銀行と証券の収益状況 2017-18年度
(2020年6月5日追記) 写真は慈眼院入り口壁面の彫り物 2020年6月5日
銀行については、国内業務では、異次元金融緩和により金融費用は抑えられている。また国内の貸し出しは低い伸び率だが拡大を続けている。しかし国内有価証券投資は減少を続けている。この結果、国際業務の急拡大が起きている。しかし、国際業務では金融費用が高いため、利益を稼げていない。銀行は、店舗やATMの効率化の必要が指摘されるなか、国内業務の在り方についても思い切った変革が求められている。
証券会社については、その他手数料、トレーディング損益、金融収益が意外に大きいこと。そのなかでトレーディング損益が17-18年度続けて悪化を続け、2018年度大幅に悪化したこと。この収益悪化の理由の一つは異次元金融緩和による市場の流動性喪失にある。そうしたなか18年度は金融収益と引受売出手数料が、収益の下支えになったこと、金融費用の上昇が金融収益を圧迫していることがわかる。
銀行ビジネス
銀行は基本としては預かったお金(預金)を運用する業態である。まず現在の基本的な問題認識として、国内では吸収する預金に比べて貸出が伸びが低いことがある。国内有価証券投資は減少を続けている。そこで注目されるのが国際業務の急拡大である。国際業務では、円を外貨に転換すること(外貨を調達すること)が必要で、しかしその転換コスト(=調達コスト)が大きいので、残る利益は減る構造になっている。近年問題視されているのは、この外貨調達コストの上昇(国際業務における金融費用)である。銀行の収益を見ると国際業務はすでに半分近い。しかし金融費用が高いため、利益で見ると国際業務の比率はなお2割に届いていない。
資金利益内訳(全国銀行116行) 2017年度 単位億円 前年度比%
全店分 国内業務 国際業務
資金等運用収益 101,669 +3.7% 62,453 -6.4% 39,874 +24.8%
費用 29,958 +32.2% 3,848 -14.3% 26,767 +42.4%
資金利益 71,715 -4.9% 58,608 -5.8% 13,107 -0.3%
資料:全国銀行財務諸表分析(全国銀行協会)
主要勘定内訳(全国銀行116行) 2017年度 単位億円 前年度比%
全店分 国内業務 国際業務
預金 7,927,068 +3.1% 7,106,792 +3.3% 820,725 1.7%
譲渡性預金 519,795 -5.8% 305,282 -7.4% 214,512 -3.3%
貸出金 5,580,524 +1.2% 4,582,006 +1.9% 998,517 -2.0%
有価証券 2,164,271 -0.6% 1,602,727 -0.4% 561,543 -1.2%
資料:全国銀行財務諸表分析(全国銀行協会)
資金利益内訳(全国銀行115行) 2018年度 単位億円 前年度比%
全店分 国内業務 国際業務
資金等運用収益 115,059 +13.1% 62,380 -0.2% 53,045 +33.0%
費用 44,763 +49.4% 3,352 -13.0% 41,777 +56.1%
資金利益 70,301 -2.1% 59,032 +0.6% 11,269 -14.0%
資料:全国銀行財務諸表分析(全国銀行協会)
主要勘定内訳(全国銀行115行) 2018年度 単位億円 前年度比%
全店分 国内業務 国際業務
預金 8,207,496 +3.5% 7,316,582 +2.9% 890,913 +8.6%
譲渡性預金 542,458 +4.4% 286,815 -6.0% 255,643 +19.2%
貸出金 5,751,609 +3.0% 4,691,322 +2.3% 1,060,286 +6.2%
有価証券 2,107,105 -2.7% 1,484,020 -7.5% 623,084 +10.9%
資料:全国銀行財務諸表分析(全国銀行協会)
異次元金融緩和 マイナス金利が利ザヤを圧迫している。
貸出金利低い(2017年 金利0%台が6割) マイナス金利政策が影響
2013年4月 異次元緩和開始
2016年2月 マイナス金利導入
2016年9月 追加緩和
2017年7月 物価安定目標達成時期の先送り
不動産関連融資・中小企業の借り換えが主戦場
個人向け 主体は住宅ローン
利ザヤ現象を補うもの 後ろ向きだが意外に重要な戻り益
従来の貸し出しをやめることによる戻り益 貸し倒れ引当金 正常先なら0.1% 破綻懸念先なら60%・・・費用として収益を圧迫
貸出の減少→これまでの貸し出しをやめると、引当金となったはずのものが戻り益となり見かけの利益が増える。
