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記事の理解に生成AIがもたらしたもの

以下の文章には敬意を込めて実名を載せています。

1988年、かれこれ36年前の事になる。わたしはひとつのことが続かずあきらめてしまった。それは上司からいわれたことである雑誌を読むということだった。その雑誌は難解であることで知られている英紙エコノミストであった。それを読みなさいというアドバイスだった。会社には購読雑誌として小さな資料室に置いてあった。

さっそく記事を手にとって読み始めた。なんだかよくわからない。会社から持ち出すわけにいかない。そこで記事のコピーをとって電車の中で読んでみた。通勤の往復で何度か読んでみた。何度読んでもわからない。これってわかる人がいるんだろうか。2週間もするとわたしは一人で読んでもよくわからないこともあり読むのをやめてしまった。これをいまでも後悔している。

ところがこの上司を交わした最初の会話のことは今でもはっきりと覚えている。これはちょっとだけ自慢できる。こういうやりとりはそれほど多くに人が持っているわけではなさそうだから。前年1987年10月にはブラックマンデーが起きた。バブルがはじけてこれから証券会社は厳しくなる。わたしはなんとかしようと考えていた。

そこでアメリカに留学をしてやり直しをしようと計画していた。そこでさらに高度な英語を身に着けるのにはなにがいいか。アメリカの大学院でやっていけるだけの英語力をつけるには何が必要なのか。アメリカ人の上司にストレートに聞いてみたのである。彼は答えた。

英紙エコノミストを読むことを推薦する。たくさん読みなさい。いい文章を書くにはたくさん読まなければいけない。あれはよく書けている。はて、なんのことなのか。すかさず読むときに注意することも教えてくれた。

記事の中にある統計を鵜吞みにするなということだった。そうしないための推薦書を紹介してくれた。「統計でウソをつく法」という本だった。いまでも書棚にある。

わたしは彼にストレートに聞き返した。ではエイドリアン、あなたはどんな本を読んでいるのですか。茶目っ気のある上司はこう答えた。わたしはイギリスの作家、ディック・フランシスの小説が好きだ。

こういう会話を28歳のときに交わしたのである。10歳年上の上司とこういったストレートな会話ができるというのはありがたかった。わたしは読むのをやめたあと、この会話のことをしばらく思い出すことはなかった。

33年があっという間に過ぎた。雨の降る寒い冬。わたしは6人の仲間と豊洲のベローチェでコーヒーを飲んでいた。海外留学を応援する人たちが集まってきた。ボランティア活動だった。その活動の中心は三菱商事のときの後輩で筒井鉄平という徳のある人間だった。彼はいまシリコンバレーでファンドマネージャーとして活躍している。そんなボランティアの中にスタンダード大学でMBAを取得した首藤繭子という人がいた。初めて会ったにもかかわらず彼女はコーヒーを飲みながらこういった。

都内でエコノミストを英語で読む会がある。興味のある人は参加するといいい。えっ、そんなことをする人がいるのか。2011年1月の寒い冬のことだった。わたしは会を主催する人に連絡をとった。

エコノミストを英語で読む会をはじめたのは五常・アンド・カンパニーで社長をしている慎泰俊(TJ)氏だった。わたしは彼と会い、彼の姿勢に感銘を受けた。やがて読書会を続けるうちにズルズルとその魅力に引き込まれてしまった。そして13年が経過した今日ある問題に直面している。それは読書会に出る意味を考え直さなければならない。

その理由は生成AIの登場だった。AIによりいままでの読書習慣に影響が出るのではないか。いや、AIのことは放置しておけばいいのではないか。これまでどおりでいいではないか。そういうこともあろう。しかしそうほっておくわけにもいけなくなってきた。


問題発生


問題というのはこうだ。記事をまとめること。読んで論点を出すこと。これは生成AIがやってくれるのである。

生成AIが登場する前まではこういう習慣だった。まず記事をざっと読む。大体の流れをつかむ。2回目をゆっくりめに読む。そこでハイライトをする。そうするとだいたい1分くらいで話せるまとめの文章の構成が頭の中でできる。

3回目はハイライトをしたところから要旨を抜き出す。そうやってまとめを文章にする。絵コンテを書いてつくりあげていくこともした。精読をして読書会で発表できるようなまとめをつくる。

