事業承継で「まちの奥行き」を守る(呉市)【スタートアップ共同調達事業】
今回呉市が「The Meet」において採択した案件は2件だが、その2つは「商店街の再生」という点で同じ方向を向いている。1件目は空き店舗に新たな起業家を呼び込むことで、まちの賑わいを増やす取り組み。そしてもう1件は、これ以上経営を続けるのが困難になった店舗を事業承継によってよみがえらせる取り組みだ。数々の名店が集まる呉で、老舗の世代交代は可能なのだろうか。
老舗は意識して守らないと
どんどんなくなってしまう
今回紹介する呉市の案件は「後継者のいない老舗を移住者等による事業リノベーションへ繋げるマッチングプラットフォーム『relay』による商店街の事業承継」。もう1つの採択案が「事業をしたい借主の情報を物語として公開し、遊休不動産のオーナーに繋げる『さかさま不動産』による挑戦しやすい・したくなるまちの機運醸成」であることを考えると、とにかく「商店街をなんとかしたい!」という切迫した想いが伝わってくる。
今回も呉市産業部商工振興課商業グループ・課長補佐の久保善裕(くぼ・よしひろ)さんに話を聞いた。
なるほど、空き店舗に新規事業者を呼び込む動きが「幅」だとすると、老舗を再生・復活させる試みが「奥行き」を維持する活動か。では事業承継に関して、呉の実情はどうなのだろう。
呉の戦後復興を支えてきた老舗も高齢化の波の前に風前の灯火……日本全国他の地域と同様、呉でも事業承継の推進は待ったなしという状況だ。
早くも1件の記事がアップ
問い合わせから面談に!
そんな中で呉がパートナーシップに選んだスタートアップは「株式会社ライトライト」。2020年に創業し「relay」という名の事業承継マッチングプラットフォームを運営している。
relayのやり方はこうだ。事業承継が必要な店舗や事業所を発掘して、それを記事化、relayのホームページに掲載する。それを見た事業承継希望者が手を挙げ、互いの条件が合えば承継成立となる。relayの強みについて久保さんはこう語る。
さらに久保さんが驚いたのが、スタートアップならではのスピード感だ。すでにrelayの呉版である「relay the local×呉市」がオープン。運よくライトライトに遠隔勤務中で江田島在住の社員がいたこともあり、取材して掲載までわずか10日間、早くも1件の案件がアップされている。
実際にページを開くと、店の実景はもちろん、店の歴史、バックグラウンド、現社長の人柄まで伝わってきて惹き込まれる。引き継ぐ対象が具現化されることで、自然と「なんとかしたい!」という気持ちがふくらんでくる。実際、呉楽器店の場合、掲載2週間で早くも問い合わせがあり、すでに面談まで進んだという。
relayとの連携、滑り出しは上々のようだ。
事業承継は事業自体を
リノベーションする好機
久保さんは先方との話し合いの中で意気投合したことがあるという。
これまで引き継がれてきた技術や商品、知名度やネットワークを残しながら、それを新たなスタッフと、新たなやり方を用いて、新たな時代に対応可能なものにアップデートさせていく。呉市は事業承継というピンチを、まち全体をアップデートさせていく新陳代謝のチャンスだと捉えている。
リノベーションしなければいけないのは市街地の商店街だけではない。柑橘農家も、漁業関係者も、町工場の経営者も……過去の財産を未来に引き継ぐアップデート作業に終わりは見えない。
呉だけがよくなっても仕方ない
エリア全体がよくならないと
「The Meet」について久保さんはこんな感想を抱いている。
relayに関しては、このまま自走していけば市は環境面をバックアップする役割に回ろうと思っている。
事業承継というリノベーションが進み、「シン・呉市」の姿が見えてきた頃には、広島県というエリア全体もアップデートされているかもしれない。
●EDITOR’S VOICE 取材を終えて
relayというサイト、初めて知ったのだが見ているだけで面白い。100%有機肥料を使った鳥取のいちご農家、アナログレコードが聴ける宮崎の喫茶店、福岡の活版印刷屋……記事を読んでると「これなら自分でもできそう」とか「こんな生活してみたい」など勝手な妄想が膨らんでいく。筆者が見た時も呉楽器店の記事の下には「24時間以内に71人が閲覧しています」とあって、かなり注目されている様子。他の人に取られるんなら、いっそ自分がやっちゃおうか……夢追い人のアナタ、一度relayをチェックしてみてはいかが?(文・清水浩司)
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