想田和弘 安倍政権による「民主主義の解体」が意味するもの⑧

●「共謀罪法案」と「国家安全保障基本法案」

そんな状況の中、近いうちに上程が予想され、警戒しなければならない法案のひとつは、「共謀罪法案」です。

共謀罪とは、犯罪を犯そうと具体的な準備をしたり、未遂したりしなくても、話し合っただけで罪に問えると言う処罰規定です。すでに成立した秘密保護法などにも含まれていますが、共謀罪法案では600以上もの犯罪について共謀罪の新設をすることが予想されています。

犯罪の成立の範囲が曖昧である上に、操作のため警察による市民の監視が強化される恐れもあり、共謀罪法案は『平成の治安維持法」と呼ばれてきました。過去3回も国会に上程されましたが、日本弁護士連合会から「我が国の刑事法体系の基本原則に矛盾し、基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれが高い」と猛反対されるなど、法曹界を中心に拒否反応が強く、いずれも廃案になりました。

ところが、安部政権は、このゾンビのような法案を復活させ、再上程することをひそかに目論んでいるのです。

「政府、共謀罪法案新設方針を伝達、国際機関にテロ対策で」
政府が、昨年夏に来日した国際機関の関係者に対し、殺人な重大犯罪の謀議に加わっただけで処罰対象となる「共謀罪」新設を含めたテロ対策の法整備を進めると伝えていたことが18日、分かった。(略)日本側は改正組織犯罪処罰法の成立など法整備に前向きな対応を約束したという。
(共同通信 2014年1月19日)

また、「国家安全保障基本法案」の上程も予想されます。同法案は、集団的自衛権の行使をする際の根拠法となるもので、自民党が野党だった2012年7月に案が示されました。第10条では、集団的自衛権の行使があたかも憲法違反ではないかのような前提で、「国際連合憲章に定められた自衛権の行使」について規定しています。

第10条(国際連合憲章に定められた自衛権の行使)
第2条第2項第4号の基本方針に基づき、我が国が自衛権を行使する場合には、以下の事項を遵守しなければならない。
一 我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力攻撃が発生した事態であること。
二 自衛権行使に当たって採った措置を、直ちに国際連合安全保障理事会に報告すること。
三 この措置は、国際連合安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置が講じられたときに終了すること。
四 一号に定める「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃については、その国に対する攻撃が我が国に対する攻撃とみなしうるに足る関係性があること。
五 一号に定める「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃については、当該被害国から我が国の支援についての要請があること。
六 自衛権行使は、我が国の安全を守るため必要やむを得ない限度として、かつ当該武力攻撃との均衡を失しないこと。
2 前項の権利の行使は、国会の適切な関与など、厳格な文民統制のもとに行わなければならない。

また、同法案には「教育」や「国民の義務」についても言及した条文も含まれています。

安倍政権が進める「教育委員会制度改革」などとの動きと合わせて考えれば、極めて不気味な条文です。

第3条(国及び地方公共団体の責務)(略)
2 国は、教育、科学技術、建設、運輸、通信その他の各分野において、安全保障上必要な配慮を払わなければならない。

第4条(国民の責務)
国民は、国の安全保障施策に協力し、我が国の安全保障の確保に寄与し、もって平和で安定した国際社会の努めるものとする。

ただし、安部政権は集団的自衛権嚆矢の根拠法として「国家安全保障基本法案」を通すのではなく、自衛隊法などの改定で対応する可能性も考えられます。その方がより目立たないし、抵抗が少ないとも予想されるからです。

いずれにせよ、これらの法案は日本という国家の進む道を大転換させる重大なものですが、先述したとおり、安部政権はその重大性を可能な限り低く見せつつ、なるべく議論をせずにすばやく教皇に国会を通そうとするでしょう。

そしてまことに残念ながら、与党に両院をコントロールされている上に、自民党内でも意見の多様性がほぼ失われているいま、彼らの行く手を拒むことは、極めて難しいといわざるをえません。それでも私たちはデモや集会や署名などを通じて強い反対の声を上げ、世論を喚起する努力をすべきですが、安部政権には民主的価値やプロセスを尊重するつもりなどないわけですから、相当の苦戦を覚悟すべきだと思います。

日本という国は、すでにファシズムを志向する勢力に支配されているのです。

(つづく)


内田樹・編「街場の憂国会議―日本はこれからどうなるのか― 安倍政権による「民主主義の解体」が意味するもの 想田和弘」

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