その後、2~3日かけて論点を考える。さてこの記事はどんな争点を持っているのか。3日後には論点として出す。こういった作業をしていた。

ところがこれをChatGPT 3.5を使ってすぐできてしまう。プロンプトのところにSummarize the text above for me.とタイプしてEnterを押す。すると瞬時に記事のまとめが出てくる。ニュアンスの違う3つの候補から選ぶこともできる。創造的、普通、あるいはプロフェッショナルから選べる。だいたい記事の2割前後の分量でまとめが出てくる。それを校正すれば自分のまとめになる。

そして次のプロンプトで論点を出してくれと要求する。Create discussion questions for me. これだけをタイプして指示すれば適当な論点を作ってくれる。論点とはディスカッションに使う質問形式の文章であり10つほど出してくれる。それほど悪くない論点だ。

そうしてその中から議論をするのにふさわしい質問を選ぶ。どれがいいだろうか。これもChatGPTが答えてくれる。プロンプトにこのようにタイプすればよい。Among discussion questions above, which one is the most relevant to serving the public interests? 生成した論点の中から一番いいものはどれか。新聞記事というのは一般の市民に向けて書いたものだ。その中で公共性の高いものを教えてほしい。そうすると答えてくれる。

何度か試してみた。当てはまる3つの論点を選んでくれる。しかも何が争点なのかをChatGPTが解説してくれるのだ。

ここで生成AIが出したまとめ、論点、議論用の論点を載せておこう。

使った記事は"Why Costco is so loved" という。コストコが愛されている理由という記事だ。

記事のまとめ


Costco is a successful retailer that has been able to keep its customers, employees, and investors happy. The company's business model is based on offering high-quality products at low prices, which it achieves by keeping markups low, charging a membership fee, and stocking a limited selection of products. Costco also treats its employees well, which helps to keep turnover low.

Here are some of the key reasons why Costco is so loved:

  • Low prices: Costco is able to offer low prices by keeping its markups low and by buying in bulk from suppliers. This allows them to pass on the savings to their members.

  • High-quality products: Costco is known for selling high-quality products. This is because they are able to focus on a limited selection of products and because they have strong relationships with their suppliers.

  • Membership model: Costco's membership model creates a loyal customer base. Members pay a yearly fee to shop at Costco, which gives them access to exclusive deals and discounts.

  • Employee satisfaction: Costco is known for treating its employees well. This includes paying them higher wages than the industry average and offering generous benefits.

Overall, Costco's success is due to its focus on providing value to its customers, employees, and investors.

論点


Discussion Questions about Costco's Success:

Costco's Business Model:

  1. Costco prioritizes low markups and a membership model. Does this benefit all types of shoppers equally? Why or why not?

  2. Costco offers a limited selection of products. Is this a strength or a weakness? Could they improve their strategy?

  3. Is the annual membership fee worth it for you? What factors would influence your decision?

Value for Stakeholders:

  1. Costco is known for high employee satisfaction. How can other companies learn from their approach?

  2. Should all businesses prioritize employee well-being the way Costco does? What are the potential benefits and drawbacks?

  3. Can Costco maintain its focus on value for both customers and employees in the long run? Why or why not?

The Future of Costco:

  1. How can Costco adapt its model to compete with the growing popularity of online shopping?

  2. What are some potential threats to Costco's success in the future? How can they address these threats?

  3. Do you think other retailers will try to imitate Costco's business model? Why or why not?

These questions encourage you to think critically about Costco's business practices and how they contribute to their success. Feel free to modify these questions or create your own based on your specific interests!

ディスカッション用の論点


Here are a few discussion questions from the ones you created that are most relevant to serving the public interest:

  • Costco prioritizes low markups and a membership model. Does this benefit all types of shoppers equally? Why or not? This question delves into how Costco's model might impact access to affordable goods, a key public interest concern.

  • Should all businesses prioritize employee well-being the way Costco does? What are the potential benefits and drawbacks? This question explores the impact of employee treatment on the broader workforce and potentially, on product quality and service. A well-treated workforce can contribute positively to the public good.

  • Can Costco maintain its focus on value for both customers and employees in the long run? Why or not? This question considers the sustainability of Costco's approach, which could potentially serve as a model for other businesses, ultimately benefiting the public through wider access to good working conditions and affordable goods.

