見出し画像

ハラスメントはなくならない

企業勤務25年。大学勤務10年。よく勤務を続けたものだ。その35年間を振り返るとどんな経験をしたのか。よく考える。するとよいことばかりではなかった。それは就職活動をしていた40年前、会社・大学の職場についてはなにもわからなかったことにある。結構厳しい職場だった。

今日においてもハラスメントで思い悩むひとが多い。それもこれだけ報道をされているのに繰り返し報道される。なぜだろう。報道されていない件数を含めたとしたら相当な数に上るのではないか。

2020年に厚生労働省に届け出のあったハラスメントの数は85,000件という記事があった。この数字は少なすぎる。600万社以上の会社が日本にはある。実際ははるかに上回る数が発生していることだろう。届けないのは被害者が勇気をもって訴えることをしないためだ。

わたしの勤務の時にはどうであったか。覚えている限りここで書いてみよう。なるべく起こった事実に忠実に。そして自分にどこか非があったのかどうかも冷静に書いてみよう。相手を怒らせるようなことをしたのかどうか。

スイス銀行(UBS)に勤務していたときのことから。勤務地は日比谷から霞が関、そして神谷町と6年間で3か所に移転した。移転したところでやることは変わっていない。わたしの観察した限りでは為替取引、株・債券のディーリングルームいわゆるディーラーという稼ぎ頭がいる部屋は最悪だった。ハラスメントかどうかという次元ではない。戦場のようだった。

ことばによる暴力、つまり暴言が日々飛び交うところであった。さすがに身体的暴力まではなかった。卑劣なことばが飛ぶかう。無茶苦茶な振る舞いをする。それがディーラーだった。80年代の終わりから90年にかけてわたしは調査部にいた。それほど火の粉は飛んでこなかったもののかなり厳しい職場であった。

次に渋谷にある外資系飲料メーカー。ここでは情報システム部門に配属された。わたしのようなアメリカの自由な風を受けてきたものにとってはつらい。年功序列、絶対服従、質問もしてはいけない、上に逆らってはいけない、頭の固いSEであるれていた。自分と気の合ったエンジニアが会社のゴルフの飲み会の席で𠮟責・罵倒されていた。彼は被害者として1年間会社を休職した。見舞いにも行ったことがある。加害者はなんの処分もうけていない。1990年代前半だった。わたしも相当に頭に血が上った。

そこではわたしに非があるのかどうか考えたこともあった。20歳以上も年の上の人になにか失礼なことをいったのだろうか。冷静に考えると質問をしてはいけないというような雰囲気だった。なにも教えてはくれない。俺たちの苦労はお前たちにはわからない。だまって仕事をしろというシグナルだった。これでは40人のSEもたまらないだろう。

コンサルティング会社に移ると個人の力量で勝負。年収も高いため失敗は許されない。家のローンも組んだためにクビになることはできない。そうなると弱みを見破られると上下左右関係なくボコボコになる。いくたびか部屋で他のコンサルタントと言葉による格闘をした。いまであったらそれは許されないことだろう。とにかく言葉がきついのだ。疲れているため容赦なくストレートにとんでくる。

身体的暴力はなかった。ただし精神的苦痛は残る。顧客が満足しなければだめなのである。まわりはすべて敵と考えてよい。少しでも失敗をすると総攻撃に会う。周りは冷たい。そんなところが外資系コンサルティング会社だ。

総合商社でも同じようなことは起きた。とにかく仕事が優先であり社内での競争がある。商社であるからして策士の集まりでもある。厳しい指摘は受けたが肉体的暴力はなかった。そのため外資系よりはやややさしいところかなと勘違いしたくらいだった。

反省としては総合商社ではもくもくと仕事をこなしたほうがいい。イエスマンになりきることだった。上司が絶対。これが三菱の掟であった。上司が間違っていても指摘はできない。そこがわたしがやりうるミスでもあった。アメリカで教育を受けた人には向かない職場だった。アメリカは上司に質問をする。そうするといい評価を得るところだった。

豊洲にあるIT企業内で働いたこともある。ハラスメントはひどかった。部の計らいで移動ができたが配属の上司がよく切れていた。それはお金儲けのためだった。そうなるとどうしていいかわからない。わたしは気の合ったカウンセラーとよく相談していた。カウンセラーによるとほとんどの日系企業は限界に来ているとのことだった。2000年後半だった。

金融、IT、コンサルティング、商社というのがわたしが企業勤務をしてきた流れである。どちらかというと年収の高いところでプレッシャーが大きい。そのため今でいうところのハラスメントなるものは多かった。

過去を振り返り訴えることはしないだろう。ただあそこまで荒れていると残念だった。精神的苦痛も受けたものだ。それがなぜなのかはよくわからない。一生懸命働いたつもりである。そうでないとそういった会社では働けない。自分にはどこか合わない職場もあった。

今日においてもハラスメントはなくならない。なくならないのなら被害者として訴えた方がいいのではないか。法テラスが相談に乗ってくれよう。社内の弁護士は相談には乗ってくれない。企業側に雇われているのだから。