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アスリートも妊活も「Sympafit」でトライアウト【RING HIROSHIMA】

今やプロ野球オフの風物詩となっている12球団合同トライアウト。自らの夢を追い、あきらめることなくチャレンジする姿勢は多くの感動を呼んでいる。今回の挑戦者はそんなスピリットを抱えたアントレプレナー。東京大学野球部の投手として神宮球場で舞った男はRINGで何に挑むのか?

CHALLENGER「株式会社WorldTryout」加治佐平さん

百聞は一見に如かず。まずはこの映像を見てほしい。

血糖値がブチ上がるこの映像は「ワールドトライアウト」のイメージ映像。ワールドトライアウトとは、プロをクビになった野球選手などが海外のリーグに飛び出していく背中を押すための場。メジャーや海外のスカウトが集まり、夢をあきらめない選手たちを見定める。にしても上の映像で使用してるコミックは『MAJOR』だし、監督・コーチとして清原和博氏、片岡篤史氏、入来祐作氏が名を連ねるなど超豪華!

今回のチャレンジャーはそのワールドトライアウトを「株式会社WordTryout」で主催する加治佐平(かじさ・たいら)さん。加治佐さん自身も東京大学野球部で奮闘した野球人だが、それとは別に東京大学大学院農学生命科学研究科で博士号を取った研究者としての顔も持つ。

大学では主に生物、生化学、分子生物学、遺伝学……を研究してました。その中で興味を持ったのが血糖値の問題。血糖値って指から血液を採らないと検査できないから、ものすごく面倒くさいんです。しかもそこで計れるのはその瞬間の血糖値のみ。もし食事の直後だったら血糖値スパイク(食後に血糖値が急上昇・急降下する現象)の影響を受けてるかもしれなくて。やはり時間の経過も含めて連続的に血糖値が測れないと糖尿病予防はできない。それで東大発ベンチャーで、涙で血糖値を計るセンサーを開発したんです

(株)WorldTryout 加治佐さん

そこで誕生したのが「持続的グルコースモニタリング装置(CGM)」という機器。そのCGMのテストをしてるとき、加治佐さんはあることを発見した。

CGMをつけてマラソンをしてみたんです。運動中だからめちゃくちゃ低血糖かと思ってたら高血糖で。それを生物学的に考えたら「メンタルが興奮してるから血糖値が上がってるのかも?」っていう仮説が出てきたんです。血糖値が高いということはアドレナリンが出ているということ。そこからいろんなアスリートにセンサーを付けてもらって、血糖値とパフォーマンスの関係を探るようになりました

(株)WorldTryout 加治佐さん
心理状態とグルコースの値は対応していると考えられる

血糖値の値でアドレナリンの分泌量が見えるということは、つまりプレイヤーの心の中が覗けるということ。だとしたらCGMによって、アスリートのメンタルの問題が解決できるんじゃないか? プレッシャーに苦しむアスリートの心の状態を解析し、「火事場の馬鹿力」的なゾーン状態も計画的に創出できるのではないか?――

自らもアスリートだっただけに、アスリートの心理についてはよくわかる。加治佐さんはさっそく調査を開始。ワールドトライアウトの参加者にCGMを付けもらったり、自転車ロードレースチーム「宇都宮ブリッツェン」と協業してレース中の血糖値データを取得したりした。競技特性による血糖値の変化を研究し、可視化されたアドレナリンを元にパフォーマンス向上のためのアドバイスを送るプログラム「Sympafit(シンパフィット)」を開発した。

「宇都宮ブリッツェン」との実証実験の様子

RING HIROSHIMAには、そのSympafitを引っ提げての挑戦となった。

SECOND①「株式会社みらいワークス」岩本大輔さん

そんな加治佐さんを支えるセコンドは2人。まず1人目は「株式会社みらいワークス」の岩本大輔(いわもと・だいすけ)さん。都市部企業の人材を地方企業に紹介し、地方企業の経営課題解決を推進する地域貢献副業プロジェクト「Skill Shift事業」の責任者を務めている。

僕は都市部のプロフェッショナル人材と地方企業の経営課題を結び付けて、地域を活性化するプラットフォームの責任者を務めており、全国の自治体と提携し事業を推進しています。昨年は広島県の中山間地域振興課と一緒に仕事をしており、庄原市や三次市と連携したセミナーを行っていました。ただ、コロナ禍でやりたかったことがやりきれず不完全燃焼でもあったので、何か別の形で貢献できないかと考え改めてこのセコンドに応募しました

(株)みらいワークス 岩本さん

岩本さんは埼玉在住。駆け出しのセコンドとして、まずは状況を見つめている。

加治佐さんの事業に関しては「めちゃめちゃ面白そうなサービスをやられてるな!」と感じて。ただ、僕は広島在住じゃないので直接活動はできないんです。だからそのあたりは経験豊富な元木さんにお任せして、加治佐さんの活動に役に立つ雑務を担当というか……加治佐さん、11月の病院訪問リスト作られました? 僕、作ります! 情報とりまとめますよ!(笑)

(株)みらいワークス 岩本さん

こうしたガムシャラな若手セコンドも、プレイヤーにとっては嬉しいものだろう。

SECOND②「みるみらい」元木昭宏さん

 もう1人のセコンドは広島在住のベテラン、元木昭宏(もとき・あきひろ)さん。地元にも詳しく、全国で起業を伴走する志プロモーターとしても活動している元木さんの存在は頼もしいばかりだ。

