんな芸人と会って、上京してから半年ぐらいで新しいコンビを組む事ができました。

いろいろあったけど、やっとスタートできるぞ!といった感じです。

しかし、その半年後。

新しい相方がもう辞めたいと言い、芸人を引退してしまったのです。

まじで絶望です。

やっとスタートしたばかりなのに…

半年で辞めるならコンビ組むなよ…

しかし、その相方を選んだのも自分なのでしかたありません。

僕はまだまだ漫才をやりたかったので、また新しい相方を探しを始めます。

もう失敗したくない僕は、ピン芸人としてライブに出ながら慎重に新しい相方を探し始めました。

しかしピンネタをほとんどやった事の無い僕は、どんなネタをやればいいのか悩みます。

そこで思いついたのが絵本です。

フリップに絵本みたいな話を書いて読み聞かせをするネタを作ろうと考えました。

そしてネタを作るために絵本を読んでみようと思い、本屋さんへ行ってみました。

そこでタイトルと表紙に惹かれて手に取ったのがこの絵本でした。



長新太さんの「ゴムあたまポンたろう」です。

もう度肝を抜かれました。

絵も話も自由すぎる。

一瞬で絵本の魅力に取り憑かれました。

それからはネタのためというよりも普通に絵本が読みたくてほぼ毎日、本屋へ行き絵本を読みまくって買いまくりました。

売れない芸人なのでもちろんお金も無いのですが、一年で200冊以上買いました。

そして絵本の話をするライブや、絵本の読み聞かせ会をやったり、手作りで絵本を作ったりしました。

その時に作ったのが『むれ』です。

こんな感じで絵本を好きになった訳ですが、まだまだ気持ちは漫才師です。

2回目の解散から一年ぐらいで新しい相方が見つかり、3度目のコンビを結成する事ができました。

いろいろありましたがやっとです!

やっと大好きな漫才がやれる!

ライブに出始めて結果も順調でした。

コンビを組んで2ヶ月で、深夜のテレビで漫才もやらせてもらえました。

周りの芸人仲間やファンの方も喜んでくれました。

そして、コンビを組んで3ヶ月。

一番恐れていた事が起きてしまいました。

相方が解散したいと言い出したのです。

僕は信じられませんでした。

こうなったら僕がやばいやつの可能性もあります…

解散だけは絶対にしたくなかった僕はめちゃくちゃ説得しますが、相方の意思は固まりまくっていました。

3ヶ月前とは別人です。

困った僕は、ずっとお世話になっているパンサー向井さんに相談してみました。

向井さんは、僕の今までの悲劇を全て知っています。

向井さんは、効果があるかわからないけど俺からも説得してみると言ってくれました。

向井さんは僕がコンビを続けられるために、僕と相方を叙々苑に連れ行ってくれて話を聞いてくれました。

そして僕の相方の話をじっくり聞いて、なんとかコンビを続けられないかと優しくいろんな話をしてくれたのです。

向井さんのおかげで相方も考え直してくれると言い、話し合いは終わりました。

相方は先に帰り、僕と向井さんの二人になりました。

二人になった瞬間、僕は涙が止まりませんでした。

向井さんが優しすぎて嬉しかったから。

そして、たぶんこのままコンビを続けたとしても、いつか解散してしまうだろうと思ったからです。

叙々苑で大号泣です。

とても悔しかったですが、僕は3度目の解散をしてしまいました。


3.出版を目指して2週間で出版決定


3度目の解散をした僕は、ここで初めて漫才をする事を諦めます。

いくら自分が漫才をやりたくても、漫才は相方がいないとできません。

年齢も芸歴も重ねてしまって、今からもう一度相方を探してコンビを組んで、また解散した時の事を考えると恐ろしすぎます。

それからピンでライブに出たり、仲間を集めてコントライブをしたり、絵本のイベントをしたり、ものすごい模索しながらいろんな事をやっていました。

そしてある時。

放送作家の山口トンボさんに飲みに連れて行ってもらい相談をします。

今までの話やこんな事がしたいなど、いろいろ相談しまくり聞いてもらいました。

すると、トンボさんが一言「一回、絵本の事だけやってみなよ」と言いました。

それから僕はトンボさんのその一言を信じて、絵本の出版だけを目標にします。

都内の絵本屋さんを回ったり、図書館へ行き絵本について調べたり、SNSで絵本の事を発信したり、とにかく動きました。

そして、ずっと気になっていた都立大学駅にあるニジノ絵本屋へ行ってみました。

すると、ニジノ絵本屋さんのいしいあやさんがお店にいました。

いろいろお話しながら、読み聞かせ会におすすめの絵本をいくつか紹介してもらいました。

そこで一冊、ふくながじゅんぺいさんの「うわのそらいおん」という絵本を買って帰りました。



すると数日後。

作者のふくながじゅんぺいさんからTwitterでDMが来たのです。

どうやら、いしいあやさんが僕が絵本を買った事を伝えて下さったようです。

そしてこんなお誘いをもらいました。

「今度出版社の皆さんとピクニックに行くのですが、よかったらひろたさんも来ませんか?」

人生で初めて、ピクニックへのお誘いをもらいました。

楽しそうだったので行かせて頂きました。

そこにはいろんな出版社の方がいました。

そして絵本界では知らない人はいない、ベテラン編集者の小野明さんもいらっしゃいました。

僕も後々知るのですが、とにかくすごい人です。

こんな本も出されています。


ピクニックをしつつ、小野明さんに絵本のお話をお聞きして知識を深める会でもありました。

出版関係の方々の中にポツンとよくわからない芸人がいたのですが、皆さん快く仲間に入れてくれました。

そして僕が好きな絵本の話や、読み聞かせ会で手作りの絵本を読んでいる話をしました。

すると小野さんが、僕の手作りの絵本を見たいと言ってくれたのです。

当時の僕は必ず手作りの『むれ』を持ち歩いていたので、皆さんの前で読ませてもらいました。

絵本を読み終えると小野さんが真剣な顔で一言

「このまま出版できるよ。」

と言ってくれました。

そして小野さんは

「今2つ僕の知ってる出版社を紹介したいと思ってるんだけど、」

と言いました。

あまりの急展開にその場にいた皆さんは驚いています。

するとその場にいた角川書店の編集者の方が

「うちからお願いできませんか」

と手をあげてくれたのです。

こうして『むれ』は角川書店から出版する事になった訳です。

これがトンボさんに相談した日から、ちょうど二週間後でした。

トンボさん→ニジノ絵本屋さん→うわのそらいおん→ピクニック→出版という奇跡のような流れで出版が決まったのです。

失敗しまくり、いろんな人のおかげで『むれ』を出版する事ができました。

ここに書いた1つの要素でも欠けていたら、絵本『むれ』は生まれていません。

全ての方に感謝の気持ちでいっぱいです。

『むれ』の後半のページに、アリの群が出できます。

たくさんいるアリの中から、一匹だけみんなとは違う方へ歩いていくアリがいます。

『むれ』を読んでくれたかわからないけど、みんなと違う方へ歩いていった相方にも、いつか感想を聞いてみたいです。





最後まで読んで頂きありがとうございました。

まだ『むれ』を読んだ事のない方も、是非読んでいただけたら嬉しいです。


読んで頂きありがとうございます。サポートしてくれたらめちゃくちゃ嬉しいです。