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農家と食への意識が高い人たちを繋げる BATON 。県産を通して広島を東京、そして世界へ

「広島の価値は、全国だけでなく世界へも通用する可能性を十分に秘めています」。そう言い切るのは、こだわりのある生産者や職人飲食店、そして東京をはじめとする都会との橋渡しをし、それぞれの魅力を広めながらブランド力の向上を図る『株式会社ATORA(アトラ)』代表の小野敏史(おの・さとし)さん。長かった東京での生活から帰広し、改めて広島の素晴らしさと、産業のポテンシャルに気づかされたと言います。そんな小野さんに、「Hiroshima FOOD BATON」においてATORAが取り組んでいく事業をお伺いしました。

株式会社ATORA 代表 小野敏史さん

1977年生まれ、広島市出身。広島で生み出される食材のポテンシャルを再認識し、その魅力を東京・世界へと届けるために奔走。

経営者の視点で農家の可能性を見出す

「広島の農業や水産業、畜産業といった、1次産業に従事されている方々は、本当に一生懸命に仕事に取り組まれています。ですが、いいものを作れるのに、そこから価値あるマーケットに届けるのが苦手だなって感じるんです。 

1軒の農家を1つの会社として見立てたとき、それが生み出す利益はわずか。これは本当にもったいないことですが、そのもったいないことすら気づいている方も少ないのかもしれないのが現状です。

農家さんの考え方一つで、もっともっと利益を出すことができると考えています」。

そこで小野さんたちは『B級野菜を使ったバーチャルブランドの設立』『名店コラボによる県産を活用したブランディング』そして、それらからもたらされる『農業経営体の稼ぐ力向上への貢献』という、大きな三つの柱を掲げ、産業従事者の方々と共に世界に広島を発信していこうと歩み始めました。

捨てるものがお金に!?アイデアで稼ぐ力を

まず小野さんたちが注目したのは、野菜や果物などの出荷時に規格外となって出てしまう、いわゆるB級商品。不揃いの野菜たちは、サイズや形が規格に合っていないというだけで、大量の廃棄物として処分されてきました。

「規格外の商品は、食品業界ではこんなにも多く廃棄されているんだと知ったときは本当に驚きました。しかし、この廃棄されてしまうものでも、しっかりと利益を残せるんだということを、まずは知ってもらうことが大切でした。そこで規格外の野菜や端材を買取り加工し、商品として流通させることを始めてみたのです」。

そこで生み出されたのが、一つ目の柱『B級野菜を使ったバーチャルブランド「Re soup」の展開』。本来なら捨てられるはずだった規格外のナス、ニンジン、トウモロコシ、トマトに手を加え味も鮮度も抜群な冷製スープを作り出しました。そしてそれを三越でテスト販売。反応は良好。さらに改良後、廃棄物に新たな価値を生み出していきます。

「いつもならば捨てているものがお金に変わるということに、農家さんに気づいて頂けたのが一番です。そういった少しの工夫で、農業でもしっかりと利益を生み出していけるよう、農家と販売先や加工業者といったたくさんの方たちとアイデアを出し合い、その橋渡しをするのが私の役目だと思っています」。

そういったアイディアを農家と出し合いながら新しい価値を生み出す一方で、小野さんはこうも続けます。
「北海道の農家さんは、高大な平地で一度にたくさんの野菜を作り、大手メーカーと契約栽培をし、効率のいい仕事をされています。しかし、農地の多くが傾斜地である広島でそれをやろうとしても無理な話。ですから、広島では絶対に、少量高品質の物を作って勝負すべきなのです」
そういった広島においての農業の在り方に気づき、さらには自身の作物に対するブランディング化が重要だと感じて、実際に動き出している方もいるようです。
「有名なヨガのインストラクターで整体師にも関わらず、実家の農業を継ぎ、新しい作物に挑戦し始めた人もいます。彼が作るのは、少量しか栽培できませんが本当に高品質なケール。ヨガや整体の知識を活かし、体にいいものしか作らないというこだわりようです。その彼が作るケールがとある大企業の目に止まり、そこから次第に、食の意識が高い人たちから注目されるようになってきました。少量高品質にこだわり、ブランディング化がされ始めた良い例です。そういったことがうまく軌道にのれば、稼げる農家が生まれてくるのだと思うのです。

ケール農家の加藤さん

狙うは、拡散力を持つ、意識の高い消費

次に取り組むのは、『名店コラボによる県産を活用したブランディング』。広島の名産や名物、全国的に知名度の高い飲食店などとタッグを組み、県産の食材を使った商品やメニューを発信していく動きです。有名お好み焼店や、食べるには行列必至のラーメン店といった名店に、県内で作られる野菜や肉、魚介類などを使ってもらい本当に美味しいものを提供しています。

三原市にある人気ラーメン店『塩そばまえだ』の6種の穀物で大切に育てられた『瀬戸内六穀豚』を使用した塩そばを販売予定。
こういった、県内の有名店とこだわり抜いた県産食材を使って作られる商品を、小野さんたちはできるだけ『食に対する意識の高い人たち』へ届けるようにしています。

「意識の高い人たちは、購買意欲もありますし、拡散力や影響力を持っています。そういった人たちが納得するような広島県産の商品をどんどんとアピールすることで、首都圏だけでなく自然と全国、世界へと広がっていくのです」。

お好み焼き『五一』さんとの商品化の打ち合わせの様子

農家と有名店を繋げ、首都圏の食への意識が高い人たちに届ける。そういった動きは、小野さんのこれからの構想の中で、ロールモデルになる可能性を十分に秘めていると言います。

「農家さんや、畜産業者さんといった方たちの中でも、さらにスペシャリストと言われる方たちが、本当にこだわり抜いて作るものは、自信を持って食の意識が高い方たちにお勧めできます。作り手と買い手、広島と東京や世界を繋げる手助けをさせていただき、広島の価値を最大化していくことこそが、私たちの役割だと考えております」。