全国どの自治体でも課題になっているのがインフラ設備の維持管理だ。橋、道路、トンネル……ただでさえ老朽化が相次ぐ中、将来的な人口減少社会を考えれば現状あるものをすべて保持していくことは現実的ではないと思われる。そこで活路として考えられるのはDXの活用。東広島市はまず「橋の集約」の準備をはじめた。
集約・撤去を念頭に
1419橋の状況を確認
広島県内の自治体の中で東広島市の大きさは何位か予想がつくだろうか?
正解は5位(上から順に庄原市、広島市、三次市、北広島町、東広島市)。河内・豊栄といった広大な山間部もあれば安芸津などの沿岸部もあるので、個人的にもかなり広いというイメージを持っている。
面積が広いということは、当然そこにある橋の数も多いはず。そんな東広島市が今回採択した案が「GPSデータによる橋梁の通行量及び迂回経路の推定結果に道路施設点検データベース情報を加味し、橋梁の集約・撤去等の優先度判断指標の策定」である。
取材に答えてくださったのは、東広島市建設部技術企画課の主査である彌勒昌史(みろく・まさし)さんと、産業部産業振興課イノベーション創出支援係係長の田口亮平(たぐち・りょうへい)さんだ。
転機となったのは、2023年4月に国交省が発表した「道路橋の集約・撤去事例集」。さすがに現状あるすべてのインフラを維持することは不可能なので、不要と思われるものは撤去・集約しましょうという方向に舵を切った。
こういう時こそDXの出番。なんとか簡単にできないか?――となったわけである。
GPSの人流データで
橋の通行量を調査する
現状の課題を受けて、建設部技術企画課は「The Meet」に「維持管理する橋梁の数を減らしたい!」という募集を載せた。案を送ってきたのは5社。その中から「LocationMind株式会社」を採択した。
LocationMindは人流ビッグデータを用いた位置情報の解析を得意とする東京大学発ベンチャー。すでに兵庫県を走る乗合バスと協業し、人流データを分析した上で最適の運行ダイヤを作成するなど社会実装の実績を持つ。
社会実装の経験があるだけに、クライアント側が何を求めているか正確な理解が可能だったのだろう。こうして東広島市はGPSデータを用いて市内にある全1419橋の橋梁チェックに挑戦したのだった。
橋梁だけでなく道路など
他のインフラに展開可能
現状だが、今はまさにLocationMind社でデータ解析を行っている最中だという。
GPS解析ではじき出された結果にどれだけの信憑性があるか。実際のデータと照らし合わせて検証するのが次のステップとなる。ただ、今のところ実験は順調。彌勒さんもこの技術の実用化に意欲を見せる。
楽観的かもしれないが、人流データを活用した土木管理のDXは近い将来、かなりの確率で実装されている気配がある。
「できたらいいな」の
夢がかなうワクワク感
土木管理のDX化は東広島市にとっても喫緊の課題のようだ。
部署としてのDX推進と広島県の企画がナイスタイミングでぶつかった。それは運とも縁とも表現できるが、ここは時代の流れと捉えるのが妥当だろう。
やるべきことを粛々とこなすのではなく、「こんなことができたらな」と想像力を働かせること。無謀かもしれない夢を見ること。「The Meet」に参加することは、仕事というものに対するマインドセットを変革するチャンスなのかもしれない。
●EDITOR’S VOICE 取材を終えて
最後に彌勒さんが口にした「ワクワクした」という言葉が印象に残った。仕事をする上でワクワクが必要かといえば、やることさえやっていれば内面など関係ないというのが現実だろう。しかしワクワクは生産性を上げる。効率化をもたらすことがある。モチベーションの変容。マンネリになりがちな現場の空気に新鮮な風を吹き込むこと。「The Meet」がもたらすのは新しい技術だけではないようだ。(文・清水浩司)