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過士行「説吧」『花城』2015年第4期

著者の过士行は1952年北京生まれの劇作家である。そのせいか、本作は演劇の台本のようにも思える。読み手に考えさせることが多く、全てを説明していない。多くの小説が一生懸命に、舞台を説明するのだが、そうではなくとところどころに何でそうなるのか?という疑問が残る部分をあえて残して、読み手に想像させようとしている。過士行《説吧》は『花城』2015年第4期に掲載、その後《2015中國短篇小説年選》花城出版社2016年,pp.64-71などに転載された。 「説吧」は「話しなさい」「話してごらん」程度の意味。

 秋生が3歳になるころ、どうもこの子はしゃべれないと周囲は気づいた。秋生のお父さんが亡くなる前、秋生が(小学校に)進学できるかがもっとも心配したことだった。お母さんは聾唖学校に通わせるしかないかという。秋生には15歳、歳の離れた長兄(大哥)がいて、秋生が進学する前の年に結婚した。秋生はお兄さんが家を出るのが、うれしくなかった。お兄さんのお嫁さん(嫂嫂)は若いけど、秋生の進学を気にして、秋生に話をさせようとしていた。
 このとき、お兄さんは工場の革命委員会の指示で学習班に入り、工場内で寝泊まりすることになった。お兄さんもお嫁さんもほとんど、家にこなくなった。そうするうちに端午の節句がやってきて、お母さんはちまき(粽子)を蒸して、秋生にお嫁さんに届けるように指示した。
 (で届けに行ったところで、秋生が訪ねドアを開けようとすると、ドアはチェーンがかかっており、お嫁さんは誰か男の人といた。お兄さんではない誰か。はっきりしていることはお嫁さんは、なぜか泣いていた。秋生は、粽をドアの前に置くと、近くの一本の木に登り、お兄さんの部屋を覗こうとした。このとき秋生は、お嫁さんの裸姿を一瞬見た。秋生は木に登る前に、お兄さんの家がある建物の前にとめてあった、自転車からベルの蓋をイタズラで外しており、木に登っていることが見つかると、街灯の明かりをその蓋で壊して逃げた。各街灯の下には自転車があり、ベルの蓋が光っていた。彼はベルの蓋を取ると、街灯を壊して進み、一帯の街灯はすべて壊されて、胡同は暗闇に包まれた。)
 その後、お嫁さんの住んでる胡同では居住者委員会が住民を集めて、公共財産破壊に注意する闘争が行われた。そこで分かったことは、一帯の街灯がこわされたほか、自転車のベルの蓋7個がなくなっていたことだ。

 中秋節の前になったとき、お兄さんが工場から解放されて、帰ってきた。お母さんは料理を作り、お兄さんにビールを勧め、英雄という煙草をひと箱買って差し出した。ただお嫁さんは、いつも咳をしているお兄さんに、煙草は反対だという。すると、おかあさんは、「そうであっちゃいけないことが多すぎて。あなたに止めることはできるの?」と言った、すると嫁さんはたちまち顔を真っ赤にした。で家族は、秋生に食べさせながら、お兄さんの住んでる胡同で起きた街灯破損事件について話し出した。子供がやったという話があると、お兄さんは話す。そのあとのことだが、眠る前になってお兄さんは秋生がなにか隠す様子なのに気が付く。秋生は固まって動かなかったが、お兄さんは秋生の後ろの靴の箱になかに、自転車のベルの蓋7個を見つけた。咄嗟にお兄さんは秋生を平手でたたき、秋生はうなり声をあげた。「お前の代わりに処理してやる!さもないとお前は派出所ゆきだから」お兄さんは、蓋をかばんに入れるとお嫁さんとともにでていった。

 やがて9月の開学前、お嫁さんに連れられて秋生は学校の面接に行く。学校の先生はしゃべれないなら、聾唖学校に行ってもらうしかないといった。ところがおどろくことに秋生が普通に話し出した。先生は上機嫌になり、入学手続きは順調に終わった。
 そのあとお嫁さんは秋生を誘って百貨店にゆき、ベルト、カバン、鉛筆、消しゴムを買い与える。そのあと二人で散歩しながら、お嫁さんは秋生に聞いた。「あなたが街灯をこわしたの?」「一体あなたは何を見たの?」。ただ秋生は答えない。お嫁さんに逆に質問する。「僕のお兄さん好き?」お嫁さんはうなづくと秋生に聞く。「あなたは?」秋生はうなづく。二人は景山公園の東門に至った。秋生はお腹が減ったので帰りたいといったが、お嫁さんは山の上で遊びましょうといって譲らない。疲れたというと、秋生を背負って山中を進んでゆく。
 やがてお嫁さんはいう「あなたは私に死ねっていうの?」。秋生「ならどうすればいいの?」「刺せばいいのよ」。秋生「降ろして」「降ろさないわ」。秋生「僕を山の上に置き去りにするんじゃないよね」「誰が?」。秋生「落ちて死んだりするかな?」「これだけ高いからそれはあるかもね」。太陽は沈み始めあたりは暗くなり始めた。

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