村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」 仕切り

あるいは世界というのは、回転扉みたいにただそこをくるくるとまわるだけのものではないのだろうか、と薄れかける意識のなかで彼はふと思った。その仕切りのどこに入るかというのは、ただ単に足の踏み出し方の問題に過ぎないのではないだろうか。ある仕切りの中に虎が存在しているし、別の仕切りの中には虎は存在していない・・・・・・要するにそれだけのことではあるまいか。そこには論理的な連続性はほとんどないのだ。そして連続性がないからこそ、選択肢などといったものも実際には意味をなさないのだ。自分が世界と世界とのずれをうまく感じることができないのは、そのためではあるまいか・・・・・・。でも彼の思考はそこまでしか進まなかった。それ以上深くものを考えることができなかった。身体の中の疲弊は濡れた毛布みたいに重く、息苦しかった。彼はもう何も思わず。ただ草の臭いをかぎ、ばったの羽音を聞き、自分の身体を膜のように覆っている陰の濃さを感じていた。

そしてやがて午後の深い眠りのなかに引き込まれていった。

村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」

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