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駆除鹿肉を肉食動物のプレゼントに(竹原市)【スタートアップ共同調達事業】

昨今「推し活」という行動は世の中で当たり前になってきた現象だが、推し活の対象がアイドルやアニメキャラではなく「動物」というのは初めて耳にした。動物園・水族館で暮らす動物たちに「食事」を贈るという形の「新たな推し活」に、鳥獣被害を防ぐため狩猟された鹿の肉を活用する!? 前例のないアップサイクルの試みが竹原で行われている。


捕獲される鹿や猪が年1,000頭
これを資源として活用できないか?


「The Meet」ではオープンイノベーションで課題解決を目指すがゆえに、時に思いもよらない解決策がもたらされることがある。竹原市が採択した「動物園・水族館の推し活サービス『Hello! OHANA』と連携し、鳥獣害対策で駆除された鹿肉を肉食動物に提供するサプライチェーンを構築」はそのひとつだ。

そもそもどんなところからスタートしたのか? 市の産業振興課商工観光振興係主任である森田裕之(もりた・ひろゆき)さんは振り返る。 

竹原市は面積の70%以上を山林が占めていて、鳥獣が多く生息しています。農作物を猪や鹿の被害から守るため、猟友会の方と協力して捕獲を進めているのですが、捕獲した肉の大半は廃棄しているのが現状で。それを最近人気のジビエなどの形で活用できないかというのが最初のアイデアでした

竹原で年間駆除される鹿や猪は約1,000頭。近年は海沿いの道路にまで出てきたり、畑も防護ネットがないと守れない状況になっているという。捕獲された猪と鹿は費用をかけて処理されている。

こうした廃棄している鹿の肉を活用し、サプライチェーンを構築することで猟友会の収入を確保し、持続的な活動につなげていきたいんです

あと、猟友会も高齢化が進んでいて。捕獲はまだしも、大きな猪や鹿を廃棄する労力というのもかなり大変なんです。それを軽減できればという想いもありました

住民の暮らしを脅かす猪や鹿を駆除するだけでなく、それを資源と捉えてマネタイズすることで円環型のエコシステムを構築する。竹原市の考えは至極まっとうなものだが、そこに飛び込んできたのは予想もつかない角度からの提案だった。

動物園の動物に「食事」を
贈るという応援活動=推し活


そもそもこういったサービスがあること自体、私自身が存じておらず。想定もしてなかった提案に最初は驚いたんですけど、話を聞いているうちに「こういう解決方法で挑戦してみるのも面白いな」と思うようになりました

竹原市が選んだ協業相手は、2022年11月に創業したばかりの「株式会社OHANA」。OHANAが展開する「Hello! OHANA」は動物園・水族館で暮らす動物に食事を贈って応援するという推し活サービスだ。

 具体的には、サービスユーザー(以下ユーザー)がペンギン、カピバラ、ニホンザルといった「推しの動物」に食事を購入してプレゼントすると、そのお礼として動物たちが食事を楽しむ動画が送られてくる。この仕組みを通してユーザーは大好きな動物に対する愛着を深め、同時に不揃いな見た目だけの問題で廃棄されたり、コストをかけて二次加工されていた野菜や果物を無駄にせず活用できるという試みだ。

お気に入りの動物の「食事」をサポートするという推し活

動物園・水族館で生活する動物を応援する、という「新たな推し活」のイノベーションはさておき、森田さんが惹かれたのはその事業内容だけでなく、OHANAの持つチャレンジ精神にもあった。

肉食動物に対する推し活は今回が初の試みとなる

野菜や果物を提供する推し活のシステムはすでに稼働してるんですけど、肉食動物に対する推し活はこれまで未経験らしく。OHANAさんも竹原市での実証実験を機に、ジビエを肉食動物に提供するシステムを作りたいとおっしゃられたんです

初めての試みだからこそ応援したい。ちなみに竹原市のもう1つの採択案である「地元住民を雇用して観光記事を作成する」というプロジェクトもスタートアップ企業にとって初の試み。こうして「チャレンジを応援するまち=竹原」のジビエ活用計画はスタートしたのだった。

細菌リスク等の厳しい基準
鹿肉の処理工程は相当複雑

 
今回の実証実験では2つのシステムの構築が目標となる。

1つは鹿肉のサプライチェーンの構築である。猟友会、竹原市の冷蔵・配送会社、広島県内外の動物園がOHANAと連携して、鹿肉の加工処理から冷蔵保管、配送、動物園での給餌まで一連の流れを作る。

