🛎️考えるドラばな❸〜「ドラえもんだらけ」で見えてくる時間哲学〜本当の私は誰なのか

　初期のドラえもんの作品の中で、ナンセンスギャグの傑作と呼ばれているのが「ドラえもんだらけ」だ。

　ストーリーを要約するとこうだ。ある日の夜、ドラえもんはのび太からどら焼きをご馳走される代わりに、学校の宿題を押し付けられる。一人では到底、終わらないと判断したドラえもんは、【タイムマシンを使って、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後それぞれの自分を連れてきて、五人で手分けして宿題を終わらせることを思いつく】

　2時間後のドラえもんの表情はやや困惑顔、8時間後のドラえもんに至ってはキレ気味だ。宿題を早く終わらせることだけしか考えていなかった【現時刻】のドラえもんは、8時間後の自分がなんでこんなにキレているのか理由がわからない。しかし、宿題が終わり押入れで眠り始めた後、その理由を痛いほど知ることになる。

　2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、、2時間毎に【自分】がタイムマシンでやってきて、宿題を手伝うように連れていかれるからだ。

　結局、ドラえもんはその晩、一睡もできなかった。

　以上である。

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　さて、ここで問題になるのは、タイムマシンという道具で、【同じ自分が5人も一堂に会している】ということである。現時刻の私が私だという唯一の存在だとすれば、現時刻においての他時刻の自分は私ではないということだろうか。

　もつひとつ、5人が集合している瞬間は、もちろん、それぞれがいた時刻において、一瞬、【私が不在】になる。

　生まれてから死ぬまで、【私】という存在には常に時の流れが付き纏っているわけであり、時が止まることは死を意味することになるのではなかろうか。

　また、数学的に効率というものを考えると、結局、2時間ごとに過去の自分に連れて行かれて一睡もできない、というのなら、最初から一人で宿題をやった方が効率が良かったのではないか？ということ。

　数多くのドラえもんの作品中、タイムマシンが活躍する物語はどちらかというと「おばあちゃんの思い出」に代表されるような感動話が多い。ところが、この「ドラえもんだらけ」は全く性質が違う。ただのナンセンスギャグとして笑っても良いし、「時間と私」について深く考えることができる貴重な物語でもある。

　そして、もしかしたら、タイムマシンによる時間旅行というものが将来的にも実現不可能であるということを帰納的に証明しようとしたのではないだろうか？