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DXでコミュニティ・スクール活性化(三原市)【スタートアップ共同調達事業】

学校教育が変わろうとしている。文科省の旗振りの下、地域住民と一体となった学校運営を行うため「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」の設立が進みつつある。新しいシステムには新しいツールが必要だ。教育をめぐる環境の変化を取材した。


地域全体で子供を育てる
新しい学校運営のカタチ


今回の三原市の採択案は「学校業務の地域移行に向けた地域の有償/無償ボランティアの登録プラットフォーム『polyfit』によるコミュニティ・スクールの活性化」。これに関してはコミュニティ・スクール制度を含め、現在の教育状況に関する説明が必要だろう。

取材には市の生涯学習課から門 康樹(かど・やすき)課長、沖 武志(おき・たけし)係長、田房宏章(たふさ・ひろあき)主査の3人が答えてくれた。 

まずコミュニティ・スクールというのは、文字通り地域コミュニティが学校を支えていく仕組みです。いま教育の世界では「地域も一緒に子供を育てる。その核になるのが学校」という位置づけに変えていこうとしています

これまでも、たとえば登下校の見守り、放課後の居場所作り、あと地域の歴史を教える時に郷土史に詳しい地元の方がゲストティーチャーとして登壇する……など、子供たちのために地域の方々には協力いただいてました

しかしこれまでの活動は、ともすればそれぞれ別々の意図を持った個別の活動になっていました。今後はコミュニティ・スクールに取り組むことで、子供たちに関わるすべての大人が目指す子供像を共有し、ベクトルを合わせ、それによって子供たちの輝きをより引き出すことができると考えています

門さん

これまで学校運営は学校とPTAが協力して行ってきたが、新たに保護者代表や地域住民が参加する「学校運営協議会」と、学校活動を支援してくれる人材が集まる「地域学校協働本部」を設置。今後は2つの組織が両輪となり学校運営を行うことになる。

コミュニティ・スクール制度で学校運営のカタチが変わる

三原市はこのコミュニティ・スクール制度を2023年にはじめたんですけど、コミュニティ・スクールを学校運営協議会と地域学校協働本部との両輪で行いたいという意図をもって、先進地の視察を行いながら現在出ている課題の解決も進めていこうとしてるんです

門さん

いよいよスタートしたまったく新しい学校運営のカタチ。はじまったばかりのコミュニティ・スクール制度を成功に導くため、三原市が目を付けたのはDXを用いた地域住民などとのかかわりだった。


もっと地域住民を
教育に巻き込めないか?

 
今回三原市が採択したのは「polyfit株式会社」が開発したクラウド型コミュニティ・スクール運営支援ソフト「polyfit for CS」。名簿管理や連絡業務などPTA活動にまつわる面倒な作業をDXで効率化したプロダクト「polyfit」をベースに学校と地域住民をつなぎ、コミュニティ・スクールの運営を支援する現在開発中のプロダクトである。

コミュニティ・スクール制度の導入にあたって、学校のために何かしたいと思う方は多いと思います。polyfitさんのソフトには人材バンク的な機能があり、「こんなことなら協力できるんじゃないか?」という想いを持った地域の有償・無償のボランティアの方が登録しておけば、「こういう時に協力してくれる人はいないか?」となった時、素早く適した人材が見つかるんじゃないかという期待が持てました

門さん
PTA活動に特化したソフト「polyfit」をベースに開発中のソフト

もともとがPTA活動に特化したソフトをベースに開発されているので、コミュニティ・スクールの運営に力を発揮してくれることは十分期待できる。実際すでに大阪府摂津市の学校などで導入され、PTA支援を軸にコミュニティ・スクールの活性化にも携わっている。

それに加えて三原市が考えたのは、デジタルへの移行をきっかけに地域住民を広く教育に巻き込めないか、ということだった。

従来は地域の顔見知り同士がつながっていて、手伝える方に直接声を掛けていたと思うんです。連絡に関しても、とりまとめをされてる方が1件1件連絡網を使って電話したりして

でもpolyfitを使えば一斉メールで済ませられるし、これまで学校とつながりがなかった方でも興味があればサービス登録できる。もちろん今後もアナログな関係が基盤になることは変わりませんが、新しい方が参加できる余地ができるのはいいことだと思うんです

沖さん
polyfitではサイト上で学校運営を支援する人材を募集することができる

せっかくコミュニティ・スクールという形で地域の教育参加が求められているのなら、住民が参加しやすい環境を整えたい。今回の実証実験はpolyfit導入の実証実験であると共に、三原市なりのコミュニティ・スクールをどう作っていくかという実験でもあるのだ。 


今は学校制度の変革期
この山を越えれば!

