SNSの「推し」を見える化し、中小企業支援に繋げるという発想【RING HIROSHIMA】
目標に向かってがんばれ。あきらめるな。懸命に努力するって大事だけど、うまくいかないかも?と思ったらどうしますか。突き進むか、別の目標を立てるか。前者が尊いとされがちな世の中ですが、勇気ある撤退と再出発も大事。というわけで、今回は、RING HIROSHIMAに持ち込んだ企画をピボットさせた挑戦者のお話です。「地域の中小企業支援」という、登る山は同じだけど、登山口を変更する、というか。
CHALLENGER me株式会社(法人設立準備中) 中野龍馬さん
滋賀県出身・在住の中野さんは、22歳の若さで地元で起業し、コワーキングスペースやプログラミング教室、シェアハウスなどの運営を手がけるほか、県内の中小企業を対象に広報支援を行ってきました。この道すでに12年。
中野さん「私自身が経営者として感じているのが、中小企業・特に小規模事業者にとって社長は経営者でありプレイヤー。新事業も既存事業の戦略にかける時間もない」
東京一極集中が進む中、人材不足に悩む地域の中小企業と、自分の能力を生かして働きたい複業者とをマッチングするサービス「me」を設立、広島県内でのニーズを探るために、RING HIROSHIMAにやってきました。
具体的には、広島で中小企業向けセミナーを開き、参加企業にヒアリングをすること。そこから出てきた悩みについて、meで回答を募集。広島に関心がある複業者を集め、彼らの回答から課題解決を進める、というもの。
SECOND 日本ITストラテジスト協会中国支部長 山本泰さん
山本さんは広島在住。IT関係のコミュニティに強みを持っています。RING HIROSHIMAには第1回から参加してきたベテラン。
ちなみに、1回目はVRゴーグルを使って痛みを軽減したいチャレンジャーの挑戦。
そして2回目は、汚れが見えるライトの製品化。もともと会社経営をしていて、今回の中野さんと同様、新ビジネス立ち上げのための実証実験でした。
SECOND NPO法人ソーシャルバリュージャパン 竹之下倫志さん
もう一人のセコンド、竹之下さんも、セコンド経験あり。前回は、言語発達の支援をするアプリのプロジェクトに関わりました。
神奈川県在住の竹之下さんは、ソーシャル領域に対する非営利コンサルティングファームのコンサルタント。社会的変化を測定するインパクト評価をしながら伴走支援する仕事などをしています。広島の団体の支援を手がけたことを機に広島との関わりができ、RING HIROSHIMAとの縁も生まれました。
セコンドのお二人、中野さんの当初の挑戦にどんな印象を持ちました?
山本さん「ヒアリングやインタビューで社長の困りごとを引き出し、希望者がそれに対して提案をしてマッチングする内容はユニーク。難しいのは、引き出すのをどう効率化できるか」
結論から言うと、効率性をめぐる山本さんの直感は的中。
中野さん、この挑戦、白紙に戻します。
実際に広島で社長や専務にヒアリング。他自治体も含めて10社ほど質問文に対して回答してもらったのですが、マッチングしたのは1社だけでした。
「すごい労働集約型。僕や中の人がどれだけヒアリングするかが鍵ですが、1社月額5万円で、うちに入るのは20%。その割に工数がかかる。そもそも破綻してる」
要は割に合わないからピボット。軸足はそのままに、方向転換。
「登る山、つまり中小企業にとって人材に対する情報提供・情報発信が難しいという課題感は間違ってない。それは鮮明になったので、中小企業と複業者のマッチングではなく、中小企業がすでに抱える顧客を可視化させてそこからつなぐサービスを考えついた」
どういうこと?
「企業が持つインスタグラムのフォロワー、公式LINEアカウントの友だちの数を可視化させ、リスト化する顧客管理アプリです」
フォロワーをAIで自動的にラベリングし、インスタの投稿内容などからこの人はおおよそ何歳代で、どこに住んでる人かを可視化する。事業者側はその人に対して適切なタイミングでこのメッセージを送れるし、例えば採用に困ってるならこの業種の人にDMすれば、というところを自動的にできるーーという。名付けて「repeats(リピーツ)」。
SNSアカウントをフォローするってことは、だいたいその会社なり店が好きだから応援したい、力になりたい、という思いがある。その中から採用する方がお互いハッピーということです。
「企業側からしたら、イベント案内など集客面でも使える。そうしてファンになった人を最終的には採用していく方がいい。採用コストも低くなるし、元々ターゲットだから、働くモチベーションがあり、集客につながる。どっちにしろ、届けたい人に情報を届けるツールです」
なるほど! でも、そういうサービスって他に存在しない?
