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短編 「百年の愛の行方」



雷雨の夜に恋が生まれる、かどうかはわからないけれど、身体の関係には発展しやすい。

ああ、またこんな情緒のない書き出しになってしまった、だから神聖なるnoteの雰囲気を汚すなとあれほど注意されたのに懲りない。

男女の話ばっかりしてるからよくAV男優に間違われる。存在がいやらしいとか言われるし、男性ホルモン過多なんでしょうって頭皮見て言われる。頭皮は遺伝だから関係ない。呪うなら僕の父と、父の父と、父の(〜300世代前〜)アマ○ラス様のせい(諸事情により伏字)。

僕の誕生時の写真を見てほしい。生まれつきオデコが広い。オデコが広いのは世間が広い、とよく祖母がほめてくれた。いま思えば慰めなのか? 祖母は他界したのでわからない。残念ながら友達は数えるほどしかいない。

友達は数じゃない、中身だ、と思って生きてきたけど、みんな結婚してなかなか会えなくなって最近はさみしい。年賀状で子供たちの成長を見せてくれるけど、彼ら自身の姿はわからない。僕と同じように頭皮が危険的な状況にあるのかもしれない。砂漠化。止められない地球の温暖化。僕もふくめてみんな二十代のころは美男子だった。

歳をとることが残酷なら、人はその誕生から残酷だ。

なんてわかった風なことを言っても、「だからユッキーは理屈っぽくてモテないんだよ」と笑ってくれる友は近くにいない。だから僕はこうしてnoteにあげて慰めている。

もし祖母が生きていたら、なんて言うか?「ゆきちゃんはオデコが広くて、イケメンだから、もしお医者さんになってたら、モテて、モテて、大変だったろうねえ」おばあちゃんごめんね。お医者さんにはなれなかったけれど、何度も無職になったけれど、こうして元気に生きてるよ。

家庭環境が壊滅的だった幼少時代、僕を慰めてくれたのは祖母だけだった。さみしそうな目をした子供だったらしい。遠く離れて暮らしていた祖母はいち早くそれに気がつき、母に「もっと愛情を注いであげんと。情緒のない顔しとるよ」と忠告したらしいけど、当時二十代でまだ美人だった母は、生きるのに必死で聞き流した。

そんな母を責めない。当時の写真を見たらめっちゃ細くて、ウエストが52センチだったと今でも自慢する。身長は168センチだから、遠目で見たらモデルだ。ツイッギーに似ていた。歩くだけで口笛が鳴った。嬉しかったかといえばイヤだったと本人談。父だけが好きで、父だけを愛していたらしい。

母がツイッギー(顔は典子)なら、父はどうだったのか?

父は武だった。金城のほう。顔も身体も。モテた。彼もモテた。母がモデルなら父は俳優だった。資産家の末裔で一人っ子で自由奔放に育てられ、浮世離れしていて、自信家で、頭髪もまだ豊富で、当時は珍しいツイストパーマをかけていたからますます俳優みたいだった。

実際に繁華街でスカウトされて一本だけ映画に出て干された。監督にタメ口をきいたからだ。時代は昭和の年功序列。監督は神様で、神様にたてつく奴はどんな奴でも消される。父の映画は復刻版でDVDになったのを見たけど、確かに味があった。しゃべらなければ。

雷雨の夜に父は母をナンパして僕が生まれる。祖母は父を一目見て、とんでもない美男子だから母が苦労すると思って内心では大反対だった。そのまま反対を口にすれば良かったけれど、祖母は好きな人と結婚できないつらい時代の人だから、娘が連れてきた人に対してYESとしか言わないと決めていた。「典子、あなたが大好きなら、結婚しなさい」

結婚後の父は御多分にもれず暴君だった。資産家の一人息子の自信過剰の負けず嫌いの男尊女卑の金城武。時代は昭和だから父をも僕は責めない。昭和のモデルと昭和の俳優。二人とも二十代。母はあらゆる仕事をこなし、父はあらゆる放蕩の限りをつくす。

さすがに母は耐えられなくて3回家出するも3回とも連れ戻され、3回目の夜は雷雨だった。そして弟が生まれる。僕は医者になるよう仕向けられ挫折し、弟はサッカー選手になるようおだてられ頓挫する。

僕は高1の夏にかの有名なヘルマンヘッセの車輪の下を読んで涙を流して勉強を放棄。祖母の山奥の家に退避する。祖母は何も聞かずに「ゆきちゃんよくきたねえ、山菜しかないけど食べなね」と言って、緑色の食べ物ばかりをアレンジしてくれた。僕は泣かずに完食した。ゼンマイ、ふきのとう、ウド、わらび。

祖母はむかし東京に住んでいて、李香蘭に会ったことがあると話した。チンチン電車か何かで一緒になったらしい。李香蘭はGoogleに聞いたらとんでもない美少女だった。昭和の美少女には整形という奥の手がないから本当に美少女は美少女だ。祖母は残念ながら李香蘭には似ていないけれど、性格が可愛かったからよく求愛されたらしい。「ゆきちゃん。秋になると、昔を思い出して、いかんねえ。歳を取っても、青春時代は宝なんよ」しみじみと語る。

さてふと思ったけれど、こんな調子で母方の祖母の恋愛を語り、母方の祖父も語り、父方の祖父母も語ったら、あと何スクロールすればよいかわからないのでここで諦める。僕の話に戻る。

「ちょっと長かったけど、あなたの声が金城武に似てる理由は、わかった気がする」

きみは吉祥寺にある東京基地のリゾットを食べながら言う。地下にある隠れ家的なお店。僕はshandy gaffを一口飲んで黙る。酒に弱いのにもう5杯目。目の前にいる李香蘭にちょっとだけ似たきみの口説き方が思い出せない。どうでもいい女性なら適当に体に触れるけれど、たぶん君のことが本当に好きだ。隙のない顔も好き。抑揚のない声も。

「そろそろ、帰るね」ときみはトイレに立つ。僕はソファに一人。外が雷雨だったら良いけれどそんなに都合良くは運ばなくて、そらジローは秋晴れを連呼していた。でも、と僕は思う。恋に必要なのは雷雨ではなくて、夜でもなくて、アルコールでもなくて、性欲でもなくて、さみしさだ。

二人で店を出て、階段の途中で、さみしい、と訴える。ただ素直にさみしいと。目は子供のころと同じだった。さみしいから一緒にいてほしい。きみは上から、僕の目を見る。「からかわないで」と笑う。でも僕はここを動かない。「何もしないから朝までいて。夜の長さに耐えられない」

きみも黙る。別のカップルが降りてきて、僕らを見ぬ振りして、通り過ぎる。きみが沈黙に負ける。「わかった。家まで送る。でもちゃんと、一人で寝てね」

東京基地から少し歩いたところのアパートにきみと帰る。僕は強制的にベッドで横になり、きみはソファで始発を待つ。あと3時間半。僕はアルコールのせいでついうっかりとまどろんでしまう。

目を開けたら外は雷雨だった。きみはカーテン越しに窓の外を見ている。僕は隣にいく。暗く沈んだ顔に、涙の跡がある。理由は聞かない。大人が泣く理由は子供よりもずっと多いからだ。



愛や恋や恋愛の歌は、世界中にあふれている。ほとんどそればかりだと言ってもいい。生の絶望。死の恐怖。それらも愛や恋や恋愛があれば、いっときだけでも忘れることができる。神様は己に似せて人間をつくったらしいけど、神様ももしかしたらさみしかったのかもしれない。

「さみしい」そのたった一言が素直に言えれば、雷雨は必要ないし、神様も世界をつくらずに済んだのかもしれない。




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