し尿処理施設をバイオDXで効率化(東広島市)【スタートアップ共同調達事業】
東広島市といえば、人口転出が問題となっている広島県の中では数少ない転入超過の自治体。今回のプロジェクトはそんなまちの課題を、地元大学で培われた最新技術を使い、地元ベンチャーが解決するという構図。「オール東広島」で行われている取り組みの中身はどんなものだろう?
し尿処理施設の
電気代を削減せよ
今回、東広島市が採択した案件はすぐには理解が難しい。その名も「し尿処理施設にて季節変動する搬入物と微生物群の関係性をメタゲノム解析で可視化する『バイオDX』による施設稼働効率化及び電気使用量削減」。微生物? メタゲノム解析? バイオDX?……ひとまず理解できるのは、かなりの先端技術を用いた取り組みらしいということだ。
広島中央環境衛生組合の総務課管理係係長の山口享太(やまぐち・きょうた)さんと、東広島市の産業部産業振興課イノベーション創出支援係係長の田口亮平(たぐち・りょうへい)さんに話を聞いた。
広島中央エコパークには東広島市と竹原市のし尿や汚泥が集められている。ここでさまざまな薬品を投入して浄化、下水道へと放出されるのだ。今回「The Meet」でその汚泥再生処理センターの電気使用量削減のアイデアを募ったところ、4件の応募が寄せられた。
微生物処理?……ここは改めて説明が必要だろう。
汚泥を浄化する過程で
微生物が活躍中
実はし尿処理の過程では、酸やメタノールといった化学薬品以外にも微生物が活躍している。汚泥を餌にする細菌の入った水槽を通すことで汚れを分解し、水を浄化しているのだ。
その微生物処理の効率化を持ち込んできたのが「プラチナバイオ株式会社」。ホームページを見ると「ゲノム編集とバイオDXでミライを拓く」と書かれている。つまり細菌などの遺伝子を解析・編集することによって新たなイノベーションを興そうという先端テック系スタートアップである。
今回判明したのだが、現場の職員はそういったデータを踏まえた上で作業が行われていると思い込んでいたという。実は属人性に満ちた職人の世界だった微生物処理の現場。季節や気温などによって変動する微生物の割合をDNAレベルのメタゲノム解析することで、デジタルな数値として把握する――今回の実証実験の狙いはそこである。
秋~冬のデータは採取
1年ぶんを揃えて分析
その実証実験の進捗具合だが、現在はメタゲノム解析用の試料を毎月ピックアップしているところ。それを工程前後の水質分析データと照らし合わせることによって、微生物構成比と水質浄化の関連性を解き明かそうという流れだ。
また、今回の実証実験には東広島市とプラチナバイオ社に加えて、広島中央エコパーク汚泥再生処理センターの工事を手掛けた「日立造船株式会社」も関わっている。日立造船は現場の試料採取や水質分析を担当。この実証実験で実用的なデータを得て、施設の稼働率が向上できた場合、プラントメーカーとして全国の他の施設にも横展開していこうという心づもりだ。
実証実験は今回だけで終わらず、先まで続くロードマップが描かれている。
バイオDXという新技術に対する期待は高まるばかりだ。
東広島発の技術が全国へ
市内産業の拡大も期待
今回のプロジェクトには先端技術の他にもう1つ興味深い点がある。それはプラチナバイオ社が広島大学発のベンチャーであること。言うまでもなく広島大学は東広島市内にあり、つまり今回は同じ地域内でのコラボレーションになるのである。
地域の困りごとを、地域発の技術で、地域の施設を使って検証する。取材の最後にはイノベーションの旗振り役である田口さんから、広島中央エコパークを運営する山口さんサイドに改めて感謝の言葉が述べられた。
「お役所仕事」という変化を起こしにくい環境の中での勇気ある第一歩。まずは踏み出すことに意味がある。「The Meet」が導き出した一歩は小さな一歩かもしれないが、東広島全体を刺激するジャイアントステップであるとも言えるだろう。
●EDITOR’S VOICE 取材を終えて
し尿等を処理する過程で微生物が活躍しているって事実、私は初めて知りました。毎日こちらが排出しているし尿等を餌にして、キレイに浄化してくれる微生物クン。まことに頭が下がります。バイオテックと言えば高尚で難解で我々凡人には縁遠いイメージがありますが、し尿等を分解してくれる彼らのお手伝いをしてくれていると思うと親近感が湧いてきませんか? これからトレイで唱えます、「今日もたのむぞバイオDX!」。(文・清水浩司)
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