宇宙技術でお米ブランディング(北広島町)【スタートアップ共同調達事業】
スタートアップと協業する「The Meet」ではおのずとDXやAIといったデジタル技術が飛び交うが、北広島町が挑むのは地球を飛び越えた宇宙技術。しかも空の彼方と地面に根差したお米という、これまで見たことがない組み合わせだ。マクロとミクロの壮大な掛け合わせは町に何をもたらすのだろう?
「米といったら北広島」
さらなる向上を目指して
今回の北広島町の採択案は非常にユニークだ。おそらく日本で初めてだし世界初の試みかもしれない。「宇宙技術ハイパースペクトルカメラの活用による光(色)の波長解析を通じたお米の新たな評価指標の構築及びブランディング」。とにかくなんだかスゴそうだが、つまるところ「宇宙×米」の組み合わせ。この誰も予期していなかったコラボレーションに妄想は膨らむばかりだが、そもそもコレって何なのか?
町の総務課DX推進係主任の小川康貴(おがわ・やすたか)さんと係長の大本賢一郎(おおもと・けんいちろう)さんは「説明するのが難しいんですけど……」と苦笑しながら教えてくれた。
お米グランプリのポスターには「『神楽』に『花田植』 世界に誇れる田園文化の息づくこの地で日本一のお米決定戦」というキャッチコピーが躍る。まさにお米の甲子園。昨年は全国から289点のエントリーが寄せられた。
機械を使った水分や成分のチェック、人が食べての美味しさチェック……それ以外に何でお米を比較できるのか? そこで宇宙が登場――って、ちょっと飛躍しすぎじゃありませんか?
高精度の色彩分解能力で
米の新指標が作れないか?
今回の北広島町の協業相手「Milk.株式会社」の武器はハイパースペクトルカメラ(以下、HSC)。何ですかそれ?と思うのもムリはないが、これは人の目で見分けることのできない細かな色の違いを識別できるカメラのこと。人工衛星に搭載されていて、それゆえ宇宙技術と評される。
解説すると、現在Milk.は広島県立総合技術研究所と組んで実証実験を行っている。通常のカメラでは色は3原色までしか分解されないが、HSCは141原色での分解が可能。この高精度の色彩分解能力を用いて、レモン表面の微妙な色の違いから腐敗の進行を予測し、腐る可能性が高いレモンから先に出荷することで食品ロスを減らそうとするのがその取り組みだ。
今回その先端技術を持ち込まれた北広島町は「すごそうだから何かやってみたい!」となるも、問題は「じゃあ、何をやるのか?」。そこで浮上したのが米どころという個性。ウチにはお米があるだろ!――ということでブラッシュアップを続けた結果……
いや、わかってます。話がものすごく壮大なことになっているのもわかってます。でも、もうちょっと話を聞いてみてくださいよ。
リスキーだけど魅力的
話題性で一目置かれる!
ということで現在の実証実験の様子であるが、まさにMilk.に米を送ってHSCでの撮影&解析を行ってもらっているところだ。とりあえずお米のサンプルと過去のお米グランプリで得た審査データを比較し、色味と食味との相関関係を探ってみる。何が出てくるかはオタノシミ……って、わかってます。「ホントにそれうまくいくの? 役に立つの?」って不安感じてることくらい、わかってますって!
正直、まだ海のものとも山のものとも判断できないところはある。宇宙米というブランディングで大成功に終わるかもしれないし、大コケするかもしれない。それでもチャレンジにBETする。アクセル全開でキワに突っ込もうとする心意気に北広島の本気度を感じずにはいられない。だってこの提案が役場内で最高スコアだったわけだから!
この案を選んだのは
夢のある技術だったから
追いかけているのは即物的な利ではない。もっと大きくて、もっと長期的に楽しめて、もっと幸福を実感できるもの……この実証実験にピッタリ当てはまる言葉を挙げるなら、「夢」というものになる。
誰もやったことのない挑戦だけに未来はどうなるかわからない。それが不安だけど挑戦はワクワクするし、日々の生活に彩りを与えてくれる。北広島町はこの「The Meet」で夢見る自由をつかんだのかもしれない。
●EDITOR’S VOICE 取材を終えて
今回の「The Meet」全26件の取材を担当している私に言わせると、もっともふんわりしてて、もっともナゾ度が高くて、もっともどう転ぶかわからないのがこのプロジェクト。だって「宇宙×お米」ですよ。その振り切ったチャレンジ精神が痛快だし、その一方で「ここからセレンディピティでトンデモナイ発見とか生まれちゃったりして……」という期待も抱かせます。リスキーなだけにハマッた時のリターンはデカいだろうな、と。
ちなみに現在役場側がやってるのは――「解析用のお米をジップロックに詰めて送ってるところです(笑)」。めちゃ地味。夢を叶えるには地道な努力が必要ってことです!(文・清水浩司)