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長崎気まぐれ案内 その12 ーサ行の発音

長崎の方言で印象に残る出来事がある。

会社に入社したときまず東京で会社全体の入社式があった。2日程度の日程だったと思う。その後各任地にそれぞれ散っていく。東京から長崎へ赴任するその年の同期は100人足らずの結構な大所帯だった。当時日航の123便羽田発伊丹行きの悲劇がまだ生々しく社内規定で集団で同じフライトに同乗するのは見合わされていた。ということで当然任地への道中は陸路になる。東京駅から博多駅まで新幹線、そこからは長崎本線を特急かもめに揺られながらの西へ西への旅は丸一日の電車旅だった。まだ新幹線にはのぞみなどない時代である。ひかりしかなかった。

長崎駅に着いたのは夜7時過ぎ。そこから会社が手配したバスに乗ってそのまま会社の独身寮に収容された。寮に着いたら即入寮式である。

寮長の挨拶があった。

「皆しゃん、お疲れしゃまです。」

一瞬耳を疑った。ここはどこだ!?いったい俺は今どこに流れ着いたのか。東京から西へ西へとこれでもかこれでもかと西の果てまで来た長崎とはどんなところだ??

共に卒業した大学の同期の面々が関西や関東の任地にそれぞれ向かう中独り最果ての地長崎を選んだ自分。長崎とはいったいどんなところなのだ??一瞬人生の選択を間違えたのかと疑った。

その後地元の人から聞いた。サ行の発音を

サシスセソ

ではなく

シャシシュシェショ

となるのは長崎の方言で年配の方によく使われるという。実際に喋ってみると発音し易く癖になるそうだ。

自分も試しにやってみて癖になるというのはなんとなく理解出来た。

独身寮の寮長は代々現場出身の方がなる慣しだそうで面倒見の良い人だった。

人の話し言葉がこれほどインパクトを持って自分を一瞬で打ちのめしたのは後にも先にもこのときが初めてで最後である。(多分)

今思い出しても懐かしい。これに限らず長崎の方言は住み馴れていくと愛しいものに変わってゆく。親しみのある馴染みのあるものへと変わっていく。

テレビの普及故だろうか。今では年配の人でもサ行の発音は標準語を使う人しかいない。どこかにてらいもなく躊躇なくシャシシュシェショと喋る人はいないのだろうか。方言も時代と共に流行り廃りがあるのだなとつくづく思う。

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