もう1つは会員に料金を払って食事を購入してもらう、推す側のシステムの確立である。 

「Hello! OHANA」のサイトには数々の動物が掲載されている

現在、前者は鹿肉の解体・加熱・冷凍処理後に検査所で検査を行い、動物園に冷凍パックした状態で配送、そこで実際に動物たちに食べてもらえるかどうか確認している最中です。同時に肉をどれくらいの大きさで解体すると動物園側も使いやすいのかリサーチを進めています

後者はサービス上に鹿肉を購入してもらう仕組みをトライアル的に設置、どれくらいのユーザーが関心を持って鹿肉を購入してくださるか検証している状態です

竹原市もOHANAも初めてのことだらけなので、つまずく部分は少なくない。特に野生の鹿肉は果物や野菜と違って細菌や寄生虫などのリスクも高い。動物たちの健康に関わるため基準が厳しく、低温加熱殺菌処理や冷凍処理など工程がかなり複雑だ。

想像以上に複雑な肉の加工処理に最初は戸惑ったという

また、当初は殺菌処理に時間と工数がかかっていたが、新たな試作機を導入。それがうまくいけば2時間の時間短縮と工数削減が実現する。1つ壁にぶつかっては悩み、それを乗り越えたらまた次の壁に当たる。そうした試行錯誤を繰り返しながら、一歩ずつ目標に向かっている。

スケジュール的には遅れてますけど、ひとまず今年度中にサプライチェーンの構築までは持って行きたいと思ってます。それをどう展開するかは来年度以降の課題ですね

今回は私どももOHANAさんも、未知の世界に飛び込んで一緒にチャレンジしているという感覚がすごくあって。OHANAさんは竹原に来て猟友会の方と話したり、解体の現場も見学したいと言ってくれて、コミュニケーションをとりながら着実に前進してると思います

OHANAの棚木悠代表(左)は竹原に来て、実際に猟友会の方の話を聞いた

やはり竹原市の場合、自治体とスタートアップの関係性が他とは少し異なる印象がある。課題解決をスタートアップ(外部)にアウトソーシングするというより、二人三脚で取り組んでいくというイメージ。そのアツい人情は竹原の「地域性」「土地柄」を表しているように感じられる。

独自の施策「たけはらDX」と
同じ流れで取り組めた 


実は竹原は2023年から「たけはらDX」というプロジェクトをスタートしている。独自にスタートアップをスカウトし、地域課題解決のモデルケースとなるイノベーションを創出しようとする取り組みだ。OHANAとの協業は当初「たけはらDX」として採択され、そこでのシナジーが評価されたことでThe Meet採択につながったという経緯がある。

竹原はスタートアップへのアプローチを独自に進めている

今回はThe Meetの直前に「たけはらDX」がはじまったので、同じ流れで取り組めた感じです。私たち産業振興課も既存の仕事だけでなく、「新しいことに踏み出していかなければいけない」という想いの中でスタートアップさんの提案を受けたので、お互いチャレンジしていくという気持ちが通じ合った状態で実証実験を進めていけたと思います

「たけはらDX」も2024年3月に成果発表会を行い、ここで一区切りというスケジュール。ほぼ同時進行で進められた「The Meet」と「たけはらDX」、2本の流れが合流した竹原には今、チャレンジへの大きな気運が渦巻いている。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて

それにしても世の中、推し活、推し活と賑やかですが、動物の世界まで推し活が進出しているとは思いませんでした。「Hello! OHANA」のサイトを見るとかわいい写真の下に、オランウータンのハヤトくん、マントヒヒのパパンさん、コツメカワウソのナナちゃん……そして今月のお誕生日コーナー。そっか、誕生日プレゼントをあげるということなんですね。

動物愛が竹原市の課題解決につながる。竹原の鹿の命もムダにしない。これも新時代の食物連鎖と言えるのかも。(文・清水浩司)

 

・共同事業者:株式会社OHANA
・活用ソリューション:動物推し活サービス「Hello! OHANA」
・概要:駆除した鹿肉を、動物園の動物への推し活サービスに活用するためのサプライチェーンを構築する
・必要経費:100万円(※鹿肉処理費、運送費など)


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