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遊休不動産を活用した「挑戦しやすい」まちづくり(呉市)【スタートアップ共同調達事業】

日本全国あちこちに広がるシャッター商店街。かつてまちの中心にあった商店街の衰退はまちの衰退そのものであり、その風景は悲哀を感じさせる。しかし逆の面から考えると、商店街の衰退を止められればまちの衰退も止めることができるのではないか? かつて「東洋一の軍港」として栄えた呉で、商店街をリノベーションする動きが進んでいる。


地域密着の店がひしめく
中心地の商店街を守れ


今回紹介する呉市が採択したプロジェクトの名称は「事業をしたい借主の情報を物語として公開し、遊休不動産のオーナーに繋げる『さかさま不動産』による挑戦しやすい・したくなるまちの機運醸成」。まず現状の課題について、呉市産業部商工振興課商業グループ・課長補佐の久保善裕(くぼ・よしひろ)さんに話を伺った。 

私たち呉市もご多分に漏れず、市の中心にある本通や中通界隈の商店街は非常に空き店舗が多い状況で。ざっくり言えば10軒に2軒、20%が空き店舗という状態。これは全国平均の13%を上回る数字です

ただその一方で中通を歩く人の数は多くて。今でも1日25,000人は行き来してて、やっぱり人が集まる場所ではあるんです

中通は通称「れんがどおり」と呼ばれ、アーケードに覆われた呉の目抜き通り。そこには飲食店や映画館があり、路地に入ると呑み屋やスタンド(スナック)がひしめき合う繁華街である。呉に鎮守府が置かれ、海軍工廠などがあった時代はもっと華やかだったはずだが、今でも多くの人が繰り出す街の中心であることに変わりはない。

呉の中心である中通、通称「れんがどおり」

今回の案件はいわばこの商店街の再生がテーマである。久保さんによれば商店街にこだわる理由はいくつもあるという。 

まず商店街が空洞化してしまえば土地の価格が下落します。そうすると固定資産税などの税収が減り、将来的な行政サービスまで低下してしまうおそれがあります

もう1つは、何かビジネスをはじめたい人がいたとしても、広島市内の街中やロードサイドだと数千万円単位の資金がかかってハードルが高いということ。でも商店街の空き店舗をうまく使えば小売店で300万円、飲食店で500万円程度からはじめられます。商店街は人通りも多いので新規創業の場として魅力的で。そうしたチャレンジできる場所がなくなってしまうのは、まちにとって大きな損失だと思うんです

エリアの価値を維持することで税収を保ち、新規事業の温床を守ることでまちに活力を呼び覚ます。そしてもうひとつ。

あとやっぱり地域密着の店が多いんです。中通商店街は1階部分だけで約80店舗あるんですが、マクドナルドやローソンといったナショナルチェーンは4軒のみ。地域密着店は地域内でお金が循環するわけで、そういう意味でも商店街を大事にしなければいけないんです

 こうしたいくつもの理由ゆえ、呉市はこれまで商店街に投資をしてきたのだった。

「さかさま不動産」で
商店街をリノベーション


このプロジェクトで市が協業相手に選んだのが「株式会社On-Co」が運営する「さかさま不動産」。これはその名の通り、物件を貸す側と借りる側がさかさまになっているというウェブサイトだ。

 通常はオーナー側が物件を掲示し、それを見て借りたい側がエントリーするというシステムだが、「さかさま不動産」では物件を借りたい人が「こんなことをやれる場がほしい」「こんなところでこんなビジネスがしたい」といった夢やリクエストを提示し、それを見たオーナーが「この人に借りてほしい!」とアプローチする仕組み。オーナー側が借り手を選べることで、自分が納得したチャレンジャーを応援できる=自発的にまちづくりに関与できるというメリットがある。

「さかさま」の発想が不動産の新たな流通を生む
サイト内ではさまざまな夢追い人が希望物件をアピールしている

「さかさま不動産」の取り組みは以前から知ってて、いつか一緒に組みたいと思ってたんです。これまで遊休不動産をお持ちの不動産オーナーの想いを聞いてたんで、ここならなんとかできるんじゃないかと

 実はここに至るまでの呉市の動きには前段階がある。

私たちは2019年から「リノベーションスクール」という事業をやってるんです。これはまちなかの遊休不動産を題材に、エリアにいい影響を与えるビジネスプランを考えて、将来的に事業化を目指すというプロジェクト。そこで遊休不動産オーナーの方と話をして、「いい人に巡り合えたらぜひ貸したい」という声は聞いてたんです

