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「短編小説集」

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自作の短編小説集です。キャバクラ からファンダジーまで。作品によって幅があるので、気に入っていただけるものがあると嬉しいです。
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2019年12月の記事一覧

【小説】 「悪いのは全部、君だと思ってた」

渋谷のスクランブル交差点で対峙した時、もはや僕に勝ち目はなかった。 Qフロントの真下に彼女がいる。僕は渋谷駅の前、スクランブル交差点を挟んで彼女の真正面に立っている。立ちつくしている、といった方が正しいかもしれない。僕には取れる選択肢が僅かしかない。手に汗をかいている余裕もなかった。 信号が青に変わる瞬間、待ち切れない大勢の人がいっせいに僕の左右から流れていく。 人の波が僕の視線を遮っても、彼女は消えない。そこにあり続けて、何十人、何百人の群れの中でも、じっと僕だけを見

【短編】 「胡蝶の夢の蝶」

麻薬の王様は今も昔もヘロインで、名前の由来はヒーローからきている。 発売当初は英雄として迎えられた薬だ。第二次世界大戦までは普通に薬局で販売していた。 そういえば覚醒剤もヒロポンとして戦後しばらくは店頭で売られていたし、コカコーラの原料はコカインだったし(発売当初のキャッチコピーは「おいしく・さわやか」)、マリファナは世界中で合法化の波が押し寄せている。 つまり、薬物は時代によって合法だったり違法だったりする。いま処方されている向精神薬も将来は違法薬物に指定されるかもし

【短編小説】 「幼稚園児が女の子にモテる秘訣を本気で解説します。」

生まれ落ちた瞬間からスマホを渡された世代としては、6歳児にしてnoteを書くなんて耳目を集めることではない。 同い年はみんなフリック入力ができる。ひらがなの筆記体の方が難しくて、僕も「ぬ」と「ね」がいまいち上手く書けないけど、スマホがあれば漢字まで余裕で打てる。 初めてツイートしたのは生後3ヶ月。 母のスマホから打ち込んだ「なかたたあはらか」という一文だ。ドラクエのふっかつのじゅもんではなくて、僕が入力したツイート。記念すべき画面を母はスクショしてて、今でもたまに見せて

短編 「シュガー・ハイ」

僕が初めてクスリをやったのは大学1年の夏だった。 当時、大学から徒歩30秒の寮に住んでいた。あまりにも近いから、家に帰るのが面倒な友達がよく泊まりにきた。たとえば同じ経営学部のトモミとか。 男が二人集まって深夜に何をしていたかといえばクスリ、ではなくて、ぷよぷよだった。 ぷよぷよ、というのは同じ絵柄のキャラを揃えて消すゲームで、テトリスみたいなもの。対戦モードでプレイすると、負けた方が即座にコンテニューを押すので勝負は延々と終わらない。 一晩中やり続けて100戦50勝