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広島県の課題をデジタルで解決!アマゾンの「AWS デジタル社会実現ツアー」でスタートアップが意見交換

デジタル分野を含め、スタートアップ支援に積極的な広島県。地方からデジタルの力でイノベーションをどう起こしていくか。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS)が主催する「AWS デジタル社会実現ツアー 2023 ~ 地域創生を"さらに"一歩進めるには?各地域で進む企業や行政の取り組みから学ぶ ~」が8月23日に広島で開かれました。このイベントは高松からスタートし全国13都市でリアル開催。AWSと地方自治体、各教育機関や地域企業が〝共創〟によってどのような地方創生、社会課題の解決が可能かというテーマについて、具体的な共創のきっかけを提供する場とすることが目的です。自治体等が広島県内の取り組みを紹介したほか、県内のスタートアップ企業が「広島県の課題をデジタルで解決!」と題して講演。広島で創業した理由や苦労した点、今後の展望などにも話が及びました。

●オープニング セッション: 広島県におけるイノベーションの推進

オープニングセッションでは中国経済産業局、広島県、広島大学の担当者からそれぞれの立場で県内のイノベーション推進の取組状況を紹介しました。

経済産業省中国経済産業局 産業部経営支援課長 髙城幸治氏

中国経済産業局産業部 髙城経営支援課長は、今年4月に設立された「J-Startup WEST」などの取組について紹介しました。

髙城:イノベーションを担うスタートアップの存在が近年、非常に注目を集めています。アメリカを見ると、本日主催のアマゾンなど「GAFAM」と呼ばれる新興のスタートアップがそのまま国の経済の勢いとなってきています。スタートアップの力は国を挙げて盛り上げていかなければなりません。国内でもこの10年でスタートアップへの投資額が約10倍に増えました。スタートアップこそ課題解決と経済成長を担うキープレイヤーだと考えています。
中国地域では4月、「J-Startup WEST」が誕生しました。中国地域ニュービジネス協議会と共同事務局で取り組んでいます。各地で取り組まれるスタートアップの取組を横方向でつなぎ合わせて、どの地域にいる起業家にも必要な支援リソースやフィールドとつながっていけるような環境醸成を図っています。
 
J-Startup WEST
http://jstartup-west.jp/

広島県商工労働局 イノベーション環境整備担当部長 川野真澄 

続いて登壇した広島県商工労働局 川野イノベーション環境整備担当部長は、「ひろしまユニコーン10」プロジェクトについて説明。同プロジェクトのサポートメニューの1つである「ひろしまSAND BOX」を始めとするデジタル分野の取組について紹介しました。

川野:デジタルを中心として始まった実証フィールド「ひろしまSANDBOX」では、「広島県をまるごと実証フィールドに」を掲げ、デジタル技術を社会課題に生かすための実証実験の場の提供を6年前に始めました。実証実験に参加した県内自治体は7割に及びます。昨年度あたりからは実装支援のみならず、障壁となる規制緩和にもチャレンジする「D-EGGS PROJECTサキガケ」が始まり、新たなフェーズに入っています。加えて今年度から、公共調達の場にも挑戦。自治体が抱える地域課題、社会課題に対し、スタートアップがさまざまなソリューションを提案されている一方で、県内23の市町ひとつひとつに売り込みをかけるのは大変な作業だと、苦労話も聞かせていただいています。そこでオープンイノベーションプログラム「The Meet 広島オープンアクセラレーター」を開始。今回我々がウリにしたいところは、県内市町が社会課題をそれぞれ持ち寄って、ショールームにいったん並べたことです。現在15市町が手を上げており、様々な行政課題を出してくれています。その課題に対し自社の技術、サービスを実地で試したい、行政への導入を進めたいと考えているスタートアップからのソリューションの提供を募っているところで、スタートアップによる広島県の地域課題の解決に期待したい。

The Meet 広島オープンアクセラレーター
https://growth.creww.me/e9469f16-303a-11ee-a09a-23684d805c25.html

その後、広島大学 産学連携部門の滝上部門長からは、広島大学が主幹機関を務めるエコシステム「Peace&Science Innovation(PSI)」と、オープンイノベーションプラットフォーム「ひろしま好きじゃけんコンソーシアム」についての紹介がありました。

広島大学 産学連携部門長 滝上菊規氏

滝上:PSIは広島の歴史的な事も踏まえ、Peace(平和)という言葉を真っ先に当てています。その中で国から補助金をいただき、広島大学が代表を務め中国四国地域の他の大学を一緒に一つのエコシステムにまとめさせていただきました。昨年国から採択を受け、7つの大学で始め、現在は12大学まで増えています。このエコシステムでは企業活動支援とアントレプレナーシップの教育、環境整備の大きく3つに取り組んでいます。

