パナソニック・コネクトに惹かれる

2000年代のはじめ経営コンサルティングのカート・サーモン・アソシエイツからソリューションベンダーのアイ・ツー・テクノロジーズに働く場所を移した。前者は流通と消費財業界に特化したコンサルティング会社。問題解決を専門とする部隊でした。職種はロジスティクス(物流)とIT部門に分かれていた。わたしは入社するときにロジスティクス部門を希望した。しかし思わぬ苦戦を強いられて、それほど長くは持たなかった。

そこで経営コンサルタントあがりの人たちがいくところはどこかと探した。しばらくして日経新聞に求人が掲載されていた。そこはアイ・ツー・テクノロジーズという会社でした。担当はソリューション事業部でソリューション・セールスだった。経営コンサルタントと同じように顧客企業の問題解決をするというのが表向きの仕事内容だった。

二つの違いはコンサルティング会社というのは契約に沿って成果物を提供すること。主にリサーチが仕事の中身。一方、ソリューション・ベンダーというのは資料を提供するだけでなくソフトウェアのライセンスとその保守契約をする。そこが違いです。ベンダーの成果物は提案書にすぎない。それよりどのような問題があるかという要求定義が顧客側でできていないといけない。あるいは経営コンサルティング会社がつくったものを顧客側で用意しなければならない。そうでないとそこからソリューション・ベンダーがやるというたいへんな作業になってしまう。

そこでの仕事も苦戦した。顧客が新しいソリューションを理解できないこともあった。そういった背景から実際20人の営業部隊で成績をあげているのはたったの3人しかいなかった。

ハーバード・ビジネス・レビューという雑誌の12月号にパナソニック・コネクトという会社の紹介がされていた。先日、その読書会に参加して1時間ほど対話をした。いつものごとくわたしは比較的静かに聞いていました。

参加してきたのはすべて男性で聞くだけのひとを除いて5人だった。雑誌の表題が人を惹きつける会社とある。そんな会社というのはどういう会社なのか。果たして記事の内容から読者は惹きつけられるのか。私が静かに持ち込んだ疑問というのはそんなところだった。

特集記事として紹介されており、パナソニック・コネクトは企業文化の変革に取り組んでいる。従来のメーカーの強みを生かし内部の人材はハードウェアやモノづくりの人として保持する。一方で新しいソリューション事業の強化として外から人材を採用するという。マーケティング、HR、R&D、そしてソリューション・セールスを外部から調達する。その中でこのソリューション・セールスは経営コンサルティングをしていたひとを採用することはだいたい見当がつく。

はたしてそういった会社に惹かれるだろうか。たしかにパナソニック・ホールディングスを母体として財務的な安定感はあろう。そんなことにより惹かれるものの、この会社で働いてみたいかどうか。わたしは止めた方がいいと思っている。その理由を書いてみます。

要点としては企業文化、ソリューション・セールス、そして年収といった視点です。文化はそれほど簡単には変えることはできない。セールスはコンサルティングはそれほど簡単ではないこと。そして年収が高ければいいが、それほど期待したほどではない場合は止めた方がいいでしょう。むしろ採用されても成績が良くない場合は辞めさせられます。

ひとつづつ見ていきましょう。興味のある読者の方は雑誌を購入してください。そして実際に記事を読んでみること。その文章の流れから一体何がいいたいのかを理解すること。これから書くことは一部を抜粋していますが、文章の前後に何が書かれているかを読んで理解することが肝心です。

ここでは読者が読んでいることを前提として書いてみます。

パナソニック・コネクトでは企業文化の変革に取り組んだとあります。例えば27ページの1段目、右から8列には著者が入社した頃、ソニーの人と飲みに行くと言ったら、社内の人からそんなことは許さんといわれたそうです。これは閉鎖的な文化だったといわざるを得ない。それを変革によって少しづつ変えていったのでしょう。しかしこの日本企業の閉鎖性は簡単に改革できるものではありません。

わたしは20年前に品川にオフィスを構えていた三菱商事で働いていました。そこの6事業部のひとつ機械事業グループで働いていた頃です。三菱財閥は組織の三菱といわれるくらいグループの結束が強い。そのため上司が部下に向かって三菱自動車のクルマを買いなさいといいます。わたしはびっくりしました。

