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未就学児への林間学校

名古屋市から東京都へ引っ越して40年。こちらに住まいを構えて家族と静かに暮らしている。すると愛知県の実家の人たちとはすっかり疎遠になった。ほとんどの友人は愛知県に就職をしていまでも住んでいる。その人たちにあったのは5年前で最後になった。小学校から大学までいた愛知県を離れた。

最後の帰省でわたしは名鉄を使い豊田駅までいき周辺のホテルに入った。部屋にはいってテレビをつけてしばらく横になっていた。そこでなにやら聞いたことのある学校と友人とも思える名前が耳に入ってきた。豊田市内にある小学校で児童が熱中症で倒れ救急車で運ばれた。そして間もなく死亡してしまったという事件だった。その小学校の校長の名前を聞いたときどこかで覚えている名前だった。あの名前はそんなに多くあるはずがない。

そしてテレビの画面に映った人の顔をみた。幼い時の面影が残っている。40年いや50年以上会っていないにもかかわらず覚えていた。どうしてここで彼がテレビに出ているんだろう。彼は校長先生になっていた。

討議前

あるオンラインイベントで未就学児の林間学校について話をする予定がある。スウェーデンでは未就学児を対象とした林間学校に人気があるという。未就学のため小学校にあがる前の4歳から5歳くらいの子供を対象としている。部屋で教えを受けるのではなく自然の中で他の子供たちと先生といっしょに泥まみれになる。見たもの触れたものについて学ぶという機会だ。

スウェーデンでは地球温暖化に対して子供のうちから意識を目ばさせたいという狙いがある。親からの支持も多く300人以上が待機しているという。ただ先生の負担は大変だ。参加する子供たちへの健康に配慮しなければならない。

さてこの未就学児に対しての林間学校。この日本ではどうなのか。そういった疑問に対して意見をもらおうとしている。わたしは反対である。理由は先生への負担増、金銭的余裕、そして幼稚園ですることがあげられる。

まず未就学児は身体ができていない。健康への配慮が大変であろう。林の中にはいっていき急に温度が下がったときにどうするか。温かい食べ物や飲み物をとる必要がある。体温を下げないこと。林間にいくにはそれなりの服装が必要になる。林間で活動できるだけの耐久性と保温性のある服装をしないといけない。体温を保つ。

林間では普段いるところよりも空気が澄んでおり身体がよく動く。そのためついつい動きすぎて疲れがたまる。疲れをとるために部屋に戻って適度な昼寝をとらせる必要がある。

これらの健康管理を未就学児をあずかる先生にまかせることは無理であろう。そのようなことができる知識もなければ経験もない。4歳から5歳の子供たちの健康管理というのはそれほど簡単ではない。

このような林間学校を実施するにはお金がいる。その予算というのはどこから来るのであろうか。バスをチャーターして自然に行く。そして数時間過ごした後にもどってくる。訓練もそれほど簡単ではなかろう。先生は保育ができることが前提であってなにかのボーイスカウトやガールスカウトの隊長として訓練をうけているわけではない。予期しないことに備えて訓練をうけるのには別途お金がかかるであろう。

林間学校を実施することが幼稚園では義務化されてはいないであろう。あくまでもある程度身体ができたころの小学校高学年や中学になってから林間学校にいっても十分ではないか。どうしてもやりたければ親が責任をもってどこかに連れて行けばいいだろう。土日のどちらかを使えば都内からいけるところはいくつもある。親が仕事で忙しいというのは理由にならない。それを先生に任せて事故が起きた時の責任をとってほしいというのはよくない。

未就学児すべてに行き届いた健康管理をすることはかなり難しい。

わたしはテレビに映った友人の姿を見て愕然としてしまった。彼のことはよく覚えている。小学校と中学校のころから積極的で優秀な人だった。わたしが住んでいた学校では優秀なひとは先生になると決まっていた。そして彼は先生になった。40年という勤務期間を通じていろいろなことがあっただろうが彼のことだから問題なく勤務したであろう。

それがあと数年いや1年を残して死亡事故が発生してしまった。彼はそこの校長としての責任者だった。その後彼の身になにが起きたのかはよくわからない。連絡をとろうとすればとれたがわたしはあえてしなかった。50年もあっていない昔の友人に連絡することは簡単ではない。びっくりするだけだろう。

メディアで報じられたことで彼になんらかの根拠のない批判や誹謗中傷が起きていないことを願うばかりである。

確かにアイデアとしては悪くはない。地球温暖化への意識は早いうちから芽生えることがあるだろう。しかし同じような状況で事故は起きたのである。わたしは反対票に投じるしかない。

討議後

未就学児への林間学校というアイデアには反対をしていた。ところがイベントでそれを話してみると簡単な話題ではないことが分かった。イベントには5人の参加者がいた。男性2人。女性3人。男性は60代と30代がひとりづつ。女性は比較的若いひとが2人。もう一人は年配だった。

賛成派の意見はこうだった。4歳という未就学児においても自然にふれることは大事である。教科書やネットで学ぶよりもより体感的であり児童にとってはプラスになることが多い。わたしたちもそうやって学習した。けがに配慮しなればならないがそれは自然という環境に入っていくというのは危険がつきもの。それを前提に参加するのである。危険はありうる自然の中で学ぶ。

森や木を見る。川が流れている。湖や山で過ごすことで空気に触れることができる。科学のことを学ぶには適したテーマにあふれている。好奇心旺盛な子供たちがそこで見て触れること。体感できる授業というのはかけがえのない影響をもたらすであろう。

反対派の意見はこうだった。付き添いのひとへの負荷がかかりすぎる。子供たちの健康管理をするのは簡単ではない。森の中にどのくらいの時間滞在できるのか。1時間なのか2時間なのか。そういった子供たちの健康管理を保証できる科学的データがない。あったとしても自然の急な変化に対応できない可能性がある。急に温度が低下したときの体温管理。温かいものをとって体温を管理する。

4歳は体力が十分でないこと。また子供の個人差があって一様にはなかなかできない。そういったことを付き添いかインストラクターが背負って責任をとるのは簡単ではない。また訓練も受けていない。

親がやれないのか。忙しいのであればそういったことを支援する団体に頼めばいいのではないか。事故が起きた時の責任はだれがとる。付き添いにとらせることはできない。そういった事故が起きるとソーシャル・メディアにはすぐに動画や写真付きで投稿されてしまうではないか。また主要な報道機関では引き受けた付き添いの実名が掲載されてしまう。

その責任を教育委員会にかけるのではないか。場合によっては善意でやったことでも結果として事故が起きれば誹謗中傷の的になるのではないか。リスクをあえてとる人はいないであろう。親は責任者を出すように幼稚園に要求するではないか。

わたしはこれらの意見を聞いて難題にぶつかってしまった。4歳でなくてもこれから子供たちはどうやって自然に触れていくんだろう。特に東京都内に住む子供たちは自然に触れる機会がほとんどないではないか。そういった環境で育っていたら地球温暖化というテーマは身体でわからないのでだろう。