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スペイン風邪とファウチ博士の論文: The Journal of Infectious Diseasesに掲載された論文から

スペイン風邪は、今から100年ほど前の1918年から1920年にかけて全世界的に大流行したH1N1亜型インフルエンザの通称です。当時の世界人口18億-19億の27%である約5億人が感染したと言われています。初期にスペインから感染拡大の情報がもたらされたため「スペイン風邪」と呼ばれましたが、現状の歴史的、疫学的データからはスペイン風邪の地理的起源は特定できていません。死亡者数は5,000万-1億人以上と推定されており、人類史上で最も死者を出したパンデミックのひとつです。画像はwikipedia/スペインかぜのものです。

スペイン風邪の病原体は、A型インフルエンザウイルス (H1N1亜型) だったという事が分かっています。ただし、当時はまだ今のような実験技術が十分には確立されておらず、また実験動物であるマウスやウサギに対しては病原性を示さなかった事から、その病原体の正体は長らく不明のままでした。ヒトのインフルエンザウイルスの病原性については、1933年にフェレットを用いた実験で証明されました。その後スペイン風邪流行時に採取された患者血清中にこのウイルスに対する抗体が存在する事が判明したため、この1930年頃に流行していたものと類似のインフルエンザウイルスがスペイン風邪の病原体であると推定されました。その後、1997年8月にアメリカ合衆国アラスカ州の永久凍土でヨハン・フルティンにより発掘された4遺体から肺組織検体が採取され、ウイルスゲノムが解析された事によって、ようやくそのインフルエンザウイルスの遺伝子配列が明らかとなりました。

では、当時なぜこれ程たくさんの方が犠牲になったのでしょうか。インフルエンザウイルス自体が強毒性だった事も推測されますが、必ずしもそれが原因とは限りません。直接の死因が別にあった可能性が示唆されています。


以下、The Journal of Infectious Diseases誌に掲載された論文の紹介です。これは現在のコロナ感染対策を主導しているアンソニー・ファウチ博士のグループによる研究です。

Predominant role of bacterial pneumonia as a cause of death in pandemic influenza: implications for pandemic influenza preparedness.
Morens DM, Taubenberger JK, Fauci AS.
J Infect Dis. 2008
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18710327/
パンデミックインフルエンザにおける死因としての細菌性肺炎の重要性:パンデミックインフルエンザ対策への影響
背景:過去120年間に発生した4つのパンデミックに関する発表データが入手可能であるにもかかわらず、インフルエンザのパンデミックに関連する死因に関する最新の情報はほとんどない。
方法:抗生物質が使用される前の時代に発生した最新のインフルエンザパンデミック、1918-1919年の「スペイン風邪」パンデミックの関連情報を調べた。58件の剖検で得られた肺組織の切片を調べ、8398件の個別剖検を記述した109件の発表された剖検シリーズの病理学的および細菌学的データを検討した。
結果:1918-1919年にインフルエンザで死亡した人の死後サンプルを調べたところ、一様に細菌性肺炎を示す重度の変化が見られた。発表された一連の剖検から得られた細菌学的および組織学的な結果は、インフルエンザによる死亡者のほとんどが、一般的な上気道系細菌による二次的な細菌性肺炎である事を明確かつ一貫して示していた。
結論:1918-1919年のインフルエンザパンデミックにおける死亡者の大部分は、一般的な上気道細菌による二次的な細菌性肺炎に直接起因していたと考えられる。その後の1957年と1968年のパンデミックのデータは、これらの結果と一致している。重症のパンデミックインフルエンザが、主にウイルスと細菌の共病の問題であるとすれば、パンデミック計画は、ウイルスの原因だけに対処するのではなく (例えば、インフルエンザワクチンや抗ウイルス剤)、さらに進んだものにする必要がある。また、二次的な細菌性肺炎の予防、診断、予防処置、治療、さらには抗生物質や細菌性ワクチンの備蓄も、パンデミック計画の高い優先度を持つべきである。


このパンデミックでは年齢別死亡率が「W字型」になっており、幼児、20~40歳代、高齢者にピークが見られました。ハイリスクの3つの年齢層における致死率の高さは、気管支肺炎の頻度が高い事によるものです。

