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集約できる橋梁はあるか?(東広島市)【スタートアップ共同調達事業】

全国どの自治体でも課題になっているのがインフラ設備の維持管理だ。橋、道路、トンネル……ただでさえ老朽化が相次ぐ中、将来的な人口減少社会を考えれば現状あるものをすべて保持していくことは現実的ではないと思われる。そこで活路として考えられるのはDXの活用。東広島市はまず「橋の集約」の準備をはじめた。


集約・撤去を念頭に
1419橋の状況を確認


広島県内の自治体の中で東広島市の大きさは何位か予想がつくだろうか?

正解は5位(上から順に庄原市、広島市、三次市、北広島町、東広島市)。河内・豊栄といった広大な山間部もあれば安芸津などの沿岸部もあるので、個人的にもかなり広いというイメージを持っている。

面積が広いということは、当然そこにある橋の数も多いはず。そんな東広島市が今回採択した案が「GPSデータによる橋梁の通行量及び迂回経路の推定結果に道路施設点検データベース情報を加味し、橋梁の集約・撤去等の優先度判断指標の策定」である。

広大な範囲に点在する橋梁の維持管理が今回のテーマだ

取材に答えてくださったのは、東広島市建設部技術企画課の主査である彌勒昌史(みろく・まさし)さんと、産業部産業振興課イノベーション創出支援係係長の田口亮平(たぐち・りょうへい)さんだ。 

インフラの維持管理がコスト的に厳しいのは、どこの自治体も感じている課題だと思います。そんな中で東広島市が管理している橋梁は1419橋

そもそも橋梁は5年に一度の法定点検が義務付けられていて、橋の健全度を区分するんです。そこで措置が必要と判定されたら次の点検までに対応しなければいけない。今はどの自治体も必死で点検・補修に取り組んでますが、最近は国の方も「そもそも管理する橋梁の数を減らすことはできないか?」という方向に変わってきてます

彌勒さん

転機となったのは、2023年4月に国交省が発表した「道路橋の集約・撤去事例集」。さすがに現状あるすべてのインフラを維持することは不可能なので、不要と思われるものは撤去・集約しましょうという方向に舵を切った。

現状のインフラを維持するには膨大な費用と労力がかかる

そうなると次に問題になるのは「じゃあどう橋を集約するのか?」ということで。もちろん地図を見て、たとえば「半径50m以内に橋梁がかぶっているところをピックアップする」とテーマを定め、実際そこに行って調査するという方法もあるんですけど、それをやると人出と時間がとんでもなくかかる。そこをシステマチックにできないかと思って今回のスタートアップ事業に手を挙げたんです

もちろん橋梁を集約・撤去をする上では、地元の方々の十分な理解が必要ですが、そもそもどれくらいの数の橋梁が集約・撤去対象となり得るかを知りたいという想いがありました

彌勒さん

こういう時こそDXの出番。なんとか簡単にできないか?――となったわけである。

GPSの人流データで
橋の通行量を調査する


現状の課題を受けて、建設部技術企画課は「The Meet」に「維持管理する橋梁の数を減らしたい!」という募集を載せた。案を送ってきたのは5社。その中から「LocationMind株式会社」を採択した。

 LocationMindさんはGPSを用いた人流データ(※下注)によって各橋梁の通行量を調べますという提案で。採用を決めたのはLocationMindさんが人流データを扱うことに長けていたこと、あと具体的なアウトプットのイメージを示してくれて、それが私たちの思っている成果判断と合致したことによります

※「LocationMind xPop」データは、NTTドコモが提供するアプリケーションの利用者より、許諾を得た上で送信される携帯電話の位置情報を、NTTドコモが総体的かつ統計的に加工を行ったデータ。位置情報は最短5分毎に測位されるGPSデータ(緯度経度情報)であり、個人を特定する情報は含まれない。

彌勒さん

LocationMindは人流ビッグデータを用いた位置情報の解析を得意とする東京大学発ベンチャー。すでに兵庫県を走る乗合バスと協業し、人流データを分析した上で最適の運行ダイヤを作成するなど社会実装の実績を持つ。

「神姫バス」との協業では乗客の乗降傾向をGPSでモニタリングした

LocationMindさんは市内にある1つ1つの橋梁に対して、1日あたりの通行量と、それを撤去した時の迂回路の距離がどれくらいになるか算出する出力イメージを持たれていて。そこに全国道路施設点検データベースの情報を加味して、各橋梁の対応方針を「単純撤去」「撤去+迂回路整備」「集約」「ダウンサイジング」「維持・メンテナンス」と分類した上で、作業の優先度まで付けてくれる提案だったんです。それはまさにこちらがしてもらいたいと思っていた内容でした

