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中国思想・短編小説・歌曲選

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https://blog.goo.ne.jp/fu12345/e/7cc5e1ad373775c11668b88a748c64a6 中国的な考え方を知る手がかりを探しています。
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2020年4月の記事一覧

趙宏興「耳光」『長江文芸』2017年第12期

趙宏興(チャオ・ホンシン 1967- 安徽省合肥の人。この作家の細かな履歴は分からない。本作を自伝としてみれば、安徽省の貧しい農村出身かもしれない。なお合肥は安徽省の省都で、今では先端科学技術の都市との触れ込みで知られる。)の短編小説。両耳を両手で叩くことを「打耳光」という。子供の教育に望みをかける農民の気持ちが伝わる。この小説は最初に『長江文芸』2017年第12期に発表された。以下は《2018中国年度短編小説》灕江出版社2019,pp.81-95からこの。小説の要約である(

葉兆言「滞留于屋檐的雨滴」『江南』2017年第3期

 葉兆言(イェ・チャオヤン 1957- 南京出身。南京大学中文系在学中に執筆始める。多作で知られる。お母さんは演劇界で、またお爺さん(祖父)は教育界でそれぞれ活躍。)の短編小説(最初に『江南』2017年第3期に発表され《2017中國年度短篇小説》灕江出版社2018,pp.153-161に収められた。)。表題《滞留于屋檐的雨滴》は、屋根の庇(ひさし)を雨が潤す、といった意味であろう(写真は東京ドームシティにて)。  ときは1978年12月。北京で大事な三全会が開かれているとき

韓少功「搶手」『収穫』2016年第4期

 著者の韓少功は1953年1月湖南省生まれ。まさに文革世代でこの小説はその時の長沙での出来事を扱っていて経験談としても興味深い。『収穫』2016年第4期に掲載後、《2016中国年度短編小説》灕江出版社2017年,pp.236-237.搶手は射撃者程度の意味。   最初に、訳者の私たちの世代には懐かしいが、謄写版印刷でビラを作って街頭に張り出したという話がある。それは、14歳(1967年)の時だったとする(つまり「文化大革命」の時のお話しが語られる)。当時、印鑑の偽造を行った

過士行「説吧」『花城』2015年第4期

著者の过士行は1952年北京生まれの劇作家である。そのせいか、本作は演劇の台本のようにも思える。読み手に考えさせることが多く、全てを説明していない。多くの小説が一生懸命に、舞台を説明するのだが、そうではなくとところどころに何でそうなるのか?という疑問が残る部分をあえて残して、読み手に想像させようとしている。過士行《説吧》は『花城』2015年第4期に掲載、その後《2015中國短篇小説年選》花城出版社2016年,pp.64-71などに転載された。 「説吧」は「話しなさい」「話して

曉蘇「三個乞丐」『天涯』2015年第2期

 曉蘇(シアオ・スウ)は1961年生まれの華中師範大学文学院教授。本作は構成内容とも計算されていて面白い。この小説はまず『天涯』2015年第2期に掲載され、その後《2015中國短篇小説年選》花城出版社2016年、pp.181-194などに転載されている。 三个乞丐とは3人の乞食という意味。中国を旅行していると、物乞いをする人に出会う。そして毛沢東にかこつけた飲食店にも出会う。この小説は、それらを素材としながら、全体としては軽いお話しにしていて巧みである。 場面は油菜

曉蘇「傳染記」『天涯』2014年第2期

著者の晓苏 シアオ・スーは1979年に武漢にある華中師範大学中文系に入学。生年は大学のサイトでみると1962年1月10日。しかし農歴の1961年12月15日で通しているところにこの人の主張を感じる。卒業後、一貫して同大学で教鞭をとりつつ、創作もしてきた。この作品は、伝染病の深刻な話かと思ったが、そうではなく、気軽な笑いの話にしている。貨紹俊主編《2014中國短篇小説排行榜》百花洲文藝出版社2015年, pp.90-103(原載『天涯』2014年第2期)  養豚場を営んでいる

艾偉「小説兩題」『上海文学』2013年第7期

 艾偉《小説兩題》載《中國當代文學經典必讀 2013短篇小説卷》百花洲文藝出版社2014,pp.26-48(原載『上海文学』2013年第7期)の要約 著者の艾伟アイ・ウェイは1966年生まれ。浙江省の人。重慶で都市建築を学んだ(写真は水道橋より御茶ノ水方面望む。左手は都立工芸高校校舎。水景は神田川。)。  この小説は子供の時の思い出から始まる。李小強(リー・シアオチアン)といういたずら坊主が、喻軍(ユー・チュン)という友達との物の取り合いの果てに道端の生石灰(しょうせっか