These questions focus on how Costco's business model affects the public beyond just its members. They encourage discussion about affordability, worker well-being, and the potential for a broader positive impact on the marketplace.

真の問題


では何が問題なのか。まずわたしが4日くらいかけてやっていたことがChatGPTでやると10分程度でできてしまうのである。4日というのはいつもそればかりをやっているのではない。しかし考える作業をする。ドラフトを書き出す。出てくるアウトプットはまとめと論点である。アウトプットは変わらない。では内容はどうであろうか。

ChatGPTの方を見てみるとさほど悪くはない。いまの読書会であれば十分に使える。であれば準備に使う時間はたかだか30分程度になる。原文を読む。あとはChatGPTにやってもらう。そうするだけで準備作業がかなり効率的になる。4日が30分になるのだ。

さてそうなると読書会に出る意味があるのだろうか。あまり意味がなくなってきた。というのはここ最近は人が集まらなくなってきた。集まっても顔ぶれが同じであること。しかもChatGPTを使ってまとめをし、論点を出している人もいる。そうなると日曜日の朝2時間というのは有効な時間の使い方なのか疑義がかかる。

そこでそもそもの目的はなんなのか。読書会に出る目的。読んでどうしたのか。海外留学なのか。エコノミストを英語で読む習慣ができることが狙いだ。習慣ができないとエコノミストは理解できない。一方で習慣ができてしまえばよい。それには通常3年かかる。

毎週最低でも記事を3つ読む。できれば10くらい読む。一年で150本。できれば年500本くらいを読む。それを3年続けるとだれにでも大抵読む習慣はできる。

毎週イベントに参加すると仮定する。1年で50回。イベントに参加する理由は議論に強くなること。いろいろな視点を学ぶ。偏見や思い込みを捨てることも必要になってくる。それらを習得するには最低5年くらいかかるであろう。250回くらいは参加して議論をしないと強くはならない。ファシリテーションの練習にもなるがそれほど期待できない。

いろいろな迷惑行為が出始めている。記事を読んでこない。他の記事を読んでいるときにまとめをする。ひとりで長々と5分話してしまう人たちが入ってくる。他の人がしゃべれない。会費半年3千円を支払わない。それにChatGPTを使うと機械とやりとりをしているようだ。ではどうしたらいいか。

解決策


これまでどおりテーマを決めて記事を選び丁寧に読んでいく。いくつか記事を選び論点づくりの練習をする。それができてはじめてChatGPTを使って論点を出す。自分の作った論点と比較する。そういったことをするのがいいだろう。いきなり生成AIを使うことをしてはいけない。ChatGPTを学びのアシスタントとして使う。では読む習慣ができており議論に強くなる必要のないわたしはどうしたらいいか。

残ったのは書く練習をすることになろう。この読書会を続けてよかったのはわたしは書く人になったということだった。2019年から書き始め、書くことのコツをつかみはじめている。これは読書会をはじめたTJがもともと書くことを得意としていたこと。彼が走ることを長く続けていて芸術の才能があったことが幸いした。走ることと書くことは似ている。これは読書会のはじめの頃に影響を受けた。

あれから36年の時が過ぎ読書会に行き始めてから13年。最近はあまり行かなくなった。そしてChatGPTの登場でこれからどう雑誌を付き合っていけばいいか。考え直す必要が出てきている。しかしこれだけはいえるであろう。

これまでどおり元の記事を読むこと。これまでの経験をいかして考える時間を減らさないこと。論点を自分で出すこと。生成AIの力を借りない。そうやって問いをつくる練習をするほかない。

こうやってブログを書く。書くことになんらかの新しいものを加えていこうと考えている。36年前に続けなかったことを後悔していた。一人で読んでもわからない。そんな思いをもってはじめてくれたのがTJだった。わたしは何が何でも10年続けると決めていた。ひとつくらいはあったほうがいいだろう。そして継続は達成された。

10年続ければ得意なことを習得できる。いつまでも書く練習をすればいいのではないか。しかし書くことだけは続けるつもりでいる。いつまでもあきらめずに。失敗し続けるに違いなくとも。わたしにとって10年続けたことの効果は大きかった。

生成AIは文章を書くお手伝いもしてくれるそうだ。でも人が書いた文章を読む方がいいのではないか。