今回は技術的な完成度が高く、加治佐さんは専門知識もすごくお持ちで。セコンドはあくまで縁の下の力持ち。広島にいる私だからこそできることを中心に関わろうと思いました

みるみらい 元木さん

若手とベテラン、都市と地元という異なるタイプのセコンドを得て、Sympafitのプロジェクトははじまった。

しかしその歩みは困難を極めた。

スポーツチームとの提携は不調
妊活サポートが新たなテーマに

もともと加治佐さんは広島出身。地元のツテを頼って県内のプロスポーツチームと提携し、そこでSympafitを使った実証実験を行うというのが当初の目標だった。だが交渉は難航。加治佐さんは別案への変更を決断する。

血糖値からメンタルの状況がわかるということで、Sympafitはうつ病予防や自律神経失調症の検査に役立てると思うんです。でもストレスを感じてる人なら東京の方が多いだろうし……そこで出てきたのが妊活のサポート。女性は排卵日の前後で女性ホルモンの分泌が変わるんですけど、それは血糖値の値にも影響してて。だから血糖値を見れば排卵の状況が予測できるし、自分がストレスを感じているかも判断できるんです。ストレスは妊活の大敵ですからね。広島ではそのモニタリングをやってみることにしました

(株)WorldTryout 加治佐さん

広島は山間部や島しょ部があって、病院に行きにくい人がいる。そうした環境で妊活に役立てる機器があれば喜ばれるのではないか――まさにトライアウトというか、1つダメならまた次へ。加治佐さんはあきらめることなく突破を試みた。

 しかし妊活アプローチも、トライしてみるとイバラの道だった。

妊活は女性のデリケートな問題で、なかなか参加してくれる人が見つからないんです。アスリートは比較的簡単にモニターが見つけられたんですけど、妊活は産婦人科によっても思想が違ってて。不妊治療をしてる方にヒアリングした際は、妊活経験のない女性が聞き手を務めたことでクレームが来たし、体外受精をやってるクリニックの院長には怒られて……難しいなと感じることが多かったです

(株)WorldTryout 加治佐さん

アイデアは易し、実行は難しということか。しかしこの妊活案はセコンドの心にヒットする。

ウチの妻が不妊治療で苦労してたので、自分とも重なって。そこを支援できるのは嬉しいです

(株)みらいワークス 岩本さん

実は去年RING HIROSHIMAで担当したのもフェムテック的なテーマ。私は今10人を超えるメンタリングを並行して行ってるんですけど、その中にもフェムテックに関わってる人がいて、どうもフェムテックが回ってくるご縁があるんです(笑)。これは包括的なサービスを構築しろという命かな、と

みるみらい 元木さん

現在はフリーペーパーでモニターを募集中。11月には応募者への説明と産婦人科病院への協力要請のため、加治佐さんが広島に赴く。こうした苦難に見える道でも、

半分は当たって砕けろの精神。広島での実証実験だからこそ、これだけ思い切ったチャレンジができていることに満足しています

(株)WorldTryout 加治佐さん

と前向きな言葉が出てくるところに、加治佐さんのトライアウト魂は表れている。

アスリートとアントレプレナー
共振するトライアウト魂

 やっと辿り着いた実証実験を前に、セコンド2人は胸の高鳴りを隠さない。

初めて広島でデータがとれる体制が整って、これからがスタート。みなさんには幸せを感じながら協力してもらえるようにしたいです。その結果、妊娠率が高まればさらに幸せが感じられるはず

みるみらい 元木さん

僕は広島には行けないけど、今後事業を拡げていくタイミングで今の僕の仕事と接点が出てくると思うんです。全国の自治体や金融機関とのパイプはあるので、そこを活用してこの先の事業展開に貢献できれば

(株)みらいワークス 岩本さん

 それに応えるチャレンジャーも、この心意気だ。

元木さんが広島で人を集めてくれて、広島に来れない岩本さんも東京のオフィスに会いに来てくれて。「雑務やりますよ!」って言ってくれる人なんてなかなかいませんからね。これから広島県のヘルスケアを盛り上げていければと思います

(株)WorldTryout 加治佐さん

 周囲の応援を糧に、何度でも道が拓けるまでドアを叩き続ける。

「まだだ……まだ終わっちゃいねえ!!」
「つまずいても、何度だってはい上がればいい。」
「失せろ。最後まで闘う意志のない奴に用はねえ。」
「俺は俺の直球を信じてねじ伏せるだけだ!!」

茂野吾郎『MAJOR』より

冒頭のWorldTryout映像には漫画『MAJOR』のアツいセリフが散りばめられているが、それはRINGの舞台でも変わらない。Sympafitの戦いはまだ栄光への端緒についたばかりだ。

「できるかできないかじゃねえよ。男なら、やるかやらねえかのどっちかしかねえだろうが。」

茂野吾郎『MAJOR』より

●EDITOR'S VOICE 取材を終えて

とにかく冒頭のWorldTryout映像にすべてが集約されてます。あきらめたときが本当の終わり。終わらない戦いを戦い続けること――これはまさに起業と一緒で、アスリートもアントレプレナーも夢に向かって挑戦するという意味では同じ種族だと感じました。WorldTryoutではアスリートを支える側の加治佐さんが、今回は支えられる側に回っているというのも面白いところです。

あと、埼玉在住でなかなか現場に参加できない岩本さんが言った以下の言葉も、RINGの今後を考える上で有用な意見だと感じました。

広島でやるから広島が実証実験の場になるのはわかるんですけど、僕みたいにそこに関わりたいと思ってる人がロケーション問わず関われる仕組みを作ったら、もっと参加できる人も増えると思うんです

(株)みらいワークス 岩本さん

 次回の参考にしたいところです。

 (Text by 清水浩司)

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