「競合を調べたんです。例えばインスタでハッシュタグを付けると自動的にクーポンあげますみたいなツールはあった。けど、僕らが作りたいのはそういうのではなく、今いるフォロワーに対して適切なタイミングで適切なメッセージを送ってリピート率を上げたり、顧客接点を高めたりするツール。それは存在しない」
ターゲット業種は三つ。
このうちの二つは中野さんが自分で考えました。
「一つ目が建築会社。新築やリフォームの顧客獲得のためにお金をかけてインスタやLINEを持ってたりするけど活用できていない。1件あたり数千万と金額が大きいからこそロイヤルカスタマーを作りたいニーズがある」
もう一つが、自治体。中でも観光系と移住系。どんな自治体もおしゃれなサイトを作り、それっぽいイベントをするのに移住者は伸びない。行ったことない街に住みたいと思わないけど、観光に来た人であれば、ハードルが下がる。観光も移住も一つのまちづくり会社がやっているようなところに導入してもらえれば、横展開できる。自治体の信頼を得たら、地元商工会を経由して地域の事業所にも広げていける」
三つ目は、セコンドの竹之下さんからの提案です。それは、NPO法人。
竹之下さん「Repeatsの本質は『関わりしろ』をいかに作るかを提案できるか」
ファンドレイザーがいかに会員マネジメントをするか、活動に関心を持つ人たちに、どうやって会員やボランティアに転じてもらうかといった支援も手がけてきた竹之下さん。
「関係人口になったときに、次どう関わればいいのかは大きなステップ。SNSで発信するだけじゃなく、何か関わりたいと思っている人に対して届く提案を出せる。候補を作った顧客コンバージョン。寄付を募る人にとっても、寄付をする人、関わろうとしている人にとってもハッピーです」
「関わりたい」という意思表示を、フォローによって示している人に対し、企業側が積極的に関わりに行く、ということ。どっち向いているかわからない誰かに届けるより、こっちを向いてくれている人に対して発信する。
「東京のスタートアップじゃできない作戦」と中野さん。「SNS広告やWeb広告で集めようとしても地域の中小企業は引っかかってこない。僕らはその層を取りに行く。モチベーションは東京一極集中をなんとかしたいってとこしかない」
竹之下さんが続けます。「プレゼンがうまい力のある団体は偏っていて、そこがSNS広告をうまくやって寄付を集めている。地場で頑張ってるNPOってウェブが弱かったりコミュニケーションに慣れてなかったりで、逆に集まらない。そんな一極集中が起きている。地域によってお金の回り方も偏りがあるので、中野さんの想いと多分噛み合う」
心機一転、12月末までにプロトタイプを作り、5〜10社程度広島で集めたいそうです。「ピボットした結果、RING HIROSHIMAが終わったときに資金調達が終わってる状態まで持っていきたい」
ここで山本さんが懸念を表明。「このモデル、きちんと保護しておかないとマネられるんじゃ…」
「マネされると思います(笑)」と中野さん。「共同創業者のプログラマーと2人で作っているんですが、技術的に全然難しくない。でもこういうサービスって1回入れたら離れないので、早い段階で取り切りたい。僕らが多分強みになるのって、地域の中小企業にたどり着くこと。作るのは誰でもできるけど広めるのが激ムズ」
とはいえ、ここに書いてしまっていいのだろうか…。「書いてください(笑)。パクられてうまくいったら『自分たち間違ってなかった』って。そして新しいの作れます」
別自治体のアクセラレーションプログラムにも参加したことがある中野さん。「セコンドと挑戦者っていう仕組みはここだけ。確実に成長させてもらえる。山本さんは僕が見ているのとは別視点の話を入れてくれて、その視点は新しいサービスを加速させるときにものすごく重要。竹之下さんは、ベンチャーキャピタルの視点をくれる」。週1回のミーティングでプレッシャーを得られると感じているそうです。
「僕はスピーディーにやろうとするけど、ストップかけてもらえたり、肉付けしてもらえたり。それをお二人に毎週もらえる貴重な時間」。そしてこんな一言で、インタビューを締め括りました。
「僕が、RING HIROSHIMAの代表作になりますよ!」
EDITOR’S VOICE 取材を終えて
ベテランセコンドのお二人が、「中野さんはザ・起業家。僕たちがついていく感じ」と舌を巻いていた。1時間話を聞いて、すっかり納得。こういう人が、世の常識をちょっとずつずらしていけるイノベーターなんだな、と。昭和の「ガンバリズム」だと最初立てた目標に固執するけど、サッと目標設定を変えられる。ほとばしりつつ、でもとってもしなやかに。そこから何かが確実に生まれる。(text by 宮崎園子)
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