株式・債券の売却益 外貨債は金利上昇で含み損となるリスク ドル調達コスト上昇と金利上昇リスクとに挟撃されている。早めの損切。(2017年度地銀レベルでは7割が債券売却損益で損失抱える。)なのか。
株式の売却による益出し。そのあとは? 同程度のリスク資産を増やすと 自己資本要求は変わらない。自己資本比率要求が小さいものに乗り換える。 自己資本比率規制(バーゼル規制):ストレス耐性を示すとされる。 国内銀行で4%以上 国際展開する銀行は8%以上。リスク資産が増えると積み増す。
店舗やATMの見直しが進んでいる。 ATMの維持コスト ATM1台あたり月に700万かかるとされるが、ネットバンキングへの移行・ATMの共同化で削減が課題。ネットバンキングへの移行でコンビニATMも含め平均利用件数は減少傾向→相互開放・共同化は不可避 3大メーカー割拠(日立、OKI, 富士通)が統合を阻んできたがようやく変化へ。
同様にネットバンキングへの移行で、店舗あたり来店客数はこの10年で3-4割減少したとされる。店舗・人員を再配置・配転で活用するのではなく、思い切って削減に踏み込むべきとの意見もおおい。また銀行業務の多くは(単純な作業の繰り返しであるので)RAP化で自動化=コンピューターによる置き替えが可能とされる。
証券ビジネス
証券会社の決算状況をみると、トレーディングの損益悪化が続いている。これは債券については異次元金融緩和のもとで、市場で流動性喪失をされる事態が起きたことが影響していると思われる。このトレーディングで損失を出しながらも、2017年度外国法人が営業収益を大幅に拡大したことが注目される。その原因は明らかに、委託・引受・募集・売出といった伝統的な手数料以外のその他手数料のところで、外国法人が儲けたことにある。国内の証券会社でも、このその他手数料の比率は半分を超えている。
このその他手数料には、投信の信託報酬、M&Aのアドバイスなど、多様なものが入っていると思われる。二上季代司「その他手数料について」
他方で、売買のシステムに参加して顧客を市場に仲介する証券会社サイドでは、情報開発投資が継続的に必要である。結果として、このような売買システムに絡んで手数料を稼いでも、投資負担も大きいので高い利益率はむつかしいだろう(信用取引も仲介して金融収益も得る。その他の取引もセットにして、投資を一括して請け負うことで収益を高めることが考えられる)。
証券業協会会員の決算概況(2017年度 259社)単位:億円 前年度比%
全社分 国内法人(249社) 外国法人(10社)
営業収益 41,333 +4.5% 40,767 +4.0% 566 +50.0%
受入手数料(a) 22,613 +6.0% 22,366 +5.8% 247 +13.5%
委託手数料 6,451 +15.5% 6,434 +15.4% 17 +61.8%
引受売出手数料 1,386 -16.7% 1,385 -16.7% 1 0%
募集売出手数料 3,323 +11.2% 3,323 +11.3% - - 98.2%
その他手数料(b) 11,453 +3.2% 11,164 +2.5% 229 +12.3%
b/a 50.6% 49.9% 92.7%
トレーデイング損益 10,048 -9.7% 10,054 -9.4% -6 -118.6%
金融収益 8,081 +24.0% 7,757 +21.4% 324 +151.3%
金融費用 4,922 +18.1% 4,696 +15.1% 226 +130.9%
営業損益 7,325 +2.2% 7,223 +1.9% 102 +31.6% 資料:会員の決算概況(日本証券業協会) 前年度比は算出した
証券業協会会員の決算概況(2018年度 260社)単位:億円 前年度比%
全社分 国内法人(250社) 外国法人(10社)
営業収益 37,273 -10% 36,600 -10% 612 +8%
受入手数料(a) 20,100 -11% 19,864 -11% 235 -5%
委託手数料 5,130 -20% 5,111 -21% 19 +17%
引受売出手数料 1,849 +33% 1,847 +33% 1 +5%
募集売出手数料 2,314 -30% 2,314 -30% 0 -
その他手数料(b) 10,806 -6% 10,591 -6% 214 -6%
b/a 53.8% 53.3% 91.1%
トレーデイング損益 7,441 -26% 7,433 -26% 7
金融収益 9,016 +12% 8,647 +11% 368 +14%
金融費用 5,872 +19% 5,570 +19% 301 +34%
営業損益 3,878 -47% 3,870 -47% 58 -42%
資料:会員の決算概況(日本証券業協会)
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