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3種の自然との対峙

【Poiesis と Techne】

2021年の施工の深掘り」では、『Poiesis(ポイエーシス)』と『Plaxis(プラクティス)』を比較させたが、更にハイデンガーが『Techne(テクネー)』という言葉を対立する概念として示している。現代文明でいうTechnology(テクノロジー)の意味である。

「Poiesis=対象物の中の本質を、対象物自ら外に現れるようにする」のに対して、
「Techne=対象物の中の本質を、無理やり挑戦的に外へと出す」として対比した。

モノが持っている特性を押し出して形にしていく過程で、Poiesisは自然とものが外に出るのに対して、Techneは外的要素を加えて外に押し出すというイメージだろう。

【Poiesis と Techneの実践】

実際に自らのプロジェクトの中で、Poiesis的であるものとTechne的であるものを挙げながら整理していきたい。

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Poiesis的なものとして、茶道具の職人と制作した竹傘を示す。竹籠を大きくして逆さにした空間を仕切るための傘である。制作の過程として、初期のスケッチはあるものの、竹籤の編み方や厚みなど職人さんの知識と感覚に頼り、数度の試作を通して形や材を変えている。これは竹から内在する声を聞き、それに従うPoiesisのつくり方である。

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Techne的ものとして、ヨシのストランドボードで制作した空間[Naiko]を示す。ここで語りたいのは、材料として使用しているヨシストランドボードである。ヨシを糊と混ぜ熱で圧着して板状にしたものである。前者と同じくヨシの特性を観ながら試作を経て生まれたものだが、ここでは機械技術によってヨシの内在するものを押し出している

【Poiesis, Techne と Digitus】

「Techne」の話を読む中で「Digitus」という要素もあるのではないかと思った。現代文明でいうDesital(デジタル)である。興味深いことにレヴィ=ストロースは、『野生の思考』の中でこんなことを書いている。

電子計算機の発展によって情報の検索システムが大いに発展することになるだろうが、その時「野生の思考の法則が再び支配する情報の世界の発見」がおこるにちがいない。「(未開人の世界とわれわれの世界との)差異はむしろ彼らを情報検索理論の専門家と同一平面上に置くものである」、なぜなら情報の専門家は、対象とする著作物の実質を否定したり議論したりはせずに、それらを分析して、コードの構成要素を抽出する」からである。

現代の情報検索の専門家が知らず知らずのうちに駆使しているのは、未開社会で数万年にもわたっておおいに利用された「野生の思考」にほかならないのだという。

【Analogos と Desitus】

現代のアナログ意味するAnalogos(ギリシャ語)とデジタルを意味するDesitus(ラテン語)の2つを比べながら、野生の思考について考えていく。
「Analogos=もとの形を変えずに、そのまま拡大縮小して移し替えた状態」
「Desitus=一つひとつの要素を指さし数えられるような、区切りのある状態」
楽器の音の波形のような複雑な形がある場合、それをできるだけ相似形に写し取ろうというのがアナログ、もとの形を数多くの部分に分解し、それぞれの部分を数量化して扱いやすくするのがデジタルということになる。

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【Desitusと野生の思考】

以前書いた記事「日本から読み解くPoiesis」の中で、”野生の思考を持つ現地人は、感覚的な能力を総動員しながら、膨大な情報を並列に並べ、世界を知的に認識する"というようなことを書いた。上記のDesitusの図では、精度がかなり荒く0か1かしかないが、技術が発展していく中で精度が上がりAnalogosの波形に近づけることができている。技術が発展する中で、デジタルが人間が感覚と知覚で読み解く以上の膨大な情報を処理できるようなるのではないか、とも思う。

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石でベッドをつくったプロジェクトがそれを感じさせてくれる。ピンクの部材は、石を精密にスキャンし、石にピタリと合う接合部を3Dプリンターで打ち出したものである。緻密な石の凹凸の情報をパソコンで処理することができる。ピタリとハマる接合部を嵌めるために、手で石の凹凸をなぞりながら、嵌る位置を探るのだから人間の感覚的情報の認知も負けてはいない。しかし、この体験をしてみてレヴィ=ストロースのいう「野生の思考」を扱う新たな方法が生まれるのかもしれないと感じる。

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