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ディジー・ミズ・リジー「Forward in Reverse」

20年ぶりの再結成アルバム『Forward in Reverse』

デンマークの至宝ディジー・ミズ・リジーは再結成第一弾アルバムとして、2016年にサード・アルバム『Forward in Reverse』をリリースしている。

ディジー・ミズ・リジーというと、哀愁を帯びたメロディーと変拍子を多用した複雑な曲展開がサウンドの特徴となっている。
こうしたバンドのキャラクターを効果的に引き出した作品が本作『Forward in Reverse』だ。

90年代に若くしてデビューした彼らは、オルタナティブロックの影響を受けながらも、ハードロックやヘヴィメタルの範疇に入る音楽を鳴らしていた。

当時は、オルタナとメタルは棲み分けがキッチリとされており、日本ではメタルファンからの支持が圧倒的に大きかった。

その頃の私は「時代はオルタナ…メタルなんて今どき聴けないっしょ!」という血気盛んな20代。BURRN!読者だけにウケているヨーロッパ産メタルとして、このバンドを認識していた。

ティム・クリステンセンのソロアルバムを契機にフェイヴァリットへ!

しかし、ディジー・ミズ・リジー解散後、ソロアーティストとして再出発したリーダーでボーカル&ギターのティム・クリステンセンのソロアルバムを聴いたことをキッカケに遡ってバンド時代の作品を聴くことで、若い頃の自分の認識が誤りだと気付かされたのだ。

ティムのソロアルバムはアルバムによって作風は様々なのだが、私が最もハマった作品が『TIM CHRISTENSEN AND THE DAMN CRYSTALS』というアルバムだ。
タイトルから察するとおり、ティムがダム・クリスタルズというパーマネントなバンドを従えて製作したアルバムであり、ソロアルバムの中では最もロックバンドのフォーマットになっている。

即効性があるわけではないのだが、聴き込むほどに良さが感じられる作品で、浮ついたところが全く無く、ゴツゴツしたロックと落ち着いた大人のロックがバランス良く配置されており、聴き応えある作品だ。

このソロアルバム発表後にディジー・ミズ・リジーは再結成し、20年ぶりに発表したアルバムが本稿の主題『Forward in Reverse』だ。

懐の深いソングライティングと黒人音楽に流されない職人気質

『Forward in Reverse』は、90年代に作られた初期の2枚のアルバムに比べると、派手なキラーチューンは無いのだけれど、楽曲は威風堂々とした肝の座ったものになっている。
また、バンドの特徴になっていた変拍子は健在だが、無闇やたらと使いまくるのではなく、ここぞという所の“伝家の宝刀”として効果的に使われている。

ロックバンドはキャリアを積むと当然のこと演奏技術は向上する。テクニックを習得したロックバンドはブルースやソウルといったブラック・ミュージックを取り入れたがることが多い。
ハードロック・バンドも然りで、ブルースやアメリカ南部のルーツミュージックを取り入れて、リズムも粘っこいタメのあるものを志向することがよく見られる。

しかし、ディジー・ミズ・リジーの場合、全くブラック・ミュージックへのアプローチが感じられず、むしろ頑なにジャストなアタック感のリズムを強調しているように感じるのだ。
しかも、その強度は初期の頃より高まっており、頑固な職人気質すら感じられる。

こうしたリズムへのアプローチは、あえてブラック・ミュージックと距離を置き、タメのない定規で図ったようなタイム感を出しているのだろうか?
それとも全くブラック・ミュージックに興味がなく、身体に染み付いた白人ロックの血がそうさせているのだろうか?
どちらが正解なのか私には分からないのだが、ブラック・ミュージックの影響を安直には導入しない確信犯的な戦略なのではないかと個人的には感じている。

再結成したディジー・ミズ・リジーは、自分たちの必勝パターンの演奏に磨きをかけ、シーンに返り咲いた。そうした姿勢は愚直すぎるほどストレートで、そんな男気に私はグッとくる!
また、ティムのソングライティングもソロでの落ち着いた作風で手に入れた手法が活かされており、ただポップでキャッチーなフックがあればOKという陳腐なものではなく、全体としてバランスの取れた練り上げられた楽曲になっており、懐の深さを感じさせる。

“20年ぶりの再結成アルバム”となると大概の場合、全盛期を超えることは難しいのだが、彼らは初期衝動はそのままに音楽的体力を増強し、当たり前のように傑作をものにしたのだ。

来日公演も盛況
鋼のような生演奏が快感

ディジー・ミズ・リジーは本作リリース後、来日公演も行っている。
私もクラブチッタ川崎でのライブを観ることができたが、ライブ演奏にもバンドの好調ぶりは如実に現れており、鋼のような強靭な演奏とよく練り上げられたメロディーの組み合わせに乗せて、ティムのボーカルも力強さと繊細さのどちらも表現しきれている素晴らしいものだった。

こうして油の乗り切った再結成を遂げたディジー・ミズ・リジー!
この後、バンドは新たな試みとしてプログレ的手法を導入した意欲作『Alter Echo』をリリースし、攻めの姿勢を見せてくれる。この作品についても機会を見てnoteしたいと考えているところだ。

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