国でも少子化対策がさかんに論議されているが、この会話がどうも白けて聞こえるのは「みなさん育児の大変さわかってらっしゃる?」と思ってしまうからかもしれない。育児の大変さはやったことがある者にしか実感できない。ましてその子が発達障害と診断された子であれば、なおさらだ。これは1人の当事者ママが育児の暗闇をさまよった末に立ち上がった物語である。
CHALLENGER 明井智佐衣さん
明井智佐衣(みよい・ちさえ)さんは結婚を機に関西から広島にやって来た。住まいを置いた東広島市は友達も土地勘もゼロ。やがて女児を出産するが、育児は明井さんが想像していたものとはまったく違うものだった。
初めての子育て、初めての土地、そしていわゆる「手のかかる子」、さらに「でもそれって普通だよ?」という視線が明井さんを追い詰める。解決策を求めてネットを漁るが、さらに不安は高まるばかり。そして辿り着いた病院で明井さんは発達障害という診断を聞いた。病名はADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)だ。
あれから6年。明井さんは頼れる心理士を見つけ、自らも発達障害について学ぶことで娘に対応してきた。幸いにも投薬と成長によって、症状は次第に和らいできた。そしてふと、思い立った。
一難去ってまた一難……いや、RINGは災難ではない。あまりにも手を差し伸べたくなる瘦身のチャレンジャーここに2人のセコンドが派遣された。
SECOND① 郡司裕一さん
1人目のセコンドである郡司裕一(ぐんじ・ゆういち)さんは初回からRINGに参加を続けているベテランだ。1年目は「保護犬・保護猫をゼロにする」という社会起業家の活動、昨年はスキンケアを改善するフェムテックと多様なプロジェクトに従事してきた。
RINGでセコンドの経験値を上げてきた郡司さんは事業の全体像・将来像を描くところからアプローチしていった。
SECOND② 繁村直樹さん
もう1人のセコンド、繁村直樹(しげむら・なおき)さんはRING初参加。もちろんセコンドも初挑戦だ。
経験豊富な郡司さんと新人の繁村さん。セコンドは対照的な2人が選ばれた。
2人はそれぞれの立場から明井さんのサポートを進めていく。
意を決してイベント開催
想像を超える反響が!
重圧のあまり5キロやせる壮絶な立ち上がりだったが、肚をくくってからは強かったし早かった。明井さんのプロジェクト「発達障害児(グレーゾーン含む)のママのゆるやかコミュニティ~どんな状況であっても子育てが楽しめる広島県~」は実はすでに10月4日に実証実験を行っている。東広島市で子育て中のママ・パパを対象にキャリアコンサルタントによる個別相談会と児童精神科医の講演会を開催したのだ。
重圧に押しつぶされそうになりながらも踏み出したイベントでつかんだ手応えと課題。繁村さんもサポートに駆け付け、さらに2人の市会議員も子育て支援の勉強にやって来た。
現在はインスタグラム「虹のママプロジェクト」(@nijinomama2023)で情報を発信。一緒に活動してくれる仲間も随時募集中だ。
少しずつネットワークも広がって
成長を実感しています
見知らぬ地での暗闇から這い上がり、明井さんは少しずつ光を見出しているように見える。
そんな明井さんを見守る2人のまなざしは温かい。
もしかして明井さんにとっては、郡司さん、繁村さんという「寄り添ってくれる仲間」を得られたこともRINGの収穫だったかもしれない。心の支えとしてのセコンドたち。
人が人を救う。ここでRINGは戦いの場ではなく、出会いと抱擁の場になっていた。
●EDITOR’S VOICE 取材を終えて
前のめりで野心に満ちたチャレンジャーが大半の中、パソコン画面の向こうの明井さんは明らかに不安そうで、心細い様子でした。これまでにないタイプの、支えてあげたくなるチャレンジャー。「同病相憐れむ」ではありませんが、結局のところ悩みやつらさは当事者同士でしか真に分かり合えないもの。その苦しみの中で立ち上がった明井さんは、同じ境遇にいるママ・パパにとって新たな光になることでしょう。
(Text by 清水浩司)