見出し画像

男女間の格差はそれほどない

35年前に女房と結婚した時にこんなことをこぼしていた。都内の仕事についたけど給料がほんとうに低い。そんなに低いのか。実際の給与額は聞かなか。けど相当低かったらしい。勤務先は虎ノ門にある日立系の商社で日製産業といった。いまは名前を変えて日立ハイテクノロジーズという。あんないい場所に本社があるのに給料が低いとは考えられなかった。

総合職であったら男女平等ではないのか。女房の答えはそっけなかった。事務処理ばかりであとは飲み会。そんな毎日を過ごしていたのである。一方でわたしは事務処理は当たり前のこと銀行員といってもかなり収益に直結するところで働いていた。まわりは数千万円の年収をもらっている厳めしい銀行員がぞろぞろといた。

アメリカのハーバード大学教授であるクラウデ・ゴールドウィン博士が経済学ノーベル賞を受賞した。労働市場における女性の社会進出に関しての研究が認められた。これには博士の念入りな調査がある。これまで経済学者にとってはこれ以上データを深堀しても男女間格差を説明できないのではないかと思われていた。そこをブレイクスルーしたのだ。

いままで考えられなかったことを覆すような方法によって過去200年のデータを洗い直した。それにより男女間格差に新たな光明を見出したと解釈されよう。それにより賃金格差は一般に考えられているほどないのではないか。というのは家計アンケート調査で女性が主婦であると答えたとしよう。その場合仕事を持っておらず専業主婦としてしまっていた。ところが実際は家族経営を手伝っている。そんなことを考慮して経済データを修正した。

ゴールドウィン博士によると200年間での賃金はこれまでの額よりもよくなる。男女間の賃金格差はアンケートで集計されたものよりも改善されていよう。よって格差の少し小さくなるというもの。これを調べ上げるのは簡単ではない。

指摘をされているのは女性が賃金を勝ち取っていくのにどのような歴史上の出来事があったか。その時期を新たに指摘したことによる。産業革命とそれ以降に起きたサービス業への社会進出というものがある。サービス業が生まれたことでそれまで働くことできなかった時代が変わった。簡単な事務の仕事が労働市場にできたことにある。

それでも賃金格差は依然として存在し格差の是正は進まない。そんなときに女性が子供を産む段階である種の出来事が起きた。それは産む時期を選択できるようになったと指摘している。例えば子供を産む時期を遅らすことができればそれだけ労働市場に長くいられるというわけだ。一人目を産む。そして二人目を産む時期を後にずらしていく。それで労働市場に少しでも長くいられるようになった。長くいれば年収は上がっていく。

ところがゴールドウィン博士によると強欲な仕事を歓迎しないという。例えば経営コンサルタントであるとか弁護士といった仕事はあまり好ましくないと考えているようだ。というのは経営コンサルタントや弁護士といった士業はもともと初任給が高い。それに長くいればいるほど年収が上がる傾向がある。20代の経営コンサルタントよりも30代の経営コンサルタントのほうが年収はかなりいい。経験や役職が上のほうになっていくからだ。

よって子供を産む時期を遅らすことでより高い年収を得られる。それを博士はあまり歓迎していないという。なるほどそういう考え方があるのかと感心した。

200年経過してアメリカでは女性の年収が確実に上がってきた。7年前の2016年には平均年収が$80,000、日本円にして960万円にまで上昇した。当時の年末為替レート117円で計算している。

またアメリカではコロナ過をきっかけにリモートワークを導入する企業も増えてきた。博士はこのアイデアを推奨している。ただはたしてこれがほんとうに会社にとって業績にプラスになるのかはさだかではない。

さてこの東京ではどうか。日本で集計されているデータそのものの信憑性。そして集計方法。それらの正確性を問う必要はあろう。ただそれを考慮にいれたとしても公開されているデータを見ると現実は厳しい。一向に女性にとって改善されてはいない。

世界経済フォーラム、通称ダボス会議の2021のレポートに日本における男女間の格差に関する記事が掲載された。それによると是正するのに今後135年かかるという。これから135年かかるのならばやろうというひとはいないのではないか。国際比較においてのランキングでは121位と低い。

共同参画」2020年3・4月号 | 内閣府男女共同参画局

わたし自身も都内の大学で10年間、授業を通して女性の社会進出をサポートしてきた。しかし135年かかるとは考えてもいなかった。日本はどうしてきたのか。実際のところなにも企業努力をしていなかったということになろう。これからもどうも怪しい。それはG7の中でもとりわけ目立って遅れているからだ。わたしはこの統計を見るとがっくりと肩を落とす。どう見てもひどいと言わざるをえない。

共同参画」2021年5月号 | 内閣府男女共同参画局

35年後の今日、虎ノ門にある日立ハイテクノロジーズ内ではどのようになっているのだろうか。女房はもはや昔の同僚と連絡を取ることはない。話を聞いたところで何が起きているのかはよくわからないだろう。ただひょっとしたらリモートワークということが奨励されているのかもしれない。そうであればいい職場になっているだろう。