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「市役所GPT」で住民応対を自動化(尾道市)【スタートアップ共同調達事業】

2022年11月の発表以来、爆発的な勢いで普及しているAIチャットボット「ChatGPT」。今やこの革命的技術の活用法を巡って世界のあちこちでしのぎを削っているが、そんな中で登場した新サービスが「市役所GPT」。自治体が住民サービスにChatGPTを導入する? 尾道市で進められているトライアルの様子をレポートしよう。


繁忙期にはゴミ捨ての
問合せ電話が1日100件


今回の「The Meet」で尾道市が採択した案は「職員によるQ&A作成が不要なAIチャットボット『市役所GPT』による問い合わせ満足度の向上及び職員業務の省力化」。市役所GPTというネーミングの時点で、すでにどんな内容かだいたいの想像はつきそうなプロジェクトである。

今回は尾道市役所の政策企画課・政策企画係主任の應治拓孝(おうぢ・ひろたか)さん、情報システム課・情報システム係主任の角 誠(かど・まこと)さん、職員課・行政経営係主任の竹下京輔(たけした・けいすけ)さんの3人が取材に対応してくれた。

まず尾道市が解決したい課題とはどんなものだろう?

目指したのは役所の各課への直接の問い合わせを減らすことで、職員の電話対応の時間を削減することです。今は住民からの問い合わせを受ける手段が窓口と電話しかなくて、問い合わせの電話が市役所のいろんな部署にかかってくるんです。それを担当部署に取り次ぐのも大変だし、最近だと給付金についてなど似たような質問も多くて。住民への一次的応対を総合コールセンターのような形で一元化できれば、職員の負担もかなり減ると思ったんです

角さん

人手不足が深刻になる中で、電話対応を効率化したいと考えるのはどこの自治体も同じだろう。ちなみに尾道市は現在どれくらい電話対応に追われているのだろう?

特に多いのがゴミの出し方や収集日についてで。年末やゴールデンウイーク前になると「いつまで出せるのか?」といった問い合わせが1日100件近く寄せられるんです。おまけに収集日も地域によって違うので、お住まいの住所を聞いた上で調べて答えないといけない……簡単な作業じゃないんです

應治さん
尾道市はごみ分別ガイドブックも地域別に3種類ある。実にややこしい…

 なるほど、いま流行りのAIのチカラを借りればこうした電話対応も簡略化できるかもしれない。それが今回の出発点である。

Q&A作成と保守点検の
苦労が同時に消失!

 
そんな尾道市の課題解決に手を挙げたのが「株式会社パブリックテクノロジーズ」。テクノロジーによる自治体業務の効率化を目指す、2020年創業のスタートアップである。彼らが提案してきたのがAIチャットボットである「市役所GPT」だった。

 パブリックテクノロジーズさんが提案してきたのは、インターネット上のAIチャットボット(=会話形式で答えてくれるプログラム)を用いる方式。AIチャットボットの採用は私たちも以前考えたことがあるんですが、ネックになるのが膨大なQ&Aのサンプルを作らなければいけない点で。でも今回の市役所GPTはQ&A作成の労力がいらない、更新にも手間がかからないというところに惹かれました

應治さん

これまでのAIチャットボットは、職員が作成したQ&A例のデータベースから最適の回答を選択するシステムだった。少し考えればわかるように、市民の「Q(質問)」は無限に存在し、それに紐づいた「A(回答)」を作る手間も計り知れない。おまけに情報の変更があれば元のQ&Aも変更しないといけないし、新たな情報が出れば新たなQ&Aも作成しないといけない。つまりベースを作るのも大変ならその後の維持も大変という、負荷の大きいシステムだったのだ。

しかし市役所GPTは既存のホームページの情報をAIが解読して回答してくれるので、Q&A作成の必要がない。さらにホームページを更新すれば回答も自動更新されるのでメンテナンスの必要がない。コストの面でも手間の面でも、導入のハードルが大幅に下がるのである。

ChatGPTの活用により、Q&A作成とメンテナンスの手間が解決!

