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ミッシェル・オバマの新製品

わたしは3度アメリカに渡り教育を受けてきた。1981年にはユタ州のソルトレイクシティ。1984年からはミシガン州のアン・ナーバー。そして1991年からジョージア州アトランタ。それぞれ、ユタ大学、ミシガン大学、そしてジョージア工科大学があった。留学経験を通して印象に残っているのはいくつもある。ほとんどが教育関係で学びとネットワーキングであった。そこで学んだ日本との違い。自然とアメリカ人との交友関係は深まっていった。

それでも一般の話題に疎かったわけではない。新聞を読み、知り合った人たちと話をした。ユタにいたときはアメリカの大統領はあのジョージア出身のカーター大統領だった。ミシガン州に移るとレーガン大統領に政権が移った。そしてジョージア州ではブッシュ(親)大統領であった。

ところがほとんどの友人は大統領のことは知ってはいるが政治のことを話題にしたがらなかった。ほとんど関心がないのか。それよりはスポーツや映画の話をした。中でも地元の知り合いや身内の面白い打ち明け話が多かった。政界のことは話が途絶えた。

あるオンラインイベントでオバマ夫人の新製品について話をする機会があった。オバマ夫人はアメリカでは知らない人はいない。あの44代大統領であったバラク・オバマの奥さんである。オバマ夫妻は好感度が高くアメリカでは有名だけでなく、彼らのスピーチには何人ものひとが会場に訪れる。まるでポップスターのようだ。

オバマ夫人はスピーチはインスピレーションをもたらすことで有名。スピーチのお手本としてもよく取り上げられている。出版もしており売り上げも好調。それだけ支持者が多い。

そのオバマ夫人が新しいビジネスを始めた。PLEZIと名前が付いた製品は子供たち向けにつくられた健康飲料。そのプロモーションのためにスピーチをおこなった。はたしてうまくいくのか。

そんなところをイベントで話をした。イベントに来た人たちは5人であった。3人は中年の女性。2人は引退後の男性だった。このイベントの中身はともかくとしてわたしはこのビジネスを考えるうえで以下の3つの点を考慮すべきではないかと考えた。

まずアメリカの食品業界はお金儲けだけに走っている点。次にアメリカ国内ではジャンクフードが多く、悪いとわかっていても食べざるを得ない点。そしてどれだけいいスピーチをしても一般のひとたちはまともに聞いていない。言うことを聞かない。そうなるとビジネスの効果が表れない可能性が高い。どういうことだろうか。

アメリカでは多くの食品がいろいろなところで売られている。売られているかぎりはビジネスとして換算されるのであってお金儲けの活動になっている。ものを買って食べるという行為がビジネスなわけだ。お金が動くということはそこには必ず儲けが出るかどうかというのが加味されている。高い食品を売れるだけ売って儲けるのか。それとも安い食品をたくさん売って儲けるのか。そのようにするしかないのである。

健康に良い食品は一般的に高くなかなか手が届かない。お寿司のような食品はニューヨークやシカゴのように日本人のいる都会にはあるが田舎にはない。かなり前になるもののユタ州ソルトレークシティーにはお寿司屋さんは一軒もなかった。バーガーのお店すら少なく、レストランなるものさえあまりない。ミシガン州ではホットドックやハンバーガーばかりを食べていた。必ずいっしょに飲むのはコカ・コーラかペプシだった。

わたしはコカ・コーラ社にしばらく勤務したが役員が考えていることはお金儲けのことばかりだった。損益計算書の経常利益をあげること。それにより株価をつりあげること。それだけが役員の仕事だった。

ドッグとバーガーを常に食べてコーラばかりを飲んでいるとどうなるか。その答えは明らかだろう。

次に一般のひとたち、大学生をも含めて、ジャンクフードがいかに悪影響を及ぼすのか理解できてない点が指摘される。悪いとわかっていないのである。

ミシガンに学んでいた時は寮の中にある食堂で食べることができた。現在の値段は知らないが当時は8ドルくらいで食べ放題だった。朝、昼、夜と食べ放題である。朝はパンくらいにしておこう。昼はバーガーをがっちり食べる。そして夜はステーキが食べ放題という環境だった。

ジョージア州では大学内ではサンドイッチ店が繁盛していた。そこでも6ドルくらいでサブウェイのサンドイッチ2倍くらいのものが出てくる。それにソーダを飲みながら食べるのである。これを悪いというようにはしていない。こういうものを食べても悪いと考えてない人たちの周りにいると慣れてきてしまう。わたしも経験としてジャンクフードがおいしいというようになってしまった。

最後にマーケティング効果という点である。オバマ夫人は確かに有名でいいアイデアを持っている。アメリカの子供たちの健康を心配して少しでも健康的な暮らしをしてほしいと願っている。その取り組みはホワイトハウスにいるときから活動してきている。しかしアメリカ人はほとんど彼女のいうことを聞いていない。聞いてはいるがその内容に対して関心がないのだ。

それは少し教育を受けた人たちがキャンパス内で話すことは政治以外の話であってビジネスについてもほとんど話さない。ビジネススクールにいたときでさえ交友関係を深めるときにはビジネスの話はしないのである。それよりは身近にある面白い話ばかりをする。

いずれの3州であってもオバマ夫人の新しい取り組みを話題に出したとする。そうすると反応はほとんど知らないか。知っていても内容に立ち入らない。知らないふりをするかして話を避けてしまうのだ。面白くないからだ。話の着地点が面白くなければ話したがらない。

わたしはアメリカの教育を受けるために3度海を渡った。そしてその後もビジネスやプライベートで50回以上飛行機で往復している。その都度食べるものはどうなったかを気にしてきた。空港やホテルで食べるもの。それは確かにおいしくなっている。スーパーで買い物をしても健康にいいものが売られてきている。野菜はやたら元気で大きく固いものが多いが健康にはいいはずだ。

サンフランシスコ郊外にはサラダとスープだけのブッフェがあった。

しかしいまだにアメリカ人の多くは悪いジャンクフードを食べ続けている。オバマ夫人のメッセージは届けられるだろうか。ビジネスとしてもちょっとうまくいかないのではないか。そういった懸念がある。

さて東京にいる大学生の読者にとってはいかがでしょうか。東京での暮らしの中で健康に配慮した食べ物を多く取っているでしょうか。わたしは学生としての暮らしはしたことはない。東京で働き始めた頃は夕食に天丼をしっかり食べていた。決まった時間に食べることさえできていなかった。そんなことが続くとさすがに太って疲れやすくなった。

28歳で結婚をして女房がつくってくれた食事を見るとびっくりとした。家庭料理というのがここまで健康に配慮されているのか。油を控えてなんとか味を確保する。女房は工夫した。それでも肉や油物をまったくなくしてしまうわけにはいかない。

いつになったらメッセージが届くのだろうか。