脱炭素アプリで行動変容を図る(安芸高田市)【スタートアップ共同調達事業】
世の中で声高に語られている課題のひとつにカーボンニュートラルがある。安芸高田市も例に漏れずこの問題に取り組んでおり、今回の「The Meet」でも二酸化炭素削減量を可視化するアプリの導入を採択した。しかしこのプロジェクトの目的は、単にCO2排出量を減らすことだけではないという。一体どういうことだろう?
まずは市民にCO2問題に
関心を持ってもらう
今回の安芸高田市の採択案は「脱炭素量を可視化・ポイント付与するアプリ『SPOBY』と連携した廃油回収によるCO2抑制量の可視化と市民の行動変容の促進」。カーボンニュートラルへの取り組みはどの自治体にとっても喫緊の課題だが、安芸高田市の実情は少し特殊だという。
産業部商工観光課商工係で商工業支援・企業誘致を担当している課長補佐・小野光基(おの・こうき)さんは語る。
なるほど、確かに安芸高田市があるのは中国山地の山間部。幾重にも山に囲まれ、第二次産業もそれほど盛んではない環境では、カーボンニュートラルと言われてもピンと来ないかもしれない。
ひとまず最初のステップとして、市民にカーボンニュートラルという問題について知ってもらう。そのために着目したのが「SPOBY」と呼ばれるアプリだった。
何かを目的に行動しながら
全然違う目的が叶えられる
SPOBYは東京のスタートアップ「株式会社スタジオスポビー」が開発した健康アプリ。自動車を使わず徒歩や自転車などを利用することで、削減できたCO2排出量を可視化、それを利用者の健康管理に結び付けるという内容である。
市が思い描くのは、ポイントや景品に惹かれてアプリをはじめた人が、いつの間にかCO2削減に関心を持つようになっていたという流れだろう。それを小野さんは「何かを目的に行動しながら、まったく違う目的が叶えられているという実験」と呼んでいる。
実はSPOBYに関しては、「The Meet」以前から安芸高田市はコラボを行っている。2021年5月より「サスティナブルウォーク安芸高田」サービスを開始、2023年3月にはユーザーの貯めた脱炭素ポイントを地域の特産品などと交換する特典交換会も開催した。
実はこの特典交換会ですでに「何かを目的に行動しながら、まったく違う目的が叶えられている」という事態が起こっている。
「A」をやろうとしていたのに思いがけず「B」が達成されてしまったというのは、いわゆるセレンディピティということだ。こうした予想外の偶然も視野に入れながらSPOBYとの協業は深化していった。
目指すは「SPOBY」の
ダウンロード数1,200件
ここ数年の協業を経て、今回の「The Meet」ではさらに一歩突っ込んだ実証実験が行われる。
当面、市が目指すのはSPOBYを使ってくれる人を増やすことだ。現在は年配者向けスマートフォン教室やウォーキング教室でアプリのダウンロードを勧める他、地元でヤクルトを販売している「株式会社ヤクルト山陽」らと連携して参加を呼び掛けている。
現在、安芸高田市内のダウンロード数は1,000件。「The Meet」の実証実験が終わる3月末までに、この数字を1,200件まで伸ばすことが目標になる。
地元に応援してもらえる
スタートアップになる
実は安芸高田市は約5年前から各地のスタートアップとの連携に走り回っていた。当時スタジオスポビーは設立間もない頃で、お金の調達に苦労していた時期も知っている。それが今や、札幌市や仙台市など大手自治体と組み、大阪万博に向けたプロジェクトにも参画するなど大きな飛躍を遂げている。
現在スタジオスポビーは安芸高田にサテライトオフィスを置き、社員も1名雇用している。まるで高校野球で地元の高校を応援するように、地元に根差したスタートアップを応援する。これも「何かを目的に行動しながら、まったく違う目的が叶えられている」ではないが、アクションを起こしたことによって出会った嬉しい誤算=セレンディピティと言えるだろう。
●EDITOR’S VOICE 取材を終えて
話を聞いていて面白かったのは、小野さんがこのプロジェクトを「単にカーボンニュートラルを実現するだけ」の枠組みで捉えていないことだった。SPOBYを導入することで安芸高田の観光需要が増えるかもしれない。地元にやって来たスタートアップに市民が触れる機会になるかもしれない。予想外のことが起きるかもしれないし、むしろ予想外が生まれるのを待っているフシがある。不確実性の時代だからこそ、こうした想定外込みの柔軟な心の持ち方が重要なのかと感じられた。(文・清水浩司)
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