しかも市役所GPTは「ホームページのここからここまでを参照にして回答してください」とQ&Aを探す範囲を指定できるんです。範囲を限定することで質問に対する回答の精度を高められるのは面白い技術だと思いました

角さん

一方でAIに任せることで一番心配なのが、市民に間違った情報を教えてしまう恐れである。一般のChatGPTを使った場合、正誤が入り混じったウェブサイト全般を参照にするので誤情報を発信してしまう可能性が否定できない。しかし正式な情報が載ったページのみを限定して参照させれば誤りを生む確率は大幅に減る……これも市役所GPTの大きな強みと言えるだろう。

現在は庁内で検証中
導入には前向きな感触

 
ではその市役所GPTの実証実験、現在はどういう状況なのだろう?

結論から言うと、尾道市役所ホームページをベースにしたAIチャットボットはすでに完成している。現在は内部で検証中だ。

尾道市役所GPT、仮のトップページの様子

正直なところ思ったより丁寧に回答してくれる印象です

ただ、まだいくつか問題はあって。今の技術では文字情報のみを参照にするので、PDFや画像が読み込めないんです。なのでホームページの作り方自体を変えていかないといけないと感じてます

竹下さん
ホームページを丁寧に管理すれば、AIチャットボットも正確に作動するはず

 AIをこちらに合わせるのではなく、こちらがAIに合わせていく。そうした検討は他の場所でもはじまっている。

こちらがホームページ上に古い情報を放置していたら、AIはそれを参照に誤った回答を生成してしまうかもしれない。今後、市役所GPTを導入するとしたら、広報は常に最新情報を更新していかないといけないでしょうね

角さん

 こうした課題は逆に言えば、ホームページを丁寧に管理しておけば連動して市役所GPTは正常に作動することを意味する。日進月歩のスピードでAIの技術が上がれば、画像も読めるようになるなど精度の向上も見込まれる。

今後は検証する部署の規模を少しずつ拡大して、そこに寄せられた質問に答える段階に進んでいく。あとはどこまで市役所GPTに任せて、どこまで職員が担当するか、AIと人間との振り分けも考えなければいけない。現状は導入に前向きということで、将来的な実装は十分期待できる様子だ。

挑戦するきっかけであり
出会いのきっかけ

 
尾道市は近年こうしたDXに対して積極的な姿勢をとっている。

ウチのまちは2020年にスマートシティ推進担当参事という役職ができて、デジタル技術を活用して市民サービスや職員の生産性の向上を図ろうとする動きがはじまりました。同年には市長が「庁内デジタルファースト宣言」という号令を出し、2021年から「尾道市実証実験サポート事業」を開始。今も実証実験の誘致を行っています

應治さん
観光需要も高い尾道市がDXを使って生まれ変わろうとしている

そんな尾道市にとって今回の「The Meet」というプロジェクトはどのようなものだったのだろう?

尾道市単独でこうした実証実験に踏み切れるかと言えば、予算の確保も含めて難しかったと思うんです。でも今回は広島県が支援金を出してくれたので、これまでやりたかったことにトライできました

あと、いろんな業者さんと知り合うことができたのも収穫です。今回は14のスタートアップ企業が応募してくれたのですが、パブリックテクノロジーズさんとは今後市役所GPT以外の話をさせてもらうかもしれないし、採択できなかった企業さんと話す機会も出てくるかもしれない。課題解決に一緒に取り組める相談相手に巡り会えたのはよかったことだと思います

應治さん

新しいことに挑戦するきっかけであり、出会いのきっかけ。The Meetはドン!と背中を押すという形で、まちに未来を運んでくるのかもしれない。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて


昨年からChatGPTの普及が目覚ましいのは周知の事実。筆者もその性能に驚いたひとりで、AIがここまでできてしまうなら将来的にはアレもコレも……といろんな想像を巡らせていた。市役所GPTも多少のブラッシュアップは必要とはいえ、実装される未来が見える。この先、多くのものがAIに置き換えられていく大変動期がはじまるのだろう。ところで話は変わりますが、「市役所GPT」って語呂がいいのか口にしたくなりません?(文・清水浩司)

・共同事業者:株式会社パブリックテクノロジーズ
・活用ソリューション:住民向け次世代AIチャットボット「市役所GPT」
・概要:AIチャットボットを活用することで職員の電話対応を軽減させる
・必要経費:100万円(※AIチャットボット検証費など)


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