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図1. 1918-1919年のインフルエンザパンデミックの犠牲者4名の死後肺切片のヘマトキシリン・エオジン染色例。A 気管支に好中球が経時的に浸潤し、周囲の肺胞の空隙にも好中球が充満している、重症で広範囲に及ぶ細菌性気管支肺炎の典型的な像 (40倍拡大像)。B Aと同様の細菌性気管支肺炎に伴う肺胞の空隙に好中球が大量に浸潤している (200倍拡大像)。C 肺胞内の浮腫と出血を伴う気管支肺炎。浮腫液とマクロファージの細胞質の両方に多数の細菌が見られる (400倍拡大像)。D 肺の修復が認められる気管支肺炎。肺胞上皮は過形成で、肺胞間には間質性の線維化が見られる (200倍拡大像)。


残されていたスペイン風邪の犠牲者の肺組織の検体を調べたところ、事実上すべての症例で、重症の急性細菌性肺炎が組織学的に証明されました。上の画像は犠牲者の肺組織の組織学的検査です (図1)。

細菌は検体の組織切片中にしばしば大量に見られ、上気道にコロニーを形成するよく知られた細菌「肺病原菌」(主に肺炎球菌、連鎖球菌、ブドウ球菌) による重度の二次的な肺炎が死亡原因であるという点でほぼ一致していました。この二次的な細菌性肺炎がなければ、ほとんどの患者は回復していただろうと見られています。

スペイン風邪による肺炎死亡者の特徴は、1) 標準的な細菌性肺炎菌による二次的な肺炎の発生率が高い事、2) 混合肺炎菌 (特に肺炎球菌と連鎖球菌) 及びその他の混合上気道菌による肺炎の発生率が高い事、3) 細菌の肺への侵襲は積極的で、しばしば「驚異的」な数の細菌や多核好中球、さらには広範な壊死、血管炎、出血を引き起こす事、4) 気管支肺炎や小葉性肺炎が多く、気管支のびまん性素因による損傷と一致する事、です。

破壊された気管支上皮に沿って膨大な数の細菌が気管支のあらゆる部分に二次的に広がり、その後局所的な気管支の感染が肺実質に侵入したと考えられます。逆に、重篤な肺炎から治癒した60%の人々の間では、深刻な慢性肺障害は滅多に起こっていません。

スペイン風邪大流行時の剖検における96件の肺の細菌培養の結果では92.7%から菌が検出されました。検出された菌は肺炎連鎖球菌、ブドウ球菌、髄膜内ディプロコッカスなどです。1887人の被験者を対象とした血液サンプルの培養では70.3%の症例で細菌培養が陽性で、同様の細菌が検出されました。

表3. 大半の死亡原因はウイルス性肺炎ではなく細菌性肺炎であるという結論と一致する、1918年から1919年にかけてのインフルエンザパンデミックにおける証拠のまとめ。
根拠
1) 病理学的証拠
• ほとんどの剖検で、一般的な上部呼吸器系の細菌による重症の細菌性肺炎が認められた。
• タイプ、パターン、症例死亡率において、慢性肺葉性肺炎を含むインフルエンザに関連した細菌性肺炎は、インフルエンザが流行していない時期の典型的な肺炎であったびまん性の「汎肺胞炎」を伴う気管支肺炎が多かった。
• 剖検では、現在ではウイルスの一次変化と考えられているものが早期に、あるいは広範囲に修復されている事が明らかであり、肺炎生存者の重篤な後遺症は最小限であった。
• 1918-1919年のインフルエンザに伴う細菌性気管支肺炎の病理学的像は、より致死率の高い麻疹-細菌性肺炎と酷似していた。
• 1917-1918年に流行した麻疹-細菌性気管支肺炎に酷似していた。
• 混合肺炎は単一病原体肺炎よりも致死率が高かった。
• 肺炎症例は、一様にびまん性の広範な気管支炎および/または気管支炎を示し、その重症度は肺炎の重症度と程度および解剖学的な部位で相関していた。

2) 人口統計学的および疫学的証拠
• ほとんどのインフルエンザ症例は、今日見られる典型的な症例であり、軽症で合併症を伴わず、完全に回復した。
• 全年齢における死亡率は、インフルエンザ罹患率や肺炎症例死亡率ではなく、細菌性肺炎罹患率と関連していた。
• 1918年から1919年の5歳から15歳の子供は、発病率は最も高いが、死亡率は最も低く、1889年から1893年および1918年から1919年のパンデミックの前後に見られた低い発病率と同様であり、これはウイルスの毒性だけでは考えられない。
• インフルエンザ関連肺炎の罹患率とインフルエンザによる死亡率は、細菌の "コロニー化流行 "を経験した米軍キャンプで有意に高かった。
• 最終的に死亡した症例におけるインフルエンザ発症から肺炎発症までの平均期間 (10日)は、ウイルス性肺炎よりも細菌性肺炎の方が一致する可能性がある。

