高齢者ボランティアを“廿らつ”DX(廿日市市)【スタートアップ共同調達事業】
「The Meet」の中で多くの自治体が課題に挙げているのが「高齢化社会×DX」の取り組みだ。将来さらに進むはずの少子高齢化社会に向けDXによる効率化は不可避だが、いまだにガラケーという人も少なくない高齢者にいかにデジタルを浸透させるかという問題が常に付きまとう。廿日市市のケースはどうなのだろう?
ボランティアにアナログで対応
参加者の増加で対応に限界が
廿日市市が今回採択した案は「認知症予防総合サービス『脳にいいアプリ』を活用したボランティアポイント事業の効率化及び健康づくりの多様化・習慣化」。取材には、健康福祉部地域包括ケア推進課から課長の高下美穂子(こうげ・みほこ)さん、課長補佐の森崎明子(もりさき・あきこ)さん、保健師の木下 栞(きのした・しおり)さんの3人が対応してくれた。
まず最初に部署が抱えている課題について聞いた。
廿らつプラチナボランティア制度……どうでもいいかもしれないが一応言っておくと「廿らつ」はハツラツと掛かっている。廿日市市では高齢者に多様なボランティアを紹介していて、たとえば介護施設の手伝い、子どもの登下校に合わせた地域の見守り、百歳体操やサロンのお世話……などをすることによりポイントが貯まる上、ハツラツとした暮らしができる仕様になっている。
廿らつボンランティア制度はスタートして7年、右肩上がりに参加者を増やし、現在は650人を突破している。そのうち約8割が換金システムを活用中。制度の浸透は喜ばしいものの、一方でアナログでの対応はすでにパンク状態で限界を迎えつつあった。
これ以上参加人数が膨らんでいくならデジタルへの切り替えは不可欠……「The Meet」の話を聞いたのは、そんなタイミングだった。
健康アプリのポイント機能を
ボランティア参加者に活用
地域包括ケア推進課の呼びかけに集まった提案は全5社。その中で協業相手に選んだのは「株式会社ベスプラ」だった。
ベスプラは健康アプリ、家族の健康管理サービス、運転免許更新時の認知機能テストなどさまざまなITサービスを展開する会社で、すでに設立10年以上。スタートアップの中では老舗と言える存在だ。
ベスプラが廿日市市に提案したのは、自社が運営する「脳にいいアプリ」の導入だった。「脳にいいアプリ」はその名の通り、脳の健康維持を目的にした無料スマートフォンアプリ。アプリ内には脳トレ、歩数計、食事管理、パズルといったさまざまなメニューがある。
話を聞くと「脳にいいアプリ」は総合的な介護予防アプリといった趣だが、そこに廿日市市が求めるボランティア制度DXはどう関係するのだろう?
すでに「脳にいいアプリ」は東京都の渋谷区や八王子市、愛媛県松山市などで導入済。「健康アプリ×健康ポイント」のサービスとしては日本の自治体導入数シェアトップの実績を誇る。
この「脳にいいアプリ」をボランティア制度のデジタル化だけでなく、高齢者に役立つ総合健康プラットフォームとして活用すること。廿日市市の取り組みはボランティア制度DXという枠を超えて、「高齢者DX」というスケールまで拡大しようとしていた。
ガラケーしか持ってない方が
説明会に来られたりも(笑)
では実証実験の様子はどうか? まず2月1日に説明会を開催。42人をモニターに、2月から12月までの間、追跡調査を行うことになっている。
ただ説明会を開いて感じたのは、予想していたとはいえ、高齢者にスマホ操作をマスターしてもらうことの難しさだった。
やはり障壁となるのは高齢者のデジタルリテラシー。市としては今後も定期的に対面での説明会を開催するというが、これに関しては高下さんも言うように「生みの苦しみ」と捉えた方がいいかもしれない。今後スマホ慣れした世代が高齢化することで説明会の必要はなくなるし、それ以上に多くの高齢者が同じアプリを入れることで、市は多大なメリットを享受できる。
廿日市市が長めの実証期間をとったのは、そうした全庁的な展開も視野に入れているからなのだ。
The Meetは規模感的に
ちょうどよかった
課題がゼロというわけではないが、それでもこのプロジェクトの先行きは明るいと担当者たちは感じている。
今回のThe Meetに関してはこんな意見も寄せられた。
千里の道も一歩から。どんな壮大な計画もとっかかりがなければ絵に描いた餅にすぎない。そうした意味でも、今回のThe Meetはスモールスタートのいいきっかけになったのではないだろうか。
●EDITOR’S VOICE 取材を終えて
自治体業務のDX化が進まないと言われていますが、確かに今回の「廿らつプラチナボランティア手帳」のデザインや中身など見るとなかなか古風なアナログ感……。スタンプをもらうため役所まで足を運び、職員も手帳にスタンプを押してあげて……って、「そりゃ大変じゃったねぇ~」と熱いお茶でも煎れてあげたくなります。牧歌的だけど、そりゃ限界が来ますよ。
今後デジタルへの切り替えは進むでしょうが、個人的にはハツラツを「廿らつ」と書くような心あたたまるアナログ感は引き続き残してほしいと思います!(文・清水浩司)
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