彌勒さん

社会実装の経験があるだけに、クライアント側が何を求めているか正確な理解が可能だったのだろう。こうして東広島市はGPSデータを用いて市内にある全1419橋の橋梁チェックに挑戦したのだった。

橋梁だけでなく道路など
他のインフラに展開可能

 
現状だが、今はまさにLocationMind社でデータ解析を行っている最中だという。

今はLocationMindさんから「現在こういった形で出力できてます。他方ではこういう問題があって、こういうふうに解決しようと思ってます」という報告を受けてるところです。LocationMindさんも橋梁の調査は初なので、技術的な面で手探りの部分があって。そこに目途が付けば、こちらが持っている交通量調査の結果をお渡しして、出てきたデータの信頼性のチェックをする段階に入ります

彌勒さん
人流データをさまざまな解析にかける LocationMind xPop©LocationMind Inc.

GPS解析ではじき出された結果にどれだけの信憑性があるか。実際のデータと照らし合わせて検証するのが次のステップとなる。ただ、今のところ実験は順調。彌勒さんもこの技術の実用化に意欲を見せる。

これがシステムとして確立されれば、全国のかなりの自治体から引き合いがあると思うんです。今回は橋梁の話ですけど、これは道路の舗装にも波及していける。道路も同じように人流データを把握した上で補修の優先順位を設定できると助かるし、いろんなインフラに展開できると思いますね

彌勒さん 

楽観的かもしれないが、人流データを活用した土木管理のDXは近い将来、かなりの確率で実装されている気配がある。

「できたらいいな」の
夢がかなうワクワク感

 
土木管理のDX化は東広島市にとっても喫緊の課題のようだ。

実は私が所属する建設部技術企画課は今年度できたばかりの新しい部署なんです。建設部としてもDXに積極的に取り組み、作業を効率化していこうという動きがあって。そんな時に産業振興課の田口さんから今回の「The Meet」の話を聞いて、せっかくだからやってみようということで参加させてもらったんです

彌勒さん

部署としてのDX推進と広島県の企画がナイスタイミングでぶつかった。それは運とも縁とも表現できるが、ここは時代の流れと捉えるのが妥当だろう。 

スタートアップ側の素早い対応にも驚かされたという

「こんなことができたらいいな」って要望をこちらが挙げたら、それを叶えてくれる企業がどこかから現れるって、自治体にしてみたら本当にありがたいシステムだと思うんです。今回の採択案がロールモデルになって、来年度はさらに多くの角度からみんなが「こんなことできたらいいね」って話すようになればいいと思います

田口さん

今回「The Meet」に参加してすごくワクワクしたんです。私たちは最新の技術で何ができるかよくわかってない状態で。そんな中、「こんなことができたらいいな」っていう希望に対して、「こんなことができるんだよ」って見せてもらって、こっちは「こんなことができるのか!」って驚いたりして。やっぱりまだ誰もやったことがないことに挑戦するのはワクワクしますよ

彌勒さん

やるべきことを粛々とこなすのではなく、「こんなことができたらな」と想像力を働かせること。無謀かもしれない夢を見ること。「The Meet」に参加することは、仕事というものに対するマインドセットを変革するチャンスなのかもしれない。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて


最後に彌勒さんが口にした「ワクワクした」という言葉が印象に残った。仕事をする上でワクワクが必要かといえば、やることさえやっていれば内面など関係ないというのが現実だろう。しかしワクワクは生産性を上げる。効率化をもたらすことがある。モチベーションの変容。マンネリになりがちな現場の空気に新鮮な風を吹き込むこと。「The Meet」がもたらすのは新しい技術だけではないようだ。(文・清水浩司)

 

・共同事業者:LocationMind株式会社
・活用ソリューション:GPSデータを用いた人流解析
・概要:人流データの解析により橋梁の通行量や迂回路を推定、不要な橋梁の集約・撤去に備える
・必要経費:100万円(※GPSデータ購入費、データ分析費など/LocationMind注 ※本経費は実証実験向けの金額であるため、同様の分析を他エリアで実施する際には、対象エリアや分析内容に応じて都度費用お見積もり致します)


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