 
ではその現状はどうだろう?

現在三原市では5校でコミュニティ・スクール制度の先行導入に取り組んでいます。また、コミュニティ・スクール導入に関する研修会も行ってまして、その中でpolyfitさんのシステムを紹介させていただきました

やはり学校関係者や放課後子ども教室でボランティアの発掘に悩まれているところは多く、「ぜひ使ってみたい」という声も聞かれています

田房さん
polyfit代表の大薮聡史さんも三原市の研修会で説明

評判は上々。じゃあ、やってみましょうか!……とならないのが現実の難しいところだ。実際にシステムを導入するとなると費用もかかるし、導入するなら三原市全体で同じプラットフォームを共有しないと意味がない。

ということで、まずは4月からのコミュニティ・スクール制度本格スタートに際し、1~2校でテスト的に導入し、その効果を検証してみるという流れになりそうだ。

問題はどれくらいの方に登録してもらえるかだと思います。そのためには地域の方にこうしたツールがあることを知ってもらわなければいけません

さらに見守り隊などそうですけど、現在ボランティアに参加されてる方は高齢者が多くて。研修会では「ガラケーでも使えるのか?」という質問が出るなど、どうすればすべての人に簡単に使ってもらえるかも課題です

沖さん
新制度に関して協議を続ける。今は誰もが手探りだ

正直コミュニティ・スクール制度に関してはいまだ手探りで、課題を抽出しながら私たちも一緒になって勉強している状況です。とにかく制度自体がガラッと変わっていこうとしてるわけですから

具体的に物事を進めていくのは学校ですけど、私たちはこうしたシステムの導入などで後方支援していきたいと思ってます。今は大変ですけど、この大きな山を越えればきっと「コミュニティ・スクールになってよかった」と言ってもらえると思います

門さん

今はまさに「生みの苦しみ」の時期。制度の大転換とDXを実行するには、越えなければならない大きな山が存在するのだ。


学区だけでなく市全体の
人材発掘ツールになれば


最後にThe Meetの感想を尋ねた。

これまで私はデジタルを事務のやり方としか見てなかったんですけど、今回デジタルが課題解決の手段になることを知りました。それはすごく勉強になりましたし、今後も進めていきたいと思います

田房さん

今回はコミュニティ・スクール制度に関して模索している最中にこの話をいただいて。このタイミングで新しい取り組みに挑戦できたことは非常によかったと思います。研修会の時に「こういうのがほしかったんだよ!」って言われた方もいて、まさにタイムリーな企画でした

沖さん
学校もそれをとりまくコミュニティも大きな変化を迎えつつある

polyfitさんのサービスは今後、学区だけではなく三原市全体で「こんな人材がいる」「こんなスキルを持った人がいる」という人材発掘ツールにもなりえると思うんです。それがコミュニティ・スクールにつながって子供たちの学びを助け、ひいては地域に対する愛着が増していく――そういう流れを生むための第一歩として期待を寄せています

門さん

コミュニティ・スクール制度は学校だけの問題ではない。大人も子供も関係なく、いかにコミュニティの価値を掘り起こし、活性化させるか。それは今後自治体にとって重要なテーマになるはずだ。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて

私は現在50代ですが、学校のPTAや部活動の保護者会などの連絡はグループLINEで行っています。DXの話が出るとしばしば「高齢者はスマホに付いていけない」という課題が持ち上がりますが、それに関してはデジタル慣れした世代が高齢化することで自然と解消されるはず。それより問題はコミュニティ・スクール制度の方。はたしてこれだけせわしない世の中で、地域に教育を担える余力があるのか……今後の展開に注目です。(文・清水浩司)

 

・共同事業者:polyfit株式会社
・活用ソリューション:クラウド版コミュニティ・スクール運営支援ソフト
「polyfit for CS」

・概要:学校運営協議会へのDX導入によってコミュニティスクールの活動を活性化させる
・必要経費:100万円(※ソフト使用費、導入サポート費など)


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