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アメリカが持つ活力の根源を探る

30年前にアメリカのビジネススクールを卒業。卒業までに猛スピードで突っ走ってきたことで何かを持ち帰って日本に帰ってきた。6月末にジョージア州アトランタを飛び立ち実家のある千葉県東葛地区へ帰った。3週間の準備期間を経て渋谷にある日本コカ・コーラに就職。毎日片道1時間の通勤時間を使っていた。満員電車は北千住と西日暮里間で最悪だった。

わたしが持ち帰った何か活力に満ちたエネルギーは急速に失われていった。渋谷の地下一階にあるオフィス。その中の雰囲気は最悪だった。ドメドメと悲観的なオフィスで精神的活力がなくなった。満員電車では夏場に向けて汗でびしょびしょになり体力が奪われてしまった。帰国後半年くらいですっかり東京に埋没した。ただ少しだけアメリカでの暮らしを思い出しそこでの活力が今日において何だったかを振り返る時がある。

あるオンラインイベントでアメリカの活力について話す機会があった。この30年でアメリカの経済は息を吹き返しいまや世界の経済圏の真ん中にある。それが今後30年も続くであろうか。そんなことをテーマにしたイベントだった。わたしはアメリカの一人勝ちはこれからも続くであろうと考えている。

トランプ大統領やバイデン大統領がそれぞれスローガンを打ち立てた。アメリカを再び偉大な国にしよう。経済再生に2兆ドル(260兆円、為替レート133円)をかけて経済を再建しよう。それにもかかわらず8割のアメリカ人は将来に向けて悲観的であるという。この数字は30年前には4割程度だった。それでも経済統計値を見ればいずれも好調のようだ。

国内総生産(GDP)は2022年度には25.5兆ドルに達した。日本円で3、400兆円。日本の6倍以上。日本のGDPはシカゴを中心とする中西部の経済規模と同じくらいしかない。平均年収の伸びは欧州や日本より高い。最貧の州であるミシシッピ州ですら$50,000で670万円に達しているという。労働人口は30年で30%上昇。労働生産性も高い。G7で一位。

研究資金も$200bn(26兆円)と多く海外での特許取得数は2割程度に上る。株価の上昇は20倍になり30年前に100ドルを投資していたならば2千ドルにまで上がっているという。また福祉制度も広範囲に充実しはじめ急速に整備されはじめた。これらを説明するとすればその物品市場と株式市場の大きさ、仕事をするスキルの高さ、そして活力だという。

わたしはこの活力と聞いたときにアメリカの授業の中で覚えていること、シリコンバレーでの企業、そしてなにかしらの文化的背景について思いうかべていた。

アメリカの授業ではこういうことがあるのかということがいくつかあった。マーケティングの授業でとある問題を解くケースがあった。教授がだれかこの問題を速く解けるひとがいるか。教授は何かしらの計算式を板書しはじめた。問題というのはちょっとした因数分解だった。因数分解は中学生であればだれでも解けるものである。

例えばこのような問題があったとしよう。XとYの解はそれぞれいくつなのか。これはいかにも簡単な例である。
2X ー Y = ー1
3X + 2Y = 23

簡単とはいえどもほとんどのひとは紙とペンを必要とするだろう。実際に教授が黒板に書いたものはこれよりも複雑であった。ところがひとりだけ手をあげてすぐに解答をした学生がいた。わたしのクラスメートである。彼はプエルトリコ出身の21歳だった。教授はどうやってこんなに速く解答できるのかねといった。彼は自信を持ってこういった。

解を求めるのにすべて頭の中だけで解いた。ペンと紙は使っていない。だからだれよりも先に答えることができた。クラスの全員が驚いた。わたしも驚いた。彼はアメリカの教育を通してペンと紙を使って因数分解をたくさんしていない。教えた先生もそれを矯正するようなことはなかったという。

わたしはこのエピソードを思い出すたびにアメリカの活力を感じる。自由に伸び伸びと成長させる教育がある。そういったことが積み重なっていくとどうなるか。それはアップルを例に出してもよいだろう。

アップルはいまや世界の巨大企業である。以前はビル・ゲイツのマイクロソフトと競合してコンピューティングでしのぎを削っていた。その活力はいかほどであろうか。アップルがどのくらい稼いでいるのだろう。

ひとことでいうと$150。日本円で2万円という数字が浮かぶ。この2万円というのはビル・ゲイツが稼いでいた。2万円を稼ぐというのは1時間あたりではない。1分でもない。1秒あたりに2万円を稼ぐ。売り上げから計算したものだ。しかもそれはゲイツがいまから13年も前に得ていた額だ。

現在アップルはわたしの計算が正しければその100倍の売り上げを出している。つまり1秒当たり$150,000(2百万円)を売り上げている。1秒で2百万円だって。これは莫大な富を生み出しているといえよう。

iOSを利用したアプリは一日あたり1000以上アップロードされているという。

ほんのわずかのひとたちしか成功できない。しかもあのシリコンバレーですら成功確率は1%以下だという。それでもこの活力は異常なほどの高さといえよう。そこにはナイス・トライ(やってみなはれ)というようなものが脈々と流れているとしか考えられない。

シリコンバレーでは実に半分の労働者は上場前のスタートアップで働くという。残りの半分は上場後の企業で働く。そこでは40歳まではなにも失うものはない。そんなことがささやかれる。55歳になって自分が働いている会社を去れといわれるよりは思いっきりスタートアップでお金を稼ぐ。しかしそれも40歳くらいまでは突っ走る。そういった活力がある。

40歳を過ぎればスタートアップで働くことで失うものの方がが多くなる。家族、親戚、友人、そしてお金。場合によっては家や車といった資産も失う。そんなことはだれもしたくはない。だから40歳までが勝負なのだ。シリコンバレーのようなところがあるかぎりアメリカは今後30年も成長し続けるだろう。わたしはそう考える。若いエネルギーが充満しているところである。

わたしは帰国してなにかとてつもなくエネルギッシュであったことを覚えている。ゆっくりとチャージされたことを振り返ることもなく仕事についたので言葉で表すことができなかった。しかも日本コカ・コーラに入社してそのエネルギーはすぐに失われてしまったこと。決して文句ではなくどこかおかしいところだった。

今日若い人たちがなにか日本の中がおかしいことには気づいている。そこがどこなのかを早く見つけて是正する。若い人を応援しないといけないだろう。言葉による応援でなくお金を出すことだ。時間がない。

政府が税収で得たものを若い人にお金を払うことで還元する。また成功している起業家が若い人に挑戦をさせる。そのためにお金を払うことが必要だろう。まずは若い人に出すことだ。たくさん出した方がよい。それもいつまでもやる必要もなく40歳くらいまでのひとたちに投資すればよい。

やがて活力は失われる。45歳になればだれでもピークに達したことを知る。だれだってそんなときになって家族や家・車を失うことはできない。若い時にお金を得て挑戦するしかない。活力というものはそういうものではないだろうか。DNAに組み込まれているかと勘違いするほどチャージしたけどそれほどうまくいかなかった。もったいないことであった。