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【ショートショート】開かない窓はない

朝起きて窓を開けてベランダに出ようとしたが、窓が開かない。何かに引っかかっているのか、固くてどうしようもなかった。

部屋側を確認したが何も挟まっていなかった。ベランダ側を確認しようとしてギョッとした。
缶コーヒーくらいの大きさの小人が小さな金棒かなぼうみたいなものを窓のレールに差し込んでいるのだ。見間違えかと思って瞬きまばたきを何回かしたが、やっぱりいる。小さいが全くかわいくない。ヒゲオヤジにグレーの着ぐるみを着せて小さくしたような感じ。
すごくイライラした。

「ちょっと、お前、何やってるんだよ」
「見ての通りだが」

小人は人間の言葉が話せるようだ。

「見て分からないから聞いてるんだよ」
「私の大事な金棒をこの窓のレールに差し込んでいるのだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「あーごめん、何でそんなことをしているか聞きたい」
「聞けば何でも教えてもらえると思っているのか」
「別に思ってない。教えろと思っている」
「貴様、さては暴君タイプだな」
「知らんけど!小人ならせめて俺がどんな人間か調べてから来い。ウチの窓に変な金棒を差し込むんじゃない」
「そうはいかない。私は金棒を差し込みに来たのだ」
「だから何でだよ!」
「教えない!」
「…どうすれば教えてもらえますか?」
「ほう、口の聞き方を知らないわけではないようだな。いいだろう。教えてやる。実はな、金棒を差し込むのが私の仕事なのだ」
「…そんな仕事やめてしまえ。目的は何なんだよ」
「人の仕事に口出しするんじゃない!何様だ、貴様!」
「怒るなよ。ちょっと立ち止まって考えてみてくれないか。何で窓のレールに金棒を差し込むんだ。そんなことして誰の役に立つんだ?誰のためにもならないことは仕事じゃないと俺は思うね」
「確かにな。だが金棒を差し込むことには意味がある」
「どんな?」
「何でも教えてもらえると思うなよ」

ドン!

窓に向かって掌底が出た。窓の近くにいた小人は衝撃で飛んでいった。小人が戻ってきて言った。

「暴君め、後悔するといい!」

小人は捨て台詞を残していなくなった。
窓のレールには小人の金棒が挟まったままだ。
俺は力任せに窓をスライドさせた。
ボキッという音がして金棒が折れて窓が開いた。外の新鮮な空気が入ってくる。
後悔なんかするか。何だったんだ、あの小人は。

俺はベランダに出て金棒の破片を拾い上げた。金棒だと思っていたものは金棒ではなかった。恩師にもらった大切な万年筆だった。
俺は泣くほど後悔した。

(1000文字)

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