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雪山遭難費用はだれが持つのか

30年前の今頃私の家族はジョージア州アトランタにいた。アメリカでも南部に位置するアトランタ。標高が高いところで知られている。といっても山がそれほどあるわけではない。たったひとつ巨大な一枚岩で観光客をひきつけるところがある。そこはクルマで西に40分。ストーンマウンテン国立公園。そこはよく子供を連れていったこともありそろそろ他のところにいきたい。そこで旅行代理店のひとに相談するとカナダのアルプスを紹介してくれた。

わたしたちはバンフから北上をするアイスフィールドパークウェイをクルマで走った。300キロにも伸びる道路。そのとりこになってしまった。景色が抜群にいい。時折見かける山脈と氷河の美しさにほれぼれした。こんなにきれいなところがあるのか。しかしどんなにきれいであっても氷河の上を歩いて登山をしようとは考えなかった。

あるオンラインイベントで雪山の遭難について話題にしてみた。フランス国境にあるモンブラン。そこは西ヨーロッパで最も高い山として知られている。その美しさと登山の魅力は多くのひとを引きつけている。その登山をする人の数は年間で3万人にのぼる。一方、危険な山としても知られており年間に100人くらいの入山者が亡くなるという。その中には登山用具を準備してない初心者もいる。

遭難した場合はヘリコプターで救助隊を派遣する。運が悪い時には死亡が確認される。その際お葬式を施すという。それらの費用がかなりかかっている。

そこである市長がなるべく素人が入山しないようにひとりあたり€15000預託金として課すというアイデアを提唱した。日本円にして230万円。その是非がフランス国内で議論されている。オンラインイベントイベントに参加したひとに賛成か反対かと質問してみた。

あるひとはいった。賛成する。登山には危険がつきものだ。しかも年間100人もの遭難者がいて死亡が確認されている。であれば登山者自らがその危険を承知すべき。230万円を預託するのは間違いではない。危険を避けて無事に下山をしたのであればそれで返金をする。それはもっともなことではないか。

別の人はいった。その案に賛成する。ヘリコプターを出して救難活動するには費用が発生する。費用はだれが支払っているのか。フランス国民であろう。登山をしないフランス国民もたくさんいる。その人たちの税金を使って遭難者、特に山登りに慣れていない人の救済費用を出すのはいかがなものか。ちょっとおかしい。個人が支払うべきであろう。

しかもひとり230万円で年間100人死亡であれば年間2億3千万かかるという計算が成り立つ。一日あたり64万円の税金を救助活動に使っていることになる。個人の責任でありフランス国民の税金から支払うべきものではない。確かにその通りであろう。

もうひとり別の人がいった。保険に加入すべきだ。しかしモンブランの遭難による死亡保険を売るような生命保険会社はないだろう。

ただ話はこれで終わらない。確かに一日64万円を税金から遭難費用として拠出することはおかしい。しかしフランス人の中にはこれにに反対している人がいる。特に他の市長が反対しているという。その理由はこうだ。

モンブランは市長の所有資産ではない。個人の資産である家や土地と同じような扱いにはならない。モンブランを所有しているのはだれなのか。モンブランのある地区の住民なのかそれともフランス国家なのか。だれの所有財産でだれが預託金を課すということを決めれるのか。決めれられないであろう。まずこういう反対意見がある。

またこの預託金が素人登山家を登山をしないようにする効果がどれほどあるのか。そこが不明であろう。確かに注意喚起にはなる。しかし好きな無謀人は危険を冒して登山をする。実際に26歳のイギリス人が登山をする服装をせずに遭難したではないか。救助隊が救助したとき彼の体温は25度だったという。遭難者は自分の誕生日にひとりで登山したかったという。

さて大学生の読者の皆さんはどうだろうか。ここまで読んでどのような感想を持ったであろうか。GWにちょっとクラスメートと話をしてみるといいだろう。ひょっとしたら富士山に外国人が登山をする。そして遭難したときに救助をする。そういった統計数字が公開されているかもしれない。ではその救助費用はだれが払っているのか。我々国民ではないのか。

カナダの山はとてもきれいだった。カルガリー空港からレンタカーでバンフについた。その日に山脈を見たくてロープウェイで上の方にいった。そのロープウェイにはスイスからの旅行客が乗り合わせていた。スイスにはりっぱな山があるではないか。わたしはそのように質問をした。ふたりの男性はこう答えた。

スイスの山はほとんどいった。なのでカナダのアルプスにきている。とにかく山が好きなんだ。わたしはこの会話を忘れたことがない。