Peace&Science Innovation(PSI)
https://psi-ecosystem.net/

滝上:ひろしま好きじゃけんコンソーシアムは、広島大学が2021年11月に設立した「産学官金」が連携する中四国最大規模の次世代型DXコンソーシアムです。今年7月には社団法人として事業化しました。チーム内のコミュニケーションと作業を集約できるアプリ「Slack」を使って会話をしながら、皆さま方の課題をそれぞれが解決できるような連携を整えていこうとしています。

ひろしま好きじゃけんコンソーシアム
https://www.sukijyaken.jp/


●パネルディスカッション1
「広島県内企業と考えるDXとの向き合い方」

パネリスト 株式会社熊平製作所 製品開発部 専務取締役 川中 基至 氏
パネリスト 理研産業株式会社 取締役 管理部部長 牛尾 祐三 氏
パネリスト アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
技術統括本部 技術推進グループ本部長 小林 正人 氏
モデレーター イノベーション・ハブ・ひろしま Campsスタートアップアドバイザー
株式会社LTS 星山 雄史 氏

パネルディスカッションの第1部では株式会社熊平製作所と理研産業株式会社の取り組み事例を織り交ぜながらディスカッションが行われました。株式会社熊平製作所はAWSを使った新たなクラウド型セキュリティーサービス「SPLATS」(スプラッツ)を紹介。LTE通信機能を備えた専用デバイスでネットワーク工事が不要なため初期費用を抑えられます。理研産業株式会社は事業の軸足をコピー機の販売からICTコンサルティングに移しており、AWSは「顧客のなりたい姿や悩みに対し、クラウドと技術を通じてハッピーにする」をミッションに掲げています。
モデレーター星山氏は、「DXを目的とするのではなく、お客さまのニーズを聞いて、そのニーズを具現化していく過程の中でDXを実践した例が多いと感じました。初期費用をかけられない方もAWSのクラウドなどを活用することでより挑戦しやすい土壌ができてきていると思います」と締めくくりました。

●パネルディスカッション 2
 「広島県の課題をデジタルで解決!」

パネリスト 株式会社CodeFox代表取締役進藤 史裕 氏
パネリスト 株式会社ビーライズ取締役COO石原 裕輝 氏
モデレーター オプターク合同会社 代表 CEO丸本 健二郎 氏

続いて行われたパネルディスカッションの第2部では「広島県の課題をデジタルで解決!」をテーマに議論が交わされました。パネリストとして、昨年8月に設立しWeb3.0の研究や開発、販売、コンサルティングなどを手掛ける株式会社CodeFoxの進藤社長と、VRやARなどクリエイティブコンテンツ制作の株式会社ビーライズの石原COOが登壇。情報システムコンサルティングなどを行うオプターク合同会社の丸本代表がモデレーターを務め、先進的な取り組みを行う両社の事業に触れつつ、広島県の課題解決に最新技術が役立てられないかなどを話し合いました。

丸本:広島でweb3とXRの第1人者のお二人をお招きいたしました。まずは広島で創業した理由を聞かせていただけますか。

石原:私は大学院からメンタルヘルスの研究で広島に来ました。本社はやはり代表の波多間が広島出身だからということが大きいですね。広島は地理の面や経済規模に加え、新しいことを始めることにも意欲的なところがあり、良い土地だと思っています。

進藤:生まれも育ちも広島ですし、新卒で入社したのも広島に本社がある中国電力です。当時は東京で勝負することに対して自信がなかったことも本音ではありました。ですが広島で起業したのは、これからグローバルでチャレンジする際に、東京にいることのメリットはあまりないと思ったからです。仕事はほぼリモートでやりますから、海外の企業とやり取りをするときに、わざわざ家賃の高い東京に拠点がある必要はないわけです。地元が好きで、地元の自治体や企業と一緒になってやっていきたいという思いも大きいですね。広島は保守的と言われますが、だからこそイノベーションを起こすギャップやインパクトも大きいのではと考えています。

丸本:コロナ禍もあって今リモートで仕事をする世界が当たり前になりましたよね。どこで仕事をするかというのは関係なくて、どう仲間や地元企業との接点づくりをするかというのがポイントと言えそうです。広島県独自の課題はありますか。

進藤:やはりDXがまだまだ進んでいないという印象ですね。DXもまだなのにweb3って早すぎるのではないですかというご指摘をいただくことも多いですが、DXとweb3は順序立てて行うものでもないので、ご説明するとご理解いただけるという感じですね。

