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宇宙技術でお米ブランディング(北広島町)【スタートアップ共同調達事業】

スタートアップと協業する「The Meet」ではおのずとDXやAIといったデジタル技術が飛び交うが、北広島町が挑むのは地球を飛び越えた宇宙技術。しかも空の彼方と地面に根差したお米という、これまで見たことがない組み合わせだ。マクロとミクロの壮大な掛け合わせは町に何をもたらすのだろう?


「米といったら北広島」
さらなる向上を目指して


今回の北広島町の採択案は非常にユニークだ。おそらく日本で初めてだし世界初の試みかもしれない。「宇宙技術ハイパースペクトルカメラの活用による光(色)の波長解析を通じたお米の新たな評価指標の構築及びブランディング」。とにかくなんだかスゴそうだが、つまるところ「宇宙×米」の組み合わせ。この誰も予期していなかったコラボレーションに妄想は膨らむばかりだが、そもそもコレって何なのか?

町の総務課DX推進係主任の小川康貴(おがわ・やすたか)さんと係長の大本賢一郎(おおもと・けんいちろう)さんは「説明するのが難しいんですけど……」と苦笑しながら教えてくれた。 

現状、北広島町では「米どころ北広島町発信プロジェクト」というのを行ってまして。町には日本の重要無形民俗文化財に指定されている伝統芸能「壬生の花田植」もあるし、県内でも有数の米どころということを発信して、「米といったら北広島町」と呼ばれるような町を目指してるんです。2022年からはお米の品質を競う「全日本お米グランプリ」もスタートしています

小川さん

お米グランプリのポスターには「『神楽』に『花田植』 世界に誇れる田園文化の息づくこの地で日本一のお米決定戦」というキャッチコピーが躍る。まさにお米の甲子園。昨年は全国から289点のエントリーが寄せられた。

お米グランプリのポスター。白米の向こうで般若がニラミを利かす……って怖いよ!

ただ、お米による町のブランディングも重要ですが、北広島産米のブランディングも重要で。お米グランプリを行うのも、お米の品質評価をすることで農家の意欲向上やお米の品質向上につながるんじゃないかという期待があるからです。実際今年1月には別のお米コンテストで北広島産の「いのちの壱」が日本一に輝くなど着実に成果は出ています

そのお米グランプリでの品質評価の方法ですが、現在は食味計などを使用する「機械審査部門」と、人が食べて官能審査を行う「食味審査部門」の2種類があって。それ以外に別の指標を用いた分析ができないか、というのが今回の取り組みになります

小川さん

機械を使った水分や成分のチェック、人が食べての美味しさチェック……それ以外に何でお米を比較できるのか? そこで宇宙が登場――って、ちょっと飛躍しすぎじゃありませんか?

高精度の色彩分解能力で
米の新指標が作れないか?


今回の北広島町の協業相手「Milk.株式会社」の武器はハイパースペクトルカメラ(以下、HSC)。何ですかそれ?と思うのもムリはないが、これは人の目で見分けることのできない細かな色の違いを識別できるカメラのこと。人工衛星に搭載されていて、それゆえ宇宙技術と評される。 

Milk.さんは今、広島県でHSCを使ったレモンの腐敗予想の実験を行ってるんです。それがもう実装ベースに近づいてるので、新しい取り組みがしたいという話になったんです

小川さん

解説すると、現在Milk.は広島県立総合技術研究所と組んで実証実験を行っている。通常のカメラでは色は3原色までしか分解されないが、HSCは141原色での分解が可能。この高精度の色彩分解能力を用いて、レモン表面の微妙な色の違いから腐敗の進行を予測し、腐る可能性が高いレモンから先に出荷することで食品ロスを減らそうとするのがその取り組みだ。

レモン表面の微妙な色の違いで腐敗を予測。精度98.7%!

今回その先端技術を持ち込まれた北広島町は「すごそうだから何かやってみたい!」となるも、問題は「じゃあ、何をやるのか?」。そこで浮上したのが米どころという個性。ウチにはお米があるだろ!――ということでブラッシュアップを続けた結果…… 

Milk.さんもまだお米の分析を行ったことはないらしく、まずはHSCでお米を撮影してもらうことになったんです。今回の目標は新しいお米の評価指標を作ること。お米の細かい色味が食味計の数値や官能評価とどう関係しているか調べることで、お米に対する新しい基準が生まれる可能性がありますから

もしお米のおいしさと色の波長に相関関係があるとわかったら、今後お米の生育にそれを活用していくつもりです。最終的にはお米グランプリに「ハイパースペクトル部門」みたいなものを作れるかもしれませんね(笑)

小川さん
お米グランプリ表彰の様子。新たな部門誕生か?

