見出し画像

気候変動と金融の安定性 Fed Notes Mar.19, 2021

Diana Hancock and Elizabeth K. Kiser, Climate Change and Financial Stability, Fed Notes Mar.19, 2021   2022年11月11日閲覧 抄訳

気候変動と金融の安定性
 金融の規制者、国際組織、市場参加者やその他の人々は、気候変化の金融部門と金融安定性にとっての含意を理解しようと近年相当な注意を払ってきた。気候変化が関連する金融リスクにミクロそしてマクロでも慎重な懸念が払われているが、分析と研究は初期段階にある。このNoteは、気候変化から生じるリスクがいかに金融安定性に影響しうるかを叙述し、この議論を、連邦準備の金融安定報告で述べられる金融安定を監視する枠組みについての議論と結び付けている。この枠組みでは、金融制度と経済にとってのショックと、ショックの否定的影響を増幅する、経済制度あるいは金融制度の背後にある不安定要因vulnerabilitiesとを区別している。我々はいかに気候に関連したリスクが、ショックとしてそして不安定要因として現れるか、そして気候変化に関連する衝撃の影響を増加させるかを叙述する。
    この分析は、気候変化に起因するリスクの金融安定性への衝撃を評価する方法を、これらのリスクの性質、程度、時期についての情報を改善して、提供する。気候に関連する金融安定リスクを叙述するアプローチは、Caneyで描かれた既存の国際的な分類学typologyに比べ、単純かつ広範だが、それを補足するものである。
 我々は三つの主要な結論を提供する。連邦準備の金融安定監視の枠組みは、多くの気候関連リスクの要素を広く統合するincorporateのに、十分弾力的である。第二に、われわれは気候変化は金融安定リスクを増やすと信じているが、これらのリスクを金融安定性監視と完全に統合するには、データとモデルにおける相当な改善を含め、さらに調査と分析が必要である。第三に、気候関連の金融リスク量(financial exposure)についての国内的国際的透明化努力は、気候変動に関連する金融安定性リスクの本質と範囲を明確にする助けになるであろう。

気候変動から金融リスクへ
 大きく言えば、気候変化は、地球の大洋、新鮮な空気、そして大気の性質における、通常の状態での変化をいうものである。これらの変化には多くの他の影響の中でも、例えば、地球の平均的温度、大規模な嵐の頻度と激しさ、そして大洋の水位あるいは酸性度における増加が含まれる。過去1世紀以上にわたり地球の気候がすでにかなり変わったこと、そして、人類がもたらすグリーンハウス(温室)ガスの排出が続くことで、将来の変化が予想されるべきだということには、強い科学的合意がある。二酸化炭素やメタンのようなグリーンハウスガスは、地表から反射される太陽熱の放出を妨げ地球の温度を上昇させる。これらのガスの集中が高いほど、気候への影響はより大きい。
 気候変化の傾向と原因について科学的合意があるにもかかわらず、将来の気候の結末については、正確な時点と程度は依然として不確かである。我々は気候リスクとして物理的結果が生じる、ありうる将来のこの範囲に言及する。研究者たちは、気候変化の速度を予測する、計量経済学のモデルの開発と精緻化を続けている。
 経済活動の放射とそれに伴う排出は、これらの気候リスクを把握する気候モデルへの入力であった。しかし1970年代のNordhaus(訳注 William Nordhausのこと、気候変動について研究を進めた経済学者)の初期の作業以来、成長する研究集団は、気候は経済と金融の結果に影響を及ぼすとの認識から、経済活動をこれらのモデルの出力として扱っている。これらの影響は、気候損害関数を通じて生じ、公衆の健康・労働生産性・農業産出量の悪化、死亡率の上昇、そして天候による資産の破壊に反映する。これらのマイナスの影響は、金融リスクに直接結果しうる。資産価値の再評価を急がせ、信用のコストあるいは入手しやすさを変化させ、あるいはキャッシュフローのタイミングや信頼性に影響する。また、経済活動に対するリスクを生み出しうるし、自身金融リスクを生み出し増加させうる。経済と金融のリスクは互いに増加しうる―例えば、天候による資産破壊は銀行の損失を導きうるし、より少ない貸付・投資の減少を導く(図1)。

    図1.気候、経済、金融リスクの間の様式化された関係
 気候リスク(例 自然災害の頻度と激しさの増加、海水面の上昇、温度の  
 変動性の増加) 
    ↓                  ↓
  経済活動へのリスク      ⇔  金融リスク
 (例 雇用、生産、サービス供給   (例 金融資産の価値、信用の
 の変動)              費用或いは入手可能性の変動)

 (中略) 
              表1 伝播経路の枠組みの例示(訳注 言葉を一部修正した)
 気候リスク → 経済リスク → 金融リスク → 金融不安定性リスク
 不動産の場合 
 海水面上昇 → 海岸部水没 → 海岸不動産の → 不動産貸付市場
                                                             価値減少     での突然の再評価
 保険の場合
 自然災害の  → 地域経済活動の → 保険料率上昇 → 無保険での
 頻度激しさ増加  中断        保険供給減少    損失増加
     (以下略)


main page: https://note.mu/hiroshifukumitsu  マガジン数は20。「マガジン」に入り「もっと見る」をクリック。mail : fukumitu アットマークseijo.ac.jp