3) 治療反応の証拠
• 合併症を伴わないインフルエンザの発症初期に厳格なベッドレストを行うと、肺炎や死亡を防ぐ事ができるという、ほぼ世界共通の観察結果がある。
• 肺炎と死亡を防ぐというほぼ共通の観察結果は、細菌性病原体の保菌者からの隔離の効果と一致している。


1890年から1950年までの間、ほとんどの研究者は「致死性インフルエンザは、病原性の低いウイルスが既知の肺病原性細菌と相乗的に作用する多菌感染症である」と考えていました。実際、アカゲザルではヒトのインフルエンザウイルスを鼻腔内に投与しても病原性はありませんでしたが、病原性のない細菌を鼻腔内に追加で投与する事で病原性を持たせる事ができました。

インフルエンザウイルスと細菌の複合感染が病原性に影響を及ぼすメカニズムには、ウイルスの神経アミニダーゼ (NA) による細菌の接着受容体の露出、細菌のNAによるインフルエンザ感染の上昇、インターロイキン10による肺炎球菌やおそらくブドウ球菌への感受性の誘導などが含まれます。気管支とその上皮細胞に対して毒性を示すウイルスが呼吸器系に侵入し、上皮を損傷させて粘膜繊毛のバリアーを破壊すれば、細菌の拡散と増殖に有利な環境を作り出す事ができます。

何故このパンデミックでは5,000万-1億人以上もの人が亡くなったのでしょうか。死因には多くの異なる細菌が含まれており、特定の一種類の病原性細菌が原因であったというわけではないようです。

ここで重要なのは、スペイン風邪のパンデミックは時系列的には抗生物質の発見以前だったという事です。抗生物質の発見は1928年。アレクサンダー・フレミングがアオカビから見つけたペニシリンが世界で最初に発見された抗生物質です。ペニシリンの発見から実用化までの間には10年もの歳月を要したものの、いったん実用化されたのちはストレプトマイシンなどの抗生物質を用いた抗菌薬が次々と開発され、人類の医療に革命をもたらしました。

インフルエンザに関連したウイルス性肺炎のうち、パンデミックのピーク時でさえ、細菌への感染がない場合には致命的になる確率は低くなります。ウイルスによって引き起こされた重度の組織損傷であっても、細菌への感染さえなければ修復され、回復する事は多いのです。論文中でファウチ博士は「スペイン風邪のインフルエンザウイルスは、実は弱毒性だったのではないか。もし当時、抗生物質の投与や集中治療を含む早期の積極的な治療があればほとんどの患者を救う事ができたのではないか。」と考察しています。


ではなぜファウチ博士は、今回のコロナパンデミックの感染対策にこの貴重な研究の教訓を生かさなかったのでしょうか。そして、全世界の人類に対して安全性の保証されていない治験中のワクチン「のみ」に頼るような事態を起こさせているのでしょうか。

ウイルスによるパンデミックでは重症化、死因には少なくとも3つの要素が絡み合うでしょう。1) ウイルスの毒性、2) 免疫系の制御や暴走、3) 細菌への二次感染症、です。ウイルスによる呼吸器系の損傷が細菌の侵入と増殖を促します。免疫系細胞の枯渇や免疫系の暴走が本来の免疫系の防御力を落とし、細菌への感染症を招きます。このように、ウイルス感染、免疫系、細菌感染は独立したものではなく、お互いに干渉しあっています。

イベルメクチン、ヒドロキシクロロキンを含めた既存の薬を使った新型コロナ感染症への効果の検証も進んでいるようです。コロナウイルス対策には、人体への危険性が高いワクチンを打つ事しかないという考えではなく、治療薬を含めた早期の治療が何よりも重要でしょう。

現在、世界的に新型コロナウイルスがパンデミックを起こしているわけですが、PCR検査の偽陽性の多さを考えると、そもそもPCR陽性患者の全員が新型コロナウイルスに感染しているわけではないでしょう。そしてPCR陽性の中にはコロナウイルスのために重症化している方もあれば、他の原因で重症化している人もいる事が考えられます。呼吸器系に症状を起こす要因には他のウイルスや細菌、化学物質や物理刺激も存在します。スペイン風邪の致命傷の原因が実は細菌であったように、治療のためにもより幅広い視野が必要と思います。



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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。


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