丸本:注目している技術はありますか。

石原:私たちが運営しているサービスのひとつにバーチャル企画「メタカープ」というのがあります。カープのファンクラブ限定で、コロナ禍の中、年会費をいただいている会員により良い体験を提供できないか要望がありました。現在は、東京のカープファンも増えてきており、広島にいてもなかなか観戦に出向けないという人にも、まるでマツダスタジアムで応援しているかのようなエンタメ性を提供できているという風に感じています。遠隔でリアルに近い感覚を味わっていただけことが価値だと思っています。

丸本:なるほど。ほかで実際に使われている事例はありますでしょうか。

石原:先ほどはメタバースの話でエンタメ性が高いものでしたが、一般企業で汎用性が高い部分で言うとVR、ARを用いた教育や業務支援が挙げられると思います。例えば、医療分野では手術や診察のシミュレーターがあります。元々ゼネコンなどの建設業界は2015、16年あたりから使っていただいていました。命に関わる上、研修するのにコストが非常に高い分野ではXRが有効です。バーチャルでゴーグルさえ装着すればリアルと同じような環境でシミュレーション、トレーニングができます。今は軽量化などの改良を重ね通信や運送、そして医療業界に広がっています。

丸本:ありがとうございます。現実で研修や鍛錬を重ねたいけれど、失敗が許されないところでは重宝されそうですね。進藤さん、web3の世界はどうですか。

進藤:全部が全部web3に置き換わるわけではないと思いますが、一番に改革が起こるのはマネーの世界だと思います。お金の世界でブロックチェーンが使われるようになることは間違いないでしょう。なぜかというとお金を扱うことはとても厳しい規制にさらされます。金融業なので当然ですよね。誰も信用しなくても、そこのブロックチェーン上にあってそのプログラムさえちゃんと動いていれば、その規制をかけなくてもちゃんと動くという仕組みが担保されれば、規制をそんなに強くしなくても良い。そこでブロックチェーンでお金を管理しようと日本政府などが進めているのがCBDC(中央銀行デジタル通貨)で、中国とかではかなり進んでいます。ブロックチェーンはプログラム開発者でさえ不正ができません。よくある、仕事だけやらせて対価を支払わないなどの問題もクリアすることができます。

丸本:一般企業でも応用できることはありますか。

進藤:はい、当社の事例で恐縮ですが、海外で働いていただいている方への送金です。例えばアメリカの方にドルを報酬として支払う場合、手数料として3~5%くらいかかります。これに関して実はアメリカだとブロックチェーン上のお金がかなり浸透しており、ブロックチェーン上で支払うと手数料が0.5%くらいで済みます。

丸本:スタートアップだと、成長過程でさまざまな苦労がありますよね。中でも人の問題は、仕事を取ってきて、人を採用して、人と人がぶつかり離脱するなど多岐にわたりますが、お二人はどうやって乗り越えていますか。

進藤:やはり「カルチャーを守ること」に一番苦労しています。企業として、ビジョン・ミッション・バリューを決め、行動指針を定めるのですが、それに沿った形で経営を進めていくのが一番大事。その中でカルチャーマッチしていない方が絶対出てくる。矯正するわけにもいかないのでいかに自然に誘導していくかがポイントですね。私たちの会社ですと、なるべく外部のイベントなどを一致団結の場に使っています。外部の約束事で期限も決まっているので、結束が高まります。

石原:大きく2つあって、一つが「組織化」、もう一つが「事業化」です。今年度弊社は10人採用し、そのうち7人が新卒です。その中でいかに組織とカルチャーをつくり、そして評価制度を整えるかという過渡期を迎えています。事業化でいうと、XRで解決できる事業領域や向いているものいないものがある程度見えてきました。その中で毎年新しいものを追いかけつつ、課題ソリューション事業の横展開を進めています。こうした大きなビジネスモデルの転換も苦労しているところです。

丸本:最後に一言お願いいたします。

進藤:人口減や新しい産業の創出など課題がまだまだある中で、やはり広島でチャレンジしている人を応援してあげてほしい。私の周りでも起業家がどんどん増えています。

石原:XRに触れた機会がある人はまだまだ少ないと思います。非常にニッチではありますが、非常に役立つ場面が随所にあり、その市場は徐々に増えています。今後5~10年で一般的に使われるようになると思いますので、ぜひ関心を寄せていただき、新しいXRを地元企業とつくりあげ、広島から世界に発信していきたいと思います。

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