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色とりどりのメシの種

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不思議な種を食べて依頼人の悩みを解決する少年の物語です。創作大賞2024の参加作品です。
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色とりどりのメシの種【第五話】 #創作大賞2024

色とりどりのメシの種【第五話】 #創作大賞2024

金魚鉢に金魚が二匹、まだ仲良く泳いでいる。

去年の縁日であの人と金魚すくいをした。
私は失敗したけれど、あの人は二匹取れた。

「金魚すくい取れたの、俺、初めてだ!」

あの人は大はしゃぎで金魚鉢を買ってきて、毎日、甲斐甲斐しく金魚の世話をしていた。

「そんなに金魚好きなの?」と、私が思わず聞くと、あの人は「だってアケミと取った金魚だし」と言って笑った。

そのくせ今は、私のそばにいない。

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色とりどりのメシの種【第四話】#創作大賞2024

色とりどりのメシの種【第四話】#創作大賞2024

白い靴を履いて、サトシがヨチヨチ歩きをできるようになった日。嬉しくて私はあなたに電話した。
あなたはいつも忙しくて、私からかける電話には出てくれないけど。

……やっぱり出てくれない。

諦めて電話を切った。
ヨチヨチ歩きをするサトシの笑顔。
早くお父さんにも見てもらいたいよね。

数時間後、思いがけずあなたは帰ってきてくれた。
でも、帰ってきてくれない方がよかったのかもしれない。そしてあなたが考

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色とりどりのメシの種【第三話】 #創作大賞2024

色とりどりのメシの種【第三話】 #創作大賞2024

「風薫る、いい季節になったね」

買い出しの帰り道、ユイが言った。

「そうだねって、兄ちゃんは言えないよ。ユイ、お前いくつなんだよ」

「知らないの?十二歳。小学六年生です」

「いや、知ってるけど。発言が風流過ぎるんだよ」

「いろいろあったもの。経験が人を作るのよ」

「そうですか」

束の間の、穏やかな時間。
生活が落ち着いたら祖父母の家を出て、ユイと二人、穏やかに暮らしたい。
今の望みは

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色とりどりのメシの種【第二話】 #創作大賞2024

色とりどりのメシの種【第二話】 #創作大賞2024

子供の日って子供が働く日だったっけ。
むなしい自問自答。

俺は一緒に行きたいというユイに留守番を命じて、ひとりで放火魔の両親の家に向かった。
少し緊張してインターフォンを押す。

「はーい」

「あ、すみません、『何でもヘルプ屋マツダ』です」

「あ、はーい」

優しそうな女の人の声で安心した。
玄関のドアが開いて60代くらいの女性が出てきた。
マツダに言われた通り、挨拶をする。

「こんにちは

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色とりどりのメシの種【第一話】 #創作大賞2024

色とりどりのメシの種【第一話】 #創作大賞2024

【第一話】メシの種との出会い

腹が減ったら飯を食べる。至極当然のことだ。
その飯は誰が用意してくれるか。
未成年の子供の場合は、お母さん。お父さんが用意してくれる家も多いだろう。
でも、これは当たり前のことではないと知っている。

ウチの場合、ばあちゃんが飯を用意してくれていた。
俺達には両親がいない。生きているか死んでいるかも分からない。ある日、目の前からいなくなってしまったのだ。
だから、じ

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