いくらなんでも三菱系列だからといって三菱自動車をどうかと強要めいたことを言わなくてもいいだろう。トヨタには乗れない。日産やホンダですら許されない。そういうこともあってか三菱商事の若手社員は無理をしてBMWを買って乗っている人もいました。企業文化とはそういうものです。ひとつの閉鎖社会にずっといるとそれが変だとは思わない。そういうことをいうのが当たり前と思ってしまうのです。

またグループ内での権力構造も強く残っていました。たとえば部門長が平気で派遣の女の子を膝の上に乗せていた。わたしはまさかとは思いましたが、実際にそういう光景を見ました。そういう権力の誇示をするのがサラリーマンとしてどうかという印象でした。しかしあるのです。

記事の25ページ。2段目の左から5列。パナソニックでは会議の時に席次表というのが配られていたとあります。だれがどこの席につくかというようなものを表していた。こういった職位と席の位置から序列のようなものを連想させるのはよくないでしょう。それでは活発な意見交換ができない。会議というのは意見をいうところであって上の人からの連絡を聞くところではない。連絡であれば会議をする必要すらない。

こういった硬直的な文化は変革したとはいえ残骸は長く残ってしまいます。企業文化はすぐには改革はされない。なので止めた方がいい。これがひとつめです。

次にこの記事ではソリューション・セールスというものの実態があまり深く語られていません。ソリューションというのは解決策のことをいいます。ただ解決策を出して、顧客に気にいられる。それで商品を買ってもらうとなるとコンサルティングです。一体どんな解決策を提供するのか。それが具体的に記載されていない。ということはそれをセールスマンが考えろというメッセージです。

顧客がどのような悩みや要求があるのかが定義できて、顧客側とにぎりができていないといけない。しかしながら記事ではB2Bのソリューション・セールスをするとしか書かれていない。まだ不明なのでしょう。

しかも人材が足りない。29ページの1段目、左から3列に書かれています。外部からマーケティング、HR、R&Dを雇っている。そういった人たちを集めてソリューション事業をするというのは極めて優秀でないとできない。これまでの大量生産型のような金太郎飴人材ではできないことです。同じようなスキルを持ち合わせているだけでは不十分。

極めてまれで特別な才能と実績がないといけない。いわば少数精鋭であってとんがった人しか活躍できない。例えばマッキンゼーですとか、BCG、ベインといった経営コンサルティング・ファーム出身の人です。そういうひとたちが日系企業の厳しい会社で働くのか疑問です。

最後に年収です。記事には当然記載されていません。しかしながら経営コンサルティングの経験があるひとであればこの会社でソリューション事業をするのがどれほど大変かは想像できるでしょう。年収が安いようでしたら止めた方がいいでしょう。

例えば年収2000万円。そのくらいであれば検討してもいいのかもしれない。しかし1500万円であったのならやめた方がいいでしょう。というのは1500万円で税引き後ですとそれほど可処分所得として残らない。しかも長続きするかといえばそれほどしない仕事である可能性が高いのです。

おそらくノルマのようなものがあって実績をコンスタントにあげないといけない。記事内に明記されています。厳しい会社であって、辞めていくこともありうる。そういうことが書かれている限り、結果を出さなければ追い出されることは目に見えています。

それほどソリューション事業でのセールスは難しいことをまず理解したほうがいいでしょう。たとえ年収がいいからといって長続きはしない。安ければはじめからやめておいた方がいい。たとえ記事の内容に惹かれたとしてもです。うまくいくわけがありません。そんなに簡単であればソリューション(解決策)などと全面的に出すことはないです。

だれにでもできる仕事ではないのです。楽してたくさん稼ぐ。これが鉄則です。

コンサルティング会社からソリューション・ベンダーに就職をしてから、そこで営業実績をあげていたセールスマンを観察しました。日中、ほとんどオフィスにはいません。常に顧客まわり。オフィスの外ばかりで過ごしていた。しかも土・日であっても仕事をしており、家に帰っても仕事をしているような人たちでした。そして顧客から突き付けられている難解な要求にほとほと参っていることもなく、自信にあふれている姿が印象的でした。

確かに成績のよい3人以外でも経営コンサルティングあがりの優秀な人たちはいました。しかしそういったひとたちでも顧客から信頼を得られるのは簡単ではありませんでした。

さて読者の方はどうでしょうか。惹かれますか。