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タバコ/喫煙 激変した平成の時代

平成の30年余りのうち28年会社で働いていた。平成3年に入社して今年3月に退職した。まさに平成のサラリーマン生活だった。その年月で変わったなと思うことは色々ある。入社した当時パソコンなど持っている人は稀で職場でも使う人は限られていた。電子メールというものはまだほんの一部の人しかその存在を知らなかったと思う。そんな中で職場の環境で最も変わったなと思うのが喫煙に対する考えだ。今では職場でタバコを吸う人はいない。タバコを吸うなら決まった閉空間で排気ファンがうなる狭い黄色くなった囲い部屋に行かなくてはならない。今のそんな環境を平成の始め頃誰が想像しただろうか。

職場では管理職と組合員が定期的な会議を催す。業務の計画や残業の報告、職場環境の改善などが議題となる。入社1年目か2年目のときその組合員のいわば代表としてのお鉢が回ってきた。当時恐れを知らず謙遜の美徳を持ち合わせていなかった自分は職場でのタバコ、喫煙の害を会議の席で持ち出した。当時会議室はおろか普通の職場でも誰彼となくタバコを吸っているのは普通の光景だった。白い煙が立ち込め向こうの誰かを目で追うと霞む様なシーンが思い出される。喘息持ちの自分にはこれはタマラナイ。なんとかやめてほしい。そう思ってその定期会議の席で職場環境の改善を主張したのである。受動喫煙という言葉も一般的ではなかった時代。シラッアとした空気が会議室を包んだ。入社間もない訳のわからん若造が偉そうなことを言いよる。そんな雰囲気だったと思う。唯一救いだったのは一人年配の主任がタバコを吸わない人に対して何らかの配慮は必要だろうな、今後考えてみる必要はある。そうフォローしてくれたことだ。しかし、そんな考えは当時一部の人の意見で喫煙者が跋扈していた時代だった。煙にむせて堪らず窓を開けると寒いから閉めろとタバコを吸いながら怒鳴られたこともある。今では考えられないかも知れない。しかし当時はそんなことが普通だった。これは自分が勤めた職場だけのことではない。例えば、1970年代の映画などは特にそうだ。旅客機のコックピットでパイロットが葉巻をくわえながら操縦桿を握っているシーンなんかがあるのだ。実際10代の頃はタバコを吸うのがカッコいいから許されていない喫煙をする友人もいることはいた。

ところが時代はゆっくりと確実に変わって来た。職場もそうだが公共の場でも同様だった。飛行機の機内や新幹線の車内の座席の変化が印象的だった。段々と禁煙席が増えた。早い時代の変化に設備がついて行かずに吸い殻ポケットが残ったままの座席が不釣り合いに見えた禁煙席。いったん時代の流れが傾くと変化は加速していく。今では公共の場に限らず一般家庭でも喫煙者は肩身の狭い思いをしている様だ。夜住宅街を歩くと道で立ちすくんでいる人がいて一瞬ギョッとすることがある。大抵は家の前でタバコを吸っている人だ。家の中で吸うことが許されていないのだろう。かつて職場の人に聞いたことがある。住んでいるマンションではタバコを部屋の中で吸うのは家族から許してもらえないのでベランダで吸っていると。寒い冬の季節は堪らないそうだ。まあそれでも吸いたいらしいのだが。


平成という時代の中で喫煙に対する扱いや考え方は他に例を見ないほどの激変ぶりだった。今振り返ってみても安全や健康という錦の旗があったにしても平成初期に比べてみたら何か喫煙者に対するイジメみたいなものすら今の時代に感じてしまう。個人的には有り難いことではあるが勤め始めた頃の周囲と自分との意識の隔たりを思い返すと素直には喜べない釈然としないものを感じる。それが何かは今はまだ分からない。もしかしたらタバコを憎みながらも喫煙者を心の底ではほんの少し羨ましいと思っていた自分がいるのかも知れない。


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