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アウトドアスポーツ×脳内革命=「ハダシランド」【RING HIROSHIMA】

RINGの取材をやっていると、個人的な琴線にビビッと触れる挑戦者に出会うことがある。今回のチャレンジャーはまさにそれ。ボルダリングやスラックライン(いわゆる綱渡り)のプロということで、アスリートのスポーツ推進プロジェクトと思っていたが……。マインドの在り方自体を変革する大胆不敵なゲームチェンジャーの登場だ。

CHALLENGER「ポーザー株式会社」三由 野さん

 
とにかく挑戦者の三由 野(みよし・なお)さんのキャリアがすごい。まず三由家は代々ロッククライミングの家系。80年代当時は遊び方が確立していなかったボルダリングのルールを父や仲間たちと共に作り上げ、その黎明期を支えてきた。そして三由さん自身もボルダリング、自転車のダートジャンプ、マウンテンバイク、スキーのビッグエア、激流下りのSUPなど7つの競技でプロ契約を交わしている。

大観衆の上でスラックラインを披露する三由さん!

 いま挙げた競技すべてに共通してるのは「失敗したら死ぬかもしれない」ということ。われわれ一族は今で言うエクストリームスポーツを命懸けで行うことで、独自の身体の使い方や教育方法を学んできました。こうしたエクストリームスポーツを脳科学的に解釈し、介護やリハビリ、教育も含めた社会還元を行うのがわれわれの事業です

三由さん

三由さんが代表を務める「ポーザー株式会社」が打ち出す「アウトドアスポーツ×脳科学」というコンセプト。最初は「?」と思ったが話を聞くうちに惹き込まれた。

 私たちは「ハダシランド」というイベントを行っています。これはハダシアソビを体験する場で、子供たちにスラックラインやパルクール等のアウトドアコンテンツを楽しんでもらうのですが、発達障害などで悩まれていた家族がここに来ると一気に問題が解決するんです。これまで友達関係がうまく結べなかった子が、いきいきした表情に変わって。学校などの競争社会から解き放たれることで子供たちが本来の力を取り戻して、それに感動したご両親が涙を流されることもあります

三由さん

三由さんの改革はエクストリームスポーツが持つ本能の覚醒と、自分自身との対峙(=他者との競争の放棄)に根付いている。「落ちたら死ぬかも」という極限の疑似体験の中で生身の自分と向き合い、それを乗り越えるスキルを身に付けることで自己肯定感を獲得する。ここでは「ハダシ=本来の自分自身」であり、そこに立ち返ることで生きるチカラを取り戻すのだ。

われわれは正解を教えるんじゃないんです。常に問いを出し、自分の頭で考える訓練を続けるんです。常に向き合うのは自分自身。各自が自己の探求に忙しいので他人をいじめたり差別したりするヒマはありません

三由さん

剣術の世界では命を懸けて斬る斬られるという状況に追い込まれた人物が急激に天才化することがあるんです。それと同じです。ハダシで動物としての自分を認めるところから始めれば、誰でも天才化します。子供を不幸にしてるのは親から受け継がれた固定概念。そこに適応できなかった子供が発達障害だ自閉症だって世間から弾かれてしまうんです

三由さん

 静かな語り口ながら、その口からは次々と確信的な言葉が流れ出す。ふと思い出したのは、スケートボードが初めて正式種目となった東京オリンピックの場面。選手同士が互いにリスペクトしながら競技を楽しむ姿は、新世代のスポーツマンシップとして脚光を浴びた。人と人が相手を蹴落とし合う「競争」ではなく、それぞれの道を各自が極める「共創」こそが今の時代に必要なのかもしれない。

SECOND①「株式会社ナッカサン」仲 正人さん

 
1人目のセコンドである仲 正人(なか・まさと)さんは前回に引き続き参加。産官学をつなぐコーディネーターとして活動している。

 三由さんのプロジェクトには直感的に惹かれる部分がありました。というのも私はバレーボールの指導者をやってたことがあって、その時小学生世代の足の裏の故障が非常に多かったんです。ハダシで生活するって本来人間の姿で、三由さんの話を聞いた時に「これだ!」と思って。すぐにシンパシーを感じました

仲さん

ただ、セコンドに付いてみて驚いた。

 三由さんのスピード感と動きの速さに全然追いつけなくて。情報が常に更新されていくんで、ちょっと経つと自分が思っていたのとは全然違う状況になってたりするんです

仲さん

そう、三由さんとハダシランドの活動はものすごい速さで拡大を続けているのだ。

SECOND② 島本栄光さん

 
拡大の様子を説明する前にもう1人のセコンドを紹介しよう。島本栄光(しまもと・さかみつ)さんは銀行のITガバナンスが専業。これまでRINGは皆勤で参加だが、その島本さんもハダシランドのパラダイムシフトには舌を巻いた。

