US-China trade friction 米中貿易摩擦
米中の貿易摩擦は対中貿易赤字を問題視するトランプが大統領になったことで、2018年に発生した。トランプー米国が25%の関税をロボットや半導体合わせて500億ドルにかけると、中国も対抗して大豆や自動車など合わせて500億ドルに25%の関税をかけた(7-8月)。さらにトランプは液化天然ガスなど2000億ドル分には10%の関税をかけると発表、他方、中国も液化天然ガスなど600億ドルに対し10ないし5%の関税をかけるとした(9月)。これで米国は中国から輸入の半分に関税をかけた形。他方、中国は米国からの輸入のおよそ7割に関税をかけた形。
このあとトランプが2000億ドル分についての関税率を25%に引き上げると主張し、両国は再び緊張した。
2019年2月14日から15日 北京で閣僚級協議。翌週は米国で閣僚級協議。これらの協議をうけて2月24日、トランプ大統領は協議の進展(米国産LNGや大豆の1000万トン買い増し買上げで合意)があったとして3月2日に迫っていた関税引き上げ(2000億ドル分を10%から25%に引き上げ)の(1ケ月程度)延期を発表。これで米中摩擦の小康となるかは不明だが、この決定が市場に少し安ど感を広げたことは間違いない。
2019年2月20日に発表された米国の対中輸出は、中国経済の減速もあって前年同月比で17%余り大きく減少した。前月の減少幅7%だったので減さらに少幅は拡大した。米中摩擦が、世界経済の押し下げになるという懸念は高いところだ。ところで米中貿易摩擦は、貿易における輸入超過の是正だけでなく、いわゆるハイテク分野での中国の台頭を許さない、というもう一つの摩擦を伴っている。後者を象徴するのがファーウェイなど中国通信機器メーカー排除問題である。
このような中国企業の排除は、結果として、米国企業が築いた供給網(サプライチェーン)をくずして、米国内のインフレ率をあげてしまうという分析もある。米国と中国との貿易摩擦で米中間の貿易が縮小。中国の経済が減速すると、アジア各国の対中輸出も減速するとされる。また、米国市場向けの発注先を中国以外の国に移す動きも、対中輸出を減らす原因になるとされる。米中摩擦は、結果として米国にとって、インフレ率の上昇と経済減速につながることになる。それでも中国企業はなぜ排除されるべきなのか。
ファーウェイの問題で、日本政府は米国寄りの立場をとったが、世界各国の対応は分かれており、フランス、ポーランドなどが米国寄りの立場、ドイツは管理厳格化で対応、スロバキアは安全保障上の問題はないと言い切っている。注目されるのは英国の情報当局がファーウェイを5G網に導入しても安全保障上のリスクは管理可能と判断しているとの報道だ(2019年2月17日)。この英国の情報当局の判断の話は意味が深い。つまりもしそうだとすると、ファーウェイについて安全保障上の問題は口実であって、こうした分野での中国の優位を力を使って抑え込もうとする米国の意思を示していることになる。
他方で、米国政府だけでなく中国政府もそうなのだが、政府当局が安全保障を名目に個人情報を監視している問題もある。個人情報保護では、中国では個人の権利保護より、国家の安全や公共の利益を優先する国家管理的色彩が強いと指摘されていることも気になるところである。そのような法制に服している中国の通信機器メーカーに対して警戒感がないわけではない。
オーストラリアは米国のファーウェイ・ZTEなど中国通信機器排除の動きにいち早く呼応したが、これに対して中国は豪州産の石炭の通関手続きを遅延させその後、安全や品質を問題に無期限に禁止していることが明らかになった(2019年2月半ば)。オーストラリアにとって、中国は石炭や鉄鉱石などの輸出相手国。同様の問題はニュージランドとの間でも発生している。中国はニュージランドからのサケについて、同様の問題を生じさせているとのこと。こうした中国政府の対応も、中国への警戒感を掻き立てる。
中国がハイテク分野や中国で優位に立てば、米国にとって中国の安全保障の脅威は高まる。米国が中国の台頭に全面的に立ち向かっているのは、国家間の競争のロジックとしては当然かもしれない。また中国の台頭を阻止したいという考え方は、アジアの国々の間にも少なくはない。つまり中国と米国の覇権の争いではあるが、同時に中国が圧倒的なパワーをもつことへの警戒感は確かに根強いのだ。
こうした流れの中で、中国の経済システムを国家資本主義(state capitalism)として批判する議論がある。そこで焦点になっているのは、国家が企業に補助金を与えるなど、国家と企業が一体化している問題である。私の考え方は、中国共産党の指導のもとに、資本主義的なシステムが運営されていることにむしろ焦点を当てるべきだというもの。中国は共産党以外の政党が、政権政党になる可能性を否定した、一党独裁の政治制度のもとにある。このような政治制度のもとで、国家が特定企業を支援する関係が問題を拡大しやすいのだと考える。国家資本主義を生み出すのも、こうした独裁政治が関係している。つまり、中国という国の国家の在り方、一党独裁を強固に続けている中国の政治制度が、先進資本主義国のさまざまな政党が政権を争う民主主義的な政治制度と根本的に違うこと、こちらがむしろ問題視されねばならない。中国を国家資本主義だとして排除する議論は、中国の政治制度の問題の議論をさけており、問題の所在をアイマイにしているように思える。同様に国営企業のガバナンスに関する議論も、政治制度の問題に触れていない点では、同様の限界がある。
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