いや、わかってます。話がものすごく壮大なことになっているのもわかってます。でも、もうちょっと話を聞いてみてくださいよ。

リスキーだけど魅力的
話題性で一目置かれる!


ということで現在の実証実験の様子であるが、まさにMilk.に米を送ってHSCでの撮影&解析を行ってもらっているところだ。とりあえずお米のサンプルと過去のお米グランプリで得た審査データを比較し、色味と食味との相関関係を探ってみる。何が出てくるかはオタノシミ……って、わかってます。「ホントにそれうまくいくの? 役に立つの?」って不安感じてることくらい、わかってますって!

お米グランプリでは実際に食べてみての審査も行われる

今回北広島町は3案採択したんですけど、このプロジェクトが一番チャレンジ部門だし、具体的に進んでないのも一番(笑)。でも見方を変えれば「何が分かるか分からないこと」って魅力でもあるんです

実は今回役場内のプレゼンテーションで一番点数が高かったのもこの取り組みで。宇宙とお米を掛け合わせるって話題性もあるし、ニュースバリューもある。Milk.さん的にも今後お米に進出できたら大きな市場をつかめるし、スタートアップの成長の支援にもなる。町内の企業や農家と新しい掛け合わせが起こるかもしれない。「北広島はお米の町」と言ってるんだから私たちが協力しようよ!ってところなんです

小川さん
北広島に伝わる「壬生の花田植」。町の6月の風物詩だ

そもそも広島県って一般的に認知されているお米の有名な生産県でもないですし、同じ県内でも産地間の競争があるんです。そんな中で今回の取り組みによって、県内でもズバ抜けた存在になるとか、全国でも一目置かれる存在になれればという想いはありますね

大本さん 

正直、まだ海のものとも山のものとも判断できないところはある。宇宙米というブランディングで大成功に終わるかもしれないし、大コケするかもしれない。それでもチャレンジにBETする。アクセル全開でキワに突っ込もうとする心意気に北広島の本気度を感じずにはいられない。だってこの提案が役場内で最高スコアだったわけだから!

この案を選んだのは
夢のある技術だったから

この案件は決して1年で実装できますってものではないと思ってます。これからMilk.さんとお互い持ってる技術や知見を出し合いながら、少しずつお米の品質向上や農家さんの生産意欲向上につながっていけばという感じです

小川さん 

追いかけているのは即物的な利ではない。もっと大きくて、もっと長期的に楽しめて、もっと幸福を実感できるもの……この実証実験にピッタリ当てはまる言葉を挙げるなら、「夢」というものになる。

新たな指標ができることで、生産者の意欲向上にもつながれば

今回みんながこの案を選んだのは、夢のある技術だったという部分が大きいと思います。普段行政の仕事をしてると、夢があるってだけじゃ物事を決められないじゃないですか? でも今回はスタートアップと一緒にやるプロジェクトだし、県が支援もしてくれる。それで私たちもやってみようと思えたんです

小川さん

誰もやったことのない挑戦だけに未来はどうなるかわからない。それが不安だけど挑戦はワクワクするし、日々の生活に彩りを与えてくれる。北広島町はこの「The Meet」で夢見る自由をつかんだのかもしれない。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて

今回の「The Meet」全26件の取材を担当している私に言わせると、もっともふんわりしてて、もっともナゾ度が高くて、もっともどう転ぶかわからないのがこのプロジェクト。だって「宇宙×お米」ですよ。その振り切ったチャレンジ精神が痛快だし、その一方で「ここからセレンディピティでトンデモナイ発見とか生まれちゃったりして……」という期待も抱かせます。リスキーなだけにハマッた時のリターンはデカいだろうな、と。

ちなみに現在役場側がやってるのは――「解析用のお米をジップロックに詰めて送ってるところです(笑)」。めちゃ地味。夢を叶えるには地道な努力が必要ってことです!(文・清水浩司)

 

・共同事業者:Milk.株式会社
・活用ソリューション:高精度の色彩分解能力を持つ「ハイパースペクトルカメラ」
・概要:お米の光(色)の波長を分析することで新たな評価指標を作り、地元米のブランディングに活用する
・必要経費:100万円(※HSC使用費、AI解析費など)


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