あと2018年からは「ビジネスプランコンテスト」を行ってて。こちらでは起業家志望の方から「何かしたいけどいい場所が見つからない」という声を聞いて、両者をマッチングするようなことができないか考えてたんです

 商店街のリノベーションは一日にして成らず。かたや遊休不動産を持つオーナー、かたや商売をはじめたい起業家の卵たち――そうした人たちとネットワークを築いていった中で、この「さかさま不動産」というシステムがガチッとはまったのだ。

インパクトある事例1つで
起業が起業を呼ぶ流れに


さて現在の状況だが、まず3月25日に起業希望者を集めて「さかさま不動産」のイベントを実施することが決まっている。ここでプロジェクトの中身を説明し、希望者を「さかさま不動産」ウェブサイトに掲載。夏以降には事業内容についてのプレゼン大会を開き、同時にイベントに遊休不動産オーナーを呼ぶなど関係者同士の交流も加速させる予定だ。

「さかさま不動産」さんも言われてるんですけど、これは遊休不動産や空き店舗を埋めるのが目的ではないんです。これはあくまでチャレンジするための手段。なので正直なんとしても多くの件数を獲得しなければとは思ってなくて。件数よりインパクトのあるマッチングが1件でも2件でも生まれたら、それがまわりにいい影響を及ぼしていくと思うんです

久保さんが目指すのは量より質、未来の起爆剤になるマッチングだ。

リノベーションスクールの参加者たち。ここから新たな事業が生まれるか?

人口が減るっていうのは時代の趨勢で、ある程度仕方ないと思うんです。でもそんな中で「元気なまちって何だろう?」って考えた時に思い浮かぶのが「みんながチャレンジしてるまち」ってことで。「このまち、なんか面白そうなことやってるぞ」ってなれば、自然と挑戦が挑戦を呼んで、起業が起業を呼ぶ流れができると思うんです

 

「さかさま不動産」との取り組みはこれからだが、すでに萌芽は見られる。前出の「リノベーションスクール」をきっかけに8件の新事業が生まれ、その周辺では新規出店が相次いでいる。「呉市=挑戦しやすいまち、挑戦したくなるまち、挑戦を後押ししてくれるまち」という空気の醸成は着実に進んでいるようだ。

「チャレンジできる空気」がまちに明るい希望を吹き込む

呉はまだ終わっていない
今ならまだ間に合う


最後に「The Meet」についての感想を聞いた。

新しい考え方について私が一番勉強させてもらってます。やはりスタートアップ企業の方って、自分たちの新しいサービスや商品で世の中を変えていくという志を持ってて、しかもスピードも早く動いてて。それは行政の時間感覚とまったく異なるし、勉強になることばかりですよ

日本製鉄の閉鎖など厳しいニュースも多い呉だが、少なくとも久保さんは何もあきらめていない。

「海上自衛隊・造船のまち」から次のステップへ

確かに呉は昔が賑やかすぎたので、一番栄えてた時期と比べて「終わってるよね」って言う人もいます。だけどまだまだ活気はあるし、逆に今ならまだ間に合う。新しく挑戦して、またここからはじめられると思うんです

呉というまち自体が数十年に一度のリノベーションの真っ最中。「挑戦しやすい・したくなるまち」への変身で、虎視眈々と時代のポールポジションを狙っている。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて

呉といえば近年は映画『孤狼の血』の舞台となったことで話題になった。映画の撮影も呉で行われたが、確かにスクリーンに映し出された風景は昭和そのもの。まちがリノベーションされず時間が止まった風景は、わびしくもある一方、むしろ令和世代にとっては新鮮で、「映える」要素もたくさんあるように思う。そんな空間に夢を持った若者が集まれば、これまでにないまちができるのでは? 呉の未来図は「レトロフューチャー」にあるのかもしれない。(文・清水浩司)

・共同事業者:株式会社On-Co
・活用ソリューション:「さかさま不動産」 
・概要:起業志望者のストーリーを記事化し、遊休不動産を抱えたオーナーとマッチング。商店街の空き家・空き店舗を「空間資源」として活用する
・必要経費:100万円(※起業志望者の記事作成費、イベント開催費など)



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