最初はつかみどころがない話だと思って聞いてたんですけど、だんだん理解が深まってきて。とにかく三由さんの話が面白いし、自分でやっておられるから説得力もある。これまで関わったプロジェクトとは全然違うし、既存の枠に収まりきらない内容だと思いました

島本さん

 そして島本さんはある試みに動く。

 ハダシランドはもはやコンテンツやイベントの枠を超えて、ひとつのインフラだと思ったんです。だったらその上に経営的な目線で企業を引き込むことができないか? あと、インフラならここにRING参加者も乗っかっちゃえばいいのに、と思って。それで今回僕が担当してるもう1人のチャレンジャーと三由さんをつないでみたんです

島本さん

セコンドを媒介に繋がり合うチャレンジャー。それで一体どんな化学反応が起こったのだろう?

「爆速」で進展する広島事業
次々と新たな契約を締結!

 
改めて説明すると、ハダシランドは三由さん在住の山口県を中心に行われている子供向けアウトドアスポーツイベント(三由さんは東京都葛飾区出身。縁もゆかりもない中国地方で起業した)。それを広島でも展開するのが今回の目的である。

さまざまなコンテンツが楽しめる遊び場を提供する

ハダシランドは行政とタイアップして無料で提供する体験コンテンツ。これまでの1年半で実名3,500アカウントを集めました。みなさん3~4人家族で来られるので実質1万人以上を動員するパワーがあります。しかもリピート率も74%前後と高水準を保っています

僕らは何のプロダクトも持っていませんが、この大量のお客さんに興味がある企業が数多くいます。ソーシャルインパクトに投資したい企業、そして僕らを宣伝プラットフォームとして使いたいスタートアップの方々……そういう人たちとの連携も探っているところです

三由さん

ハダシランドは12月に行われた未来のパブリックを示すプロジェクトを発掘・応援するアワード「NEXT PUBLIC AWARD」公園・道路部門で優秀賞を受賞するなど、まさに全国的な注目を集めている最中だ。

その広島での活動について、三由さんは「爆速で進んでいる」という。7月に広島事務所を設立。わずか2ヶ月で某大企業と共同でプロダクトを開発をすることが決定した。さらに12月にはハダシランド広島版を開催。その会場には先述した島本さんがセコンドを務める挑戦者の「革新的モビリティ」も参加。それ以外の契約も次々と内定中……いやはや、確かにこれは「爆速」の拡散力である。

広島でのハダシランドは多様な企業が参加

セコンドのお2人には今回いろんな部分でサポートしてもらいました。仲さんには産学連携という部分。そして島本さんからは大企業の論理。われわれがやってることは大企業という「脳科学的に高次元な集団スポーツ」とは真逆なので、どういう話の進め方をすればいいかまったくわからなくて。今回は銀行さんへの根回しの仕方などを学ばせてもらいました(笑)

三由さん

 現状は2人のセコンドの社会性を火薬として、ハダシランド哲学のビッグバンが広島で起こっていると言っていい。

ハダシランドはプラットフォーム
化学反応を起こしていければ


 僕はRING HIROSHIMAという運営プログラムがあることを知らなかったんです。もっと広島県はこれを自慢すべきですよ。すごい方々がRINGから巣立ってるので、そういう方がわれわれをプラットフォームとして認識してくれれば嬉しいし、それぞれが横の繋がりを持って化学反応を起こしていければもっと面白くなると思います

三由さん 

三由さんはまだまだいろんな動きをされると思うんで、そこに参加して一緒に楽しんでいきたいと思います。あとこれまでハダシランドには3回参加してるのに、まだ1回もハダシになってスラックラインに乗ってないので、次は挑戦したいと思います(笑)

仲さん

今回チャレンジャー同士を繋ぎましたけど、RINGとして公式にチャレンジャー同士を結びつける術がないので、来年以降そういう仕組みを真剣に考えてもいいと思います

島本さん

スケボーなどのエクストリームスポーツにおいて、個々でプレイしていた人たちがぶつかり合って技術を向上させることを「ミックスアップ」と呼ぶ。まさに今、RINGはミックスアップ状態。このハダシランドの大波は今後多くの既存の価値観をひっくり返していくはずだ。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて

 
三由さんの話が面白すぎて大幅に超過してしまったインタビュー。上の原稿に入れられなかったことで興味深かったのが「大人こそハダシで遊んでほしい」という発言。「今のこの状態を当たり前にするには、まず大人が遊ばなきゃいけないんです。大人が自由に遊ぶところを見て、子供がやりたいと言ったら仕方なく順番を譲ってやる(笑)――それが理想だと思いますね」。この人の哲学はまだまだ深い。今後も個人的に追いかけたいと思います!

(Text by 清水浩司)

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