駆除鹿肉を肉食動物のプレゼントに(竹原市)【スタートアップ共同調達事業】
昨今「推し活」という行動は世の中で当たり前になってきた現象だが、推し活の対象がアイドルやアニメキャラではなく「動物」というのは初めて耳にした。動物園・水族館で暮らす動物たちに「食事」を贈るという形の「新たな推し活」に、鳥獣被害を防ぐため狩猟された鹿の肉を活用する!? 前例のないアップサイクルの試みが竹原で行われている。
捕獲される鹿や猪が年1,000頭
これを資源として活用できないか?
「The Meet」ではオープンイノベーションで課題解決を目指すがゆえに、時に思いもよらない解決策がもたらされることがある。竹原市が採択した「動物園・水族館の推し活サービス『Hello! OHANA』と連携し、鳥獣害対策で駆除された鹿肉を肉食動物に提供するサプライチェーンを構築」はそのひとつだ。
そもそもどんなところからスタートしたのか? 市の産業振興課商工観光振興係主任である森田裕之(もりた・ひろゆき)さんは振り返る。
竹原で年間駆除される鹿や猪は約1,000頭。近年は海沿いの道路にまで出てきたり、畑も防護ネットがないと守れない状況になっているという。捕獲された猪と鹿は費用をかけて処理されている。
住民の暮らしを脅かす猪や鹿を駆除するだけでなく、それを資源と捉えてマネタイズすることで円環型のエコシステムを構築する。竹原市の考えは至極まっとうなものだが、そこに飛び込んできたのは予想もつかない角度からの提案だった。
動物園の動物に「食事」を
贈るという応援活動=推し活
竹原市が選んだ協業相手は、2022年11月に創業したばかりの「株式会社OHANA」。OHANAが展開する「Hello! OHANA」は動物園・水族館で暮らす動物に食事を贈って応援するという推し活サービスだ。
具体的には、サービスユーザー(以下ユーザー)がペンギン、カピバラ、ニホンザルといった「推しの動物」に食事を購入してプレゼントすると、そのお礼として動物たちが食事を楽しむ動画が送られてくる。この仕組みを通してユーザーは大好きな動物に対する愛着を深め、同時に不揃いな見た目だけの問題で廃棄されたり、コストをかけて二次加工されていた野菜や果物を無駄にせず活用できるという試みだ。
動物園・水族館で生活する動物を応援する、という「新たな推し活」のイノベーションはさておき、森田さんが惹かれたのはその事業内容だけでなく、OHANAの持つチャレンジ精神にもあった。
初めての試みだからこそ応援したい。ちなみに竹原市のもう1つの採択案である「地元住民を雇用して観光記事を作成する」というプロジェクトもスタートアップ企業にとって初の試み。こうして「チャレンジを応援するまち=竹原」のジビエ活用計画はスタートしたのだった。
細菌リスク等の厳しい基準
鹿肉の処理工程は相当複雑
今回の実証実験では2つのシステムの構築が目標となる。
1つは鹿肉のサプライチェーンの構築である。猟友会、竹原市の冷蔵・配送会社、広島県内外の動物園がOHANAと連携して、鹿肉の加工処理から冷蔵保管、配送、動物園での給餌まで一連の流れを作る。
もう1つは会員に料金を払って食事を購入してもらう、推す側のシステムの確立である。
竹原市もOHANAも初めてのことだらけなので、つまずく部分は少なくない。特に野生の鹿肉は果物や野菜と違って細菌や寄生虫などのリスクも高い。動物たちの健康に関わるため基準が厳しく、低温加熱殺菌処理や冷凍処理など工程がかなり複雑だ。
また、当初は殺菌処理に時間と工数がかかっていたが、新たな試作機を導入。それがうまくいけば2時間の時間短縮と工数削減が実現する。1つ壁にぶつかっては悩み、それを乗り越えたらまた次の壁に当たる。そうした試行錯誤を繰り返しながら、一歩ずつ目標に向かっている。
やはり竹原市の場合、自治体とスタートアップの関係性が他とは少し異なる印象がある。課題解決をスタートアップ(外部)にアウトソーシングするというより、二人三脚で取り組んでいくというイメージ。そのアツい人情は竹原の「地域性」「土地柄」を表しているように感じられる。
独自の施策「たけはらDX」と
同じ流れで取り組めた
実は竹原は2023年から「たけはらDX」というプロジェクトをスタートしている。独自にスタートアップをスカウトし、地域課題解決のモデルケースとなるイノベーションを創出しようとする取り組みだ。OHANAとの協業は当初「たけはらDX」として採択され、そこでのシナジーが評価されたことでThe Meet採択につながったという経緯がある。
「たけはらDX」も2024年3月に成果発表会を行い、ここで一区切りというスケジュール。ほぼ同時進行で進められた「The Meet」と「たけはらDX」、2本の流れが合流した竹原には今、チャレンジへの大きな気運が渦巻いている。
●EDITOR’S VOICE 取材を終えて
それにしても世の中、推し活、推し活と賑やかですが、動物の世界まで推し活が進出しているとは思いませんでした。「Hello! OHANA」のサイトを見るとかわいい写真の下に、オランウータンのハヤトくん、マントヒヒのパパンさん、コツメカワウソのナナちゃん……そして今月のお誕生日コーナー。そっか、誕生日プレゼントをあげるということなんですね。
動物愛が竹原市の課題解決につながる。竹原の鹿の命もムダにしない。これも新時代の食物連鎖と言